タイトル:【虐】 虐待派虐待
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初投稿日時:2008/11/03-02:16:48修正日時:2008/11/03-02:16:48
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 虐待派虐待

※塩補より

08/10/13(月)07:26:22 No.44762006 del

    >内容が想像できないんだけど
    テンプレ通り虐待派の青年が真夜中の公園でヒャハーって虐待してると、
    DQNに絡まれてイジめられるって内容が多いかもしれん
    ぶっちゃけ何も楽しくない 

ってあったんだけど、読んだ覚えがないのでちょっと呼び水に書いてみることにしました。
久しぶりの実装スクだぜ、ヒャッホウ!
前もって警告しときますんで、読みたくない人は読まないほうがいいですよ(マジ)
















 1.

 夜中の公園に一人の男が居た。
 彼はとしゆき。
 ごくごくまっとうな虐待派だ。
 普段はあまり表に出ない、というか、はっきり言ってしまえば引きこもりな彼だが、やんごとなき事情により、
どうしても、こうして公園に赴かざるを得なくなったのだ。

 一ヶ月前。
 中年に差し掛かり、腹も出始めたとしゆきを扶養していた父親が、たまたま外に出てきたニートにホームから突き落とされ
たのだ。
生命保険を解約し、老後の備えとして頑なに守りつづけた貯金も取り崩して、家庭内の暴君たる虐待派のとしあきを扶養しつ
づけてきた一家にとって、大黒柱である父親の死は余りにもダメージが大きかった。
 ニートはすぐに捕まり、その親族を相手取った補償交渉もはじまってはいたが、すぐに金が手に入るというものでもない。
伴侶を失って茫然自失としていた母親を殴り飛ばして交渉の席に赴かせたとしゆきは、あてが外れてますます暴れた。

「カネは! カネはどこにあるんだよ! カネだよ! さっさ持って来いよ!!」

 母親が金策に東奔西走する間も、としゆきは家の壁を殴り、風呂のタイルを殴り、トイレの壁紙を剥ぎ、強化ガラスを蹴り
飛ばして暴れ回った。

「クソ親父の葬式なんぞにカネ使いすぎなんだよ! どうすんだよオイ! もう実装石買えねーじゃねぇか!」

 母親に買いにいかせた上手い棒をバリボリと貪りながら、いつ死んだのかも定かではない、何匹目になるかも分からない実
装石の死体を踏み躙りながら、その腹をタプリ、タプリと揺らすとしゆき。
 母親はそんな息子の狂態を、焦点の定まらぬ目でぼんやりと見つめるだけだった。

 いくら喚いても埒のあかないことに業を煮やしたとしゆきは、この2年、ロクに出ることもなかった外へ飛び出した。
 外は既にとっぷりと日が暮れていたが、2年も部屋に閉じこもっていたとしゆきは、玄関を開けた瞬間、光の塊が押し寄せ
てくるような錯覚に陥った。
 一瞬、眩しさに目を閉じて、手のひらをかざす。
 恐る恐る目を開けると、そこには夕飯時の閑静な住宅街が広がっているだけだった。チッ、と舌打ちすると、適当にクツを
突っ掛けて−母親の女物のサンダルしかなかったのだが−、としゆきは門を出た。

 としゆきが実装石の虐待にはまったのは、引き篭もりになってからだった。
 ネットで流行っている実装石虐待。それがどんなものかと思い、ためしにネット通販で実装石を買ったのがはじまりだ。
まだネット上でのペットの売買にたいした規制のない、良い時代だった。今だって実装石の通販にかかる規制は
「動物だか人形だかわからねぇ訳のわからんナマモノ」
 ということでだいぶ緩いのだが、その当時は「虐待目的」をあからさまにして買うことだって不可能じゃなかった。
 最初のうちは愛らしい仔実装と戯れていたが、クソを漏らした仔実装を握り潰した瞬間から、彼は虐待に目覚めてしまった。

 削り、殴り、刻み、焼き、甚振り、詰り、殺す。
 思いつくかぎりの虐待はどれも試した。消費した実装石は、100匹を超えたあたりから数えるのをやめた。
 ブログこそ立ち上げなかったが、ネットで同好の士の集まる掲示板にその日の戦果を書き込むのも日課になった。

 とことんのめり込んでいた実装石虐待だが、ある日、としゆきは同好の士の集まる掲示板で諌められた。
「実装石虐待、あんまりおおっぴらにひけらかすのは止めろ」と。
 彼には訳がわからなかった。
 同じように実装石をいたぶって喜んでるのではないのか?
 同じように実装石の泣き喚くさまを見るのが楽しいのではないのか?

 としゆきは「実装石虐待」を標榜する掲示板ばかりではなく、「実装石」と名のつくコミュニティや掲示板にせっせと「出張」
しては、戦果を自慢していた。彼自身はそのことに何の疑問も抱いていない。
 実装石とは虐待されて然るべきものであって、それ以外の利用価値などないというのは、彼にとっては自明の理だったから
だ。
 だが、それは同じく虐待を嗜むものにとっても異端の思想であった。
 彼のあまりにも無邪気であっけらかんとした虐待は、「実装石虐待」の世界でも浮いていた。
 ほの暗い、地下室のかび臭さの漂ってくるような、そんな後ろめたさと背徳感がない交ぜになったカタルシスが、としゆき
の虐待には決定的に欠けていたのだ。
 彼の虐待そのものはいかにも趣向を凝らしてあって、たしかに大掛かりではあったが、それだけだ。
 一部の同好の士は「底が浅い」と指摘していたが、まさにそのとおりだろう。

 としゆきの虐待には「どうやって実装石を殺すか」しかない。
 多くの虐待の同好の士が持つ「何故、自分は実装石を殺すのが楽しいのか」という探求が全くない。
 生命を断つ、その行為に対する後ろめたさを覚えながらも、それでも実装石を潰さずにはいられない——、多かれ少なかれ
そうした切迫した空気が、虐待の同好の士−虐待紳士−たちにはある。
 だが、としゆきにはそれがない。実装石がいたら潰す、という反射行動のようなものだ。良心の呵責も何もない。その行動
に伴う感情といえば、せいぜいが射精感に喩えられる程度のもの。

 新奇なオナニーは最初こそ受けは良くても、やがて飽きられるのは必然。
 としゆきは、虐待の同好の士の居る掲示板では相手にされなくなり始めた。どんなに大掛かりな仕掛けで実装石を潰しても、
誰からも相手にされない。
 その寂しさゆえに、としゆきは徐々に「普通の」実装石掲示板や実装石コミュニティにまで進出していったのだ。
 相手が実装石なだけに、ガチの愛護派だけで固められた掲示板やコミュニティというのは思いのほか少ない。
 としゆきはその虐待のギミックの複雑さ・馬鹿馬鹿しさで、デビュー当初こそそれなりに脚光を浴びる。管理人から諌めら
れても、同調してくれる画面の向こうの見知らぬパートナーが支援してくれるもの、と勝手に思い込んでいるので、その行動
は止まる事がない。

 そこで、多くのそうしたとしゆきの「爆撃」に晒された掲示板・コミュニティから、彼の出撃元である虐待同好掲示板へと
苦情が寄せられることになり、そこの住人から諌められることになった、というのが大まかな流れなのだが、彼自身にとって
は思いもよらない攻撃であった。

 今までさんざん無視してきたくせに、クチ開いたと思えばそれかよ!
 キーボードを叩き壊し、もう半年は洗っていない髪を掻き毟るとしゆき。キーボードが壊れてしまったため反撃できない鬱
憤から、買い置きの実装石を、久々に素手で殺してそのストレスを発散する。
 その頃には、既に彼はギミック虐待に関してかなりのレベルに達しており、その虐待装置を手に入れるために自分の金では
ない、父親の稼いできた金を湯水のごとく浪費していた。

 虐待装置の中でのたうち回りながらブザマに死ぬ実装石もいいが、掌に伝わる実装石の事切れる感触もまた、たまらない。
としゆきは久々に素手で実装石を潰したカタルシスに、しばしストレスを忘れ、階下からママゴハンを持ってきた母親を叱り
飛ばして新たなキーボードを調達に行かせた。

 としゆきの引き篭もりの後半一年間は、ずっとこんな調子だった。
 新しい実装石コミュニティやら掲示板が出来るたびに虐待画像とともにせっせと出張しては、ホームグラウンドである虐待
同好掲示板の住人から諌められ、ぶち切れてヒートアップ、そしてしばらくの停滞の後、ふたたび出張に赴く。
 最初のうちこそ彼を止めようとしていた住人たちも、何度も何度も同じことを繰り返すだけのとしゆきにさすがに呆れて、
一人去り、二人去り……彼の手によって活動停止に追い込まれたコミュニティや掲示板もいくつかあった。
 めんどうなことに、としゆきが最初にホームグラウンドとした虐待同好掲示板は強権的な管理能力を持つ管理人がおらず(
居たとしても、ほとんど姿を表さず)、彼は管理人から注意されたわけではないのだから、俺は間違っていない、とますます
その姿勢を硬化させ、先鋭化させていった。
 一時期、彼の支持者(と思っていた画面の向こうの人々)のために、としゆき自身が実装石虐待サイトを立ち上げたことも
あったが、本人の想像を裏切る反応の薄さ、本人自身のやる気のなさ、などですぐに放置されてしまった。
 ここでとしゆきが、自身がサイトを立ち上げても誰も付いてこなかった、という現実で目が醒めてくれればよかったものの、
そんなに簡単に現実と向き合うことが出来るのなら苦労はしない。そもそもひきこもりにもなっていなかっただろう。

 けっきょく、としゆきは実装石虐待にはまってから、なんら進歩することもなく、無為に時を過ごして2年近い歳月を喪っ
たのである。
 彼が最初に居着いた虐待同好掲示板では、初期のメンバーがさまざまな理由で虐待から身を引くか、虐待を続けながらも彼
の存在に嫌気が差して掲示板から去るなどしていたが、としゆきだけは、そこに留まりつづけた。
 としゆきの昔を知るものも少なくなったことから、彼は古参の住人としてでかいツラをすることが出来るようになった。
 掲示板で綺羅星のごとく皆の注目を集めていた虐待紳士たちがいた頃は、媚び諂うことしか出来なかったとしゆきにとって、
この状況は天国に近い。
 実情は、ネット上のみとはいえ、としゆきを知るものがほとんどすべて彼を見放しただけだったのだが、彼にとっては邪魔
者が居なくなった、という認識しかない。
 現状の掲示板でも、彼の底の浅い虐待には、嘲笑まじりの賞賛が送られることのほうが多い。8割方が皮肉まじりの褒め言
葉であっても、としゆきには、それは届かない。彼にとってそれは心からの賛美が送られていると認識されているのだ。

 ひきこもりの2年間。その間にとしゆきが構築したのは、端から見ればむなしい実装の王国だった。ネット上にしか存在し
ない、いやネット上においてもそれは王国と呼びうるかどうか怪しい。何しろ彼は誰からも敬意を払われてはいないのだから。
 それでも、彼にはもはやそれしか残されていなかった。

 今さら現実に立ち戻ることも出来ない。
 現実にはただ虐げられるだけの毎日。
 ひきこもり中年デブに、リアルは冷たい。

 それくらいのことは、としゆきにも分かっていた。
 ……だからこそ、彼は公園に出て行かざるを得なかった。

 公園で実装石を調達して、虐待する。その模様を掲示板で披露して、また脚光を浴びる。

 それだけが、いまの彼を支えていた。



 2.

 夜の公園は静まり返っていた。
 蝉もとうに消えうせ、鈴虫もそろそろ大人しくなる季節だ。
 公園に響くのは、点在するダンボールハウスから響く、軽くくぐもった実装石の歯軋りの音くらいか。
 虐待派のとしゆきは、手近にあったダンボールハウスの蓋を開いた。
 中では一方の隅に仔実装が群れ、もう片方の壁に寄りかかるように、親実装が眠っていた。
 普段からストレス発散に使われているのか、仔実装の一匹は不自然に顔が膨れ上がっていた。
 駄目だ。
 彼が望むような実装石ではなかった。
 としゆきは持ってきたバー(ryで親実装を潰し、仔実装を捻り潰していく。悲鳴を上げることなく、命が崩れていく。
 愛情の感じられない実装家族だったが、やはり実装石を潰すのは楽しい。
 履き慣れぬ母親のサンダルからかかとをはみ出しながら、チョコチョコと歩いて次のダンボールハウスを物色する虐待派。

「よっしゃ!」
 
 3個目のダンボールハウスで、彼はお目当ての「愛情深い実装親仔」を発見した。仔実装が一匹、親実装が一匹。数は少な
いが、その分、仔実装が愛情をいっぱいに受けて育てられているのが伝わってくる。
 仔実装を固く抱きしめる母親の手には、仔実装もまた手を添えている。お互いの温もりを少しでも分けあい、冷え込みの増
してきた公園の夜を少しでも凌ごうとするその姿は、まさしく愛情ある実装家族のものであった。
 逸るあまり呼吸の荒くなってきた彼は、実装親仔を起こさないように、そっとダンボールハウスの蓋を閉じて、フゥ、と深
呼吸をする。
 ふたたびダンボールハウスを抱え上げようとしゃがみ込んだ時、背後から声をかけられた。

「おい」

 振り向こうとした、としゆきの頬が焼けた。何が起こったのか分からないまま地面に転がる。口の中に血の味が広がり始め、
焼けたかのように熱かった頬に痛みが広がっていく。
 頬に手をやる暇もなく、としゆきは顔面を踏みつけられた。切れた唇の傷に地面の砂が染みる。

「なにやってんだ、アンタ?」

 スニーカーでとしゆきの頬を踏み躙りながら、顔の見えない相手は言った。意外に若いのだろうか、声が高い。
 ぐっ、と力をいれて踏みつけた後、としゆきを踏んでいた男は、としゆきの顔から足をどけた。
 耳たぶを思い切り踏まれたとしゆきが情けない声を上げて、身をよじって逃げた。

 ……としゆきを踏んだのは、若い男だった。としあきが立ち上がる間、スニーカーの先を手で払っている。
(あれで俺を蹴りやがったのか)
 としゆきは顔がかっと赤くなるのを感じたが、何も言えずにいた。2年間のひきこもり生活。そのブランクが、彼を一時的
な失語症の状態にしていた。じっと男を睨みつけるだけだ。

 若い男はスニーカーの汚れを払い終わると、汚いものでも見るかのような視線をとしゆきに投げかけてきた。
「アンタ、虐待派か?」
 そう尋ねたものの、若い男はとしゆきの答えを期待していたわけではないらしい。としゆきからはすぐに目を離して、とし
ゆきが目をつけていたダンボールハウスの蓋をあけて、実装石の無事を確かめている。
 
 今日は日が悪い、そう思ったとしゆきは頬を抑えながらその場を後にしようとして——、後ろから飛び蹴りを喰らった。
「なに逃げようとしてんだよ、オイ」
 顔面から地面に転がったとしゆきの背に飛び乗るようにして、若い男が踏みつける。顔面をこすった痛み、背骨を圧迫する
痛み、それら諸々の痛みがない交ぜになってとしゆきを苛み、おもわず彼は潰れた蛙のような悲鳴を漏らした。

「うわ、きったね。
 オイ、ヒトの実装石潰しておいて、逃げられると思ってんのか?」

 としゆきの髪を引っ張り上げた若い男がその脂ぎった髪に露骨に顔を顰めながら言った。無理矢理振り向かされた格好でそ
の言葉を聞いたとしゆきが混乱する。

 ヒトの実装石?
 この実装石どもは公園の野良実装石だろうが!
 なに言ってんだこのクソ馬鹿は!!

 髪を引っ張られ、ブザマに倒れたままのとしゆきの頭の中を、ありとあらゆる罵倒語が埋め尽くす。しかしながら、それは
一つとして口から漏れることはない。2年間、母親以外の人間と口を利かなかったとしゆきは、うまく口を開くことすら不可
能になっていたのだ。


「その辺にしておきなさい」
 無言のまま睨みつけるだけのとしゆきを、掴んだ髪を引っ張り上げ、さらに殴ろうと構えていた若い男を制止する声が響く。

「「」さん。分かりましたよ」
 若い男は髪を掴んでいた手を放すと、しぶしぶといった様子でとしゆきから離れた。
 若い男を制した男は、初老の紳士だった。公園の外灯のおぼろな光に照らされて、表情はよく見えないものの、柔和そうな
印象を与える男だった。
 「」と呼ばれたその紳士は、若い男を促して、としゆきが立ち上がるのに手を貸させた。若い男は3ヶ月近く着替えしてい
ないとしゆきのあまりの臭さに「くせぇ」「死ね」「実装石のほうがマシ」とさんざん愚痴を吐いたが、それでもとしゆきがベン
チに座るまで肩を貸してやった。
 としゆきにとっては訳の分からない展開だった。一方的に蹴られ、殴られたかと思えば、その相手から助けられた。なにが
どうなっているのか、さっぱり分からない。
 事の成り行きの読めないとしゆきを置いてきぼりにして、初老の紳士は言った。

「ここが愛護公園なのは、知らんのですかのぅ?」

 としゆきは耳を疑った。愛護公園? なんだそれは?

「……どうも知らなかったようですねぇ。
 もしかして、この街は初めてでらっしゃる?」
「そんなわけないっしょ「」さん。この男めちゃくちゃくっさいですよ。たぶんヒキコモリです、ヒキコモリ虐待派。
 さいきん多いんすよ、リアルがうまく行かないから実装石にあたってるだけのショボ介。
 たぶん、ヒキコモリすぎてプチ浦島になってるんですよ」

 「」と呼ばれた紳士がとしゆきに質問を投げかけるのを遮って、若い男が答えた。としゆきは反論したかったが、何も言い
返せない。口がロクに動かないのだ。ようやく言葉は出そうな気がしていたが、口の中を切ったせいか、痛くて口があけられ
ない。
せいぜい首を横に振って、否定の意思を示すだけだ。

「けど、この人は違うって言いたいみたいですよ。「」さん」
 「」と呼ばれた紳士が、若い男に言った。
 どうなっている? 二人とも「」なのか?

「まあ、どっちにしろ、ルール違反はルール違反ですからね。こいつ2組も潰してますよ。どっちも見込み薄だったけど」
 若いほうの「」は、つまらなそうに答えた。
 それを聞いた「」紳士の方は、意外そうな顔をして、としゆきを見つめてきた。

「ほぅ? そうなのかい、アナタ?
 そりゃあいけないなぁ。知らなかったとはいえ、ペナルティですよ」
 ニコニコと笑っていた「」紳士だが、目が笑っていない。としゆきはその迫力に押されて、つい頷いてしまった。

「ああ……ホントに潰したんですねぇ」
 心底残念そうに「」紳士はは呟いた後、握り締めた拳を、としゆきの若い「」に痛めつけられたのとは反対の頬に打ちつけ
た。
 ベンチから吹っ飛ぶとしゆき。「」紳士の信じがたいほどの膂力が、2年間でかなり重くなったはずのとしゆきの体をベン
チから引き剥がした。 
 ふたたび地面に這いつくばることになったとしゆきの顔面を「」紳士の革靴が踏み締める。その間に若い「」が両手を縛り上
げるのが、意識の薄れ掛けたとしゆきにも分かった。
 薄れ掛けた意識を引き戻すかのような、先ほどとは一変したドスの効いた声で、「」紳士が囁いた。

「ここの実装石はな、若いの。
 みんな、みぃんな虐待紳士が「上げて落とす」ために飼ってるんだよ、分かるか?
 横から出てきて「落とし」だけ楽しむなんて真似はな……」

 「」紳士が足に力を込める。としゆきの踏まれている方の歯が砕け、頭に火花が飛び散った。のた打ち回りたいのだが、両手
は既に縛られている。足をじたばたとさせてもがくと、今度は若い男は足を拘束にかかった。

「落としだけ楽しむなんて真似はな……、絶対に許さないよ♪」

「」紳士はうそ寒い感触を与える笑みを浮かべると、一気に足を踏み抜いた。折れた歯がとしゆきの口中いっぱいに広がり、
頬に、舌に、歯茎に突き刺さる。としゆきは激痛のあまり失禁し、気絶した。



3.

 としゆきが目を覚ましたのは、暗い林だった。
 手足は拘束されたままだったが、そんなことより、歯が、顎が、顔全体の痛みがどうしようもなく酷い。耐え難い。
 としゆきは痛みのあまりさめざめと泣き出した。ホントは大声を上げ号泣したい、絶叫したい。しかし、あまりの痛みに口
が開けない。口内の感触を舌で確かめようとするたびに、折れた歯の剥き出しになった神経にあたり、痛みが脳天を突き抜け
る。
切れた口の中からは鉄の味のする苦い血がとめどなく溢れ、それを吐き出さなければ詰まった鼻だけではとても呼吸できない
ので、どうしても口を開かなければならない。
 僅かに口をあけて、だらだらと血と唾液の混じった体液を吐き戻しながら、何とか鼻の通りを確保しようと鼻の根元に力を
入れるとしゆきの前に、ふたたび、あの二人が現れた。

「それじゃあ、ここでお別れです。
 殺しはしません。もう二度とあの公園で実装石を弄ろうなどと考えないように。
 あの公園の実装石を殺すのも、生かすのも、我々虐待紳士の胸先ひとつです。
 アナタのような中途半端な人間に、あの公園の実装石を虐待する資格などないのですよ、虐待正義クン」

 半ば閉じかけていたとしゆきの目が見開かれる。虐待正義とは、1年程前に彼に与えられた称号だ。
 なぜコイツが、「」紳士がそれを知っているのか?
 痛みの底で疑問が渦巻くが、それを遮るように今度は若い「」の言葉が降ってきた。

「アンタのことは調べさせてもらったよ。筋金入りのクサレだな、アンタ。
 アンタみたいなのがいるから、虐待派は叩かれるんだろうな。
 ま、もっとも、虐待派なんて後ろめたさがなけりゃ楽しさも半減だからな。
 その辺は別に文句言うつもりはねぇんだけど、アンタのせいで虐待派=ヒキコモリニート、って思われるのは心外だわ」

 言いながら、若い「」は両手足の拘束を解いていく。どうやら、本当に殺すつもりはないようだ。
 ボロボロになったとしゆきは、それでも命は助かるという安堵感で、一気に弛緩し、脱糞した。体じゅうの孔という孔が緩
み、目からはとめどなく涙が溢れてくる。

「うわ、くっせ。くっさいのがますますくさくなったぜ。
 アンタまるで実装石だぜ」
 若い「」は慌ててとしゆきから飛びのくと、悪態を吐きながらとしゆきの顔面にツバを吐いた。としゆきの顔面にヒットし
たツバはそのまま泥と混じって半開きの唇からとしゆきに飲み込まれていったが、としゆきにはその屈辱に震えるほどの余裕
もなかった。生きられる、それだけでもう十分だった。

「鳴けよ」
 としゆきの視界が、突如暗転する。頭蓋の中には星が飛んでいた。気付く間もなく、第2撃。
 としゆきのあまりに浅ましい姿に堪えきれなくなったのか、「」紳士がしゃがみ込んでとしゆきの顔面を殴りつけていた。

「鳴けよ」もう一度殴りつける。
「鳴けよ」さらに殴りつける。
「鳴けよ。実装石」思い切り殴りつける。

 唇はボロボロに破れ、鼻もひしゃげてしまったとしゆきを、なおも殴ろうとする「」紳士を、若い「」が血相を変えて止め
る。

「やめてください、「」さん!
 相手は人間ですよ!」

 羽交い絞めにされ、ようやく大人しくなった「」紳士は、罰の悪そうな顔をして、若い「」に謝った。

「……悪い。
 あまり長いこと虐待に浸るもんじゃないですな……
 時々自分でもおかしくなっちまいそうなのが」
「それは俺もおんなじッスよ。だからお互いブレーキかけられるように、でしょう?」

 「」らには彼らなりの事情もあるのだろう。だが、いま林の湿った土の上に横たわるとしゆきにとって、それはたいした問
題ではなかった。
 顔面はほてっているが、体がやけに震える。うまく認識できないが、生命の危険だけは感じていた。これ以上殴られること
はない、おぼろげにそれは分かっても、震えは止まらなかった。
 そんな彼の上に、毛布がかけられる。若い「」だった。

「じゃあな。もう二度とすんなよ。
 おまえの家に連絡入れといたから、そのうち迎えがくるだろ。
 俺たちのこと警察に喋ってもいいけど、まあヒキコモリと紳士、連中がどっちを信じるかは、分かるよな?」

 若い「」が何かを言っている。
 そのことはとしゆきにも分かったが、いったい何を言っているのか、それを理解するだけの意識は残っていなかった。
 顔面を中心に体を突き抜ける痛みと、その体の表面を申し訳程度に包み込む温かみの中で、としゆきの意識は徐々に薄れて
いった。


 
 4.

 その後。
 けっきょくとしゆきは家に戻ることは出来なかった。
 「」はたしかに、としゆきの家に連絡を、留守電を入れていた。
 だが、それを聞く者はいなかった。
 それを聞くはずだったとしゆきの母親は、夫を失い、もはや家庭内の暴君を一人では御し得ないという将来に悲観して、鴨
居に首を吊って自害していたのだ。
 としゆきは、その後意識を取り戻したが、そこから動くことはなく、母の迎えを待った。
 死を目前に控えてなお、彼はみずからその未来を切り開こうとは考えなかった。「」たちは連絡を入れたと言っていた。そ
れならば母親が迎えに来て当然である。おぼつかない、途切れ途切れの意識の中で、彼はそう頑なに信じていた。
 死ぬその時まで、その場に蹲り、毛布を被ったまま動かなかったとしゆき。
 半年後、春の目覚めとともに、異臭に気付いた住人がそれを発見した。

 意外に車の通りの多い、林を抜ける市道は、そこからわずか20メートルほどしか離れていなかった。


  END















後書き

いや、書いてて苦痛でした。マジで。
DQNじゃなくて紳士にしたら少しはマシになるかな、と思ったけど、ますます痛くなったですよ。
というか塩補で上がっていたような

    テンプレ通り虐待派の青年が真夜中の公園でヒャハーって虐待してると、
    DQNに絡まれてイジめられるって内容が多いかもしれん

ってなスク、読んだ覚えがないんですが、どっかに上がってるんですかね?
これ多分、読むほうも楽しくないだろうけど、書くほうも楽しくないよ。洒落でなしに。
こういうのを嬉々として書く奴はちょっと病んでるんじゃないかな、と思いました。

チュッチュ。

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