タイトル:【観?虐】 ニセモノの詩・ホンモノの唄 1
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初投稿日時:2008/11/01-16:37:31修正日時:2008/11/01-16:37:31
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ニセモノの詩(うた)、ホンモノの唄(うた)

開幕 〜巡るめく想い出の詩〜 忘却の円舞曲(ロンド)

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『それじゃコロちゃん、気を付けて行ってくるんですよ』

「デースゥ♪」
「「テチテチテッチャ〜♪」」「「レフレフレッフ〜♪」」

着飾った服に身を包んだ実装石の親仔が玄関先で手を振ると、
見送りの飼い主が家の中に戻り、パタンと戸を閉めた。

親仔は何気ない日常の中、いつもの通りに家族揃っての散歩を楽しむ。

仔実装達は、仔実装の頭に付けられたリボンと同じ色のリボンを尻尾に付けた蛆実装を、
それぞれ自分の押すウジクーター(蛆実装ベースのキックボード状デスクーター)の前籠に乗せていた。

蛆実装には、やはりリボンと同色の紐がついた首輪が付けられいた。

「ウジイチちゃん、お散歩テチュ」「レフレフ〜」
「ウジニちゃん、大人しくしているテチュ」「レッフー、お空レフ」
「ウジサンちゃん、ケンカはダメテッチ」「レヒレヒ、くすぐったいレフ♪」

蛆実装も飾ってあれば当然、実装石達も着飾ってある。

普通の実装服のデザインを崩さない中にもアレンジのある服に糊のきいた大きめの涎掛け。
仔実装達には不釣り合いに大きな肩掛けの実装顔ポーチ。
足にも、普通の緑の布長靴ではなく、茶色のローファーパンプスに白い靴下だ。

「用意は出来たデスゥ?」

親実装は門の前で、片手でシュッシュとスプレーを首周りに吹き付けるとそれを仕舞いながら確認する。

「「出来たテチュ〜ン♪」」片足を蛆クーターにのせた仔達の元気な返事が帰ってくる。

デデデデデ…
レレレレレ…

エンジン音を響かせ、親仔は道路の端をトロトロと縦列で走り出した。
何気ない、ほぼ毎日行っている日常の一コマである。

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公園の一角、草むらの中に置かれた崩れかけのダンボール。
すっかり水分を吸ったり乾いたりを繰り返し、形を保つのも精一杯なヨレヨレのダンボールの中。

只でさえ狭い部屋の三分の一を占拠する貯められて腐った生ゴミと、中で漏らして取りきれない糞。
洗っていない身体の垢もこぼれ落ちては染みついて、さらに湿気で繁殖したカビの臭いが入り交じる空間。
そこに住むに相応しいゴミと見間違う身成の実装石親仔が、生気のない目でダラダラとしていた。

「デスゥ… もうニンゲンは居ないデス?  タラコちゃん、外を見るデス…」

壁沿いでダラリと足を投げ出し、締まりのない顔で、
クチャクチャと蛆虫が湧いた変色したキャベツの葉を、蛆虫ごとはみながら親実装が命令する。

「テチャ… ママが見ればイイテチ…    面倒テチ」

命じられた仔実装は仔実装で、何をするでもなく親と同じような姿勢でうつらうつらとしていた。
それを邪魔され、やや不満気味に反抗する。

「ワタシの方が面倒デス! オマエのソバに覗き窓があるデス! 立ち上がって見るだけデス!!」

親も、全くやる気がない姿勢のまま怒鳴りつけると、
仔実装は渋々と立ち上がって、ダンボールの持ち手の穴を覗き込む。

「もう、さっきのニンゲンは居ないテチ。 ワタシ達は何度こんな目に遭えばイイテチ?  テェェェ…」

仔実装は最後にため息を漏らす。


そのため息に、親実装も他の仔達も、部屋を見回したり自分の身成を見てはため息を漏らす。


何日も…
同じ事の繰り返し。

人間に怯え、さらには散歩の飼い実装の襲撃にも怯える日々…。


昔は公園を我が物顔で闊歩していた野良達。
いや、大量の野良が我が物顔で占拠する事で、呆れて駆除すら入らなかった公園。

虐待派が公園を派手に襲う事は度々あった。
だが、大量虐殺に至るほど派手な虐待派の襲撃の頻度は多くなく、
既に飽和状態の中から目立つ者から減らされるだけ。
その後には虐待派の派手な行動はしばらく控えられ、その間に損害は大量の仔が生まれ育つ事で回復する。

人間は物をくれ、害をもたらさないと思える事が多く、実装石達は無防備に人間に向かって行けた。

しかし、今までにない大規模駆除の後、日中、人間が出入りするようになった事で、
物忘れが激しい実装石でも人間を見れば駆除業者を意識する事で、今度は実装石の行動の自由が制限された。
何より、出産場所たる公衆トイレに定期的な清掃が入ると、野良実装はジワジワと数を減らした。

トイレの水槽タンクに特殊な薬品を入れる様になり、
便器の水が、そこに産み落とされ浸かった仔に発育不良の害を与える様になったのだ。

それに続いて追い打ちを掛けるのは、飼い実装の闊歩である。

公園に手が入ったのも、元々はこの飼い実装に害が及ばないようにと言う配慮がなされてであるから、
全ての元凶とも言える物であるが、それを野良実装が知る術はない。


だが、飼い実装が散歩する様になると、彼らが野良実装に直接的脅威となる。

野良の数が多い頃は、それでもお互いに牽制し合うだけであったし、
全てが全て、相手が飼い実装だから、野良だからと互いに話が通じない程に攻撃的な訳ではない。
だが、野良が衰退して数と力のバランスが崩れると、それは飼い実装の娯楽の為という側面を持ち始める。

こうして公園の野良実装は、それらを生き延びられる程度に半端に賢い者達が多く、
あらゆる物が驚異と感じられ活動できなくなったのである。


外に出る機会すら少ない為に、まともに餌をねだりに行く事も取りに行く事も出来ずに。
この親仔の様に、少ない機会にゴミを出来る限り取ってきて家の中に溜め込む者ですら飢餓に苦しんだ。
家を建て直したり修理する材料を探しに行く事も出来ない。
身体を洗いに行く水場のあてなど無い。


ただ、毎日が家の中ですら恐怖に怯えるだけで、する事のない日々をゴミと腐臭にまみれ過ごすだけ。

今となっては新天地を探す冒険にでる考えなどもってのほかだ。


それが、親仔のため息の原因である。


今日も、久しぶりに外に出て近所でめぼしい備蓄食の補充と家の材料を探していたのを、
虐待派のニンゲンに見つかり全力で逃げ帰ってきた所である。

大きい長女と次女が捕まり、他にも2匹が公園に逃げ込んだ後にはぐれた。
彼女達の基準では、今のこの状況の公園で、親である自分とはぐれたという事は確実な死を意味する。

「テチ…テッ!…テェェェェ  今、ワカメお姉ちゃんが走っていったテチ」

「デス!ニンゲンに捕まったワカメが生きているデス!?」
親実装の目が気力を取り戻す。


ワカメは、家族の中では中実装に近いまでに成長したサザエ期待の仔であった。

しかし、今朝、ワカメが運悪く最初にそのニンゲンに見つかり、
もう1匹、同じ実装齢のカツオが助けに行こうとして2匹とも捕獲された。


先にマスオという同じ実装齢の仔も居たが、既に数日前に飼い実装達に捕まって公開処刑されていた。


サザエにとっては、手足となる期待をして中実装まで育った3匹…。
それをここ数日で一気に失い、まさに両手をもがれた気持ちだった。

だが、人間に捕まっても生きていられるとすれば…  その可能性を目の当たりに出来れば、
まだ、意を決して皆でこの公園から離れ新天地まで旅が出来る可能性を見いだせると信じていた。

そこに確証は存在しないが、何か大きな行動を起こすためには、
自分で出来る範疇以外の… 例えばカミサマに加護を受けていると感じられるような幸運…。

”きっかけ”が欲しかったのだ。


「禿裸で、頭にロウソクとか言うのが刺さって火が点いていたテチ… 服の切れ端抱えて泣いて走り回っていたテチ」

「デェェェェ…」親実装は、浮かせた腰をペタリと落とした。

やはり、人間に遭って、犠牲無しで逃げるのは不可能だと絶望した。

公園から旅立ったとして、それら脅威との遭遇確率が高い今、
いや、サザエ達がそう錯覚しているだけなのだが。
下手をすれば、それによって自身の死も避けられないと言う絶望の壁に閉じこめられた。


カミサマに護られている気になるほどの幸運ではなく、見放されると感じるほどの不幸しかない。

内に篭もるだけの”きっかけ”しかサザエには用意されて居なかった。


「このお家、臭くてたまらんテチ…」
「もう何日も、ちゃんとした物を食べてないテチ…  こんな臭いゴハンは飽き飽きテチュ」

多少日が過ぎた程度の物では文句を言わない仔達ですら、臭い不味いと不満を漏らす程腐った食べ物ばかり。

脳のないに等しい蛆実装だけが、レフレフと元気に食い続け丸々と太りきっていた。

トイレの薬品の所為で、最近苦労して1回産み落とした仔は全て蛆実装以上に成長していない。
弱く動きが鈍い為に連れて歩けず、ひたすら家の中で餌を食べ続け、身体を太らせるしか能がない蛆実装。

それだけに、偶に仔実装達が我慢できずに餌にする。

親実装は、流石に家族喰いだけは避けるべきと厳しく戒めもしていたが、
今生き残っているのは、親実装が監視できる少数…4匹だけである。

それすらも、生き残っているだけであり、守れていると言うわけではない。

カツオとワカメ以外に、今朝、人間から逃げるときにはぐれた2匹の仔実装のうちの1匹が、
やたらと愛情が強く生まれたのか、蛆実装をちゃんと妹と認識し、
何を言っているか判らない鳴き声だけですら区別が出来るという役に立たない特技を持って、
この蛆達を懸命に世話し、サザエが監視できない間を守ってきたのもあって蛆達は存在を許されていた。

ソレが無い今となっては、サザエの目だけでは1匹も守れはしないだろうと感じていた。

守る気力も無くなっていた。


「ワタシだって食べたいデス… ワザワザ、ワタシの為に柔らかく煮込んだジッソウフード…
 デザートには腐っていない果物、オヤツにはジャーキーがあたっていたデス」

親実装は、首に付いている垢に汚れた首輪をさすりながら呟く…。
その言葉に、仔実装達は曇った目で涎を垂らす。

親実装はいつしか、いつものように昔を語りながら経緯をさかのぼって現実から目を背けた。

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サザエ…  そう名付けられた飼い実装が居た。

何不自由ない暮らしの中で沢山の仔を産み、楽しく仲良く幸せに生活を謳歌していた。

マスオ、カツオ、ワカメ、タラコ、イクラ、タイコ、ナミヘイ、フネ…
沢山産み落とし、その褒美に沢山の仔が手元に残され、みんな名前を付けて貰って…  幸せだった。

それが、ある日… いつもの散歩に飼い主が行けないと言い出した。

家を離れられない用事があると… 今日だけだから我慢して… と。

それに不満な一家は駄々を捏ねた。


そのあまりの駄々に、仕方なく飼い主は家族だけで散歩に行く事を許した。

その頃の散歩は飼い主がリードを付けての同伴が基本マナーである。

野良の数も多く、虐待派も派手に行動し、普通の人には飼いと野良の区別は付かず。
飼い実装にとって、その存在の認知度的にも治安的にも危ない時期であったが、
守られていたサザエにはそれが理解できなかった。


思い起こせば、あの時に我が儘を言わなければ、サザエはココには居なかった。

だが、その時には毎日当たり前のように与えられていた事を一つとして我慢する事は出来なかった。


そして、お決まりのように世間の厳しさに翻弄されたサザエは、
全てを奪われた挙げ句に絶望と無力さを背負わされ、野良の世界に放置されたのだ。

それでもサザエは飼い主の元に戻る為と、泥水を啜り、ゴミを食べて一匹で生き抜いた。
飼い主の家…  我が家を探し危険な町中を彷徨った。

そうする内に、生きる為に身を守る一番の方法としてダンボールハウスを作り、
それにより移動範囲が狭まり、一所に居た方が慣れにより身の安全が高まると知ると、
ただ今日という日を生きる為だけに生きているようになっていた。


元々、それなりに賢かったサザエは、野良の生活を身につけて賢く立ち振る舞い生き抜いた。
厳しい生活の中、生きる為に物事の諦めも少しは出来るようになっていたのだ。


飼い実装に戻る事は、自分の命よりは大切ではないと諦める事が…。


お利口さん… 人間からそう言われた頃の知能や礼儀、出で立ちは見る影もなくなった。

それでも、野良の中では利口で博識で、贅沢な生活ができた。
他より丈夫な家を建て、古くなると建て替えたりして安全なねぐらを持てた。

その頃の公園の生活は、同族同士の諍いがあるとは言え、それらは立ち振る舞いによって回避も出来た。
生きる為に野良で居る諦めをしたサザエには、そのルールを覚えるのは難しくなかった。

同じゴミでも、まだ新鮮な物、それを日々、満足する程度を手に入れれば充分だったし、
何日も日が経ってしまった、本当のゴミは食べ物と思わなくても良かった。

水場は賑わい、トイレも賑わい、混雑する中にも彼らなりの秩序はあった。
公園内を闊歩し、ひなたぼっこをする事も、危険を差し引いた範囲で自由意思に出来た。

新しい仔にも恵まれ、昔付けて貰って覚えている名前を順に仔に与えていた。

仔は時に失われるが、確実に手元に残る仔もいるし、すぐに次の仔が生まれた。

もう、飼い実装に戻るという目的など忘れ去られ。
たまに思い出しても、再び、その心に火が点く程の物ではなくなっていた。

それでも、今は野良としての厳しくも平穏な日々を過ごし、
生きている内に仔達を立派に育てて1匹でも多く独り立ちさせたいという目標は残った。

いや、そもそも、自分が死ぬという観点すら失われつつある程に安定した日々を過ごしていたのだ。

それが再び、瓦解したのだ。
忘れつつあった、死の恐怖に晒される事で…。

日常の変化に気が付いて、早めにこの公園を諦めれば良かった…。
そう何度思っても、それは後の祭り。 サザエには容易に安定した生活を捨てるという思考が出来なかった。

そうしている内に、臭く、暗い空間に閉じこもり、外の恐怖と飢えの恐怖の天秤の中。
気力も失い、腐った食事でも食える事にだけ安心する自分達がいた…。

名前を付けた仔達は、今日の事で、もう3匹しか残っていない。

苦労して危険を冒し出産しても、取り上げる仔は役立たずの蛆実装ばかり…。
名前を与える気にもなれない。それでも我が仔と手元に置くも、健常な仔の餌になるのがオチである。

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「レヒィィィィィ…レピィ!  レピパァ、ピァァァァァァァ…」

蛆実装の悲鳴に親実装は我に返る。

ゴミに飽きた仔達が食べ物の話で刺激され、またも蛆実装の1匹を奪い合って、引き裂いて食べ合っていた。


親実装は今ある現実に涙を流した。


食べ物の話だけで家族を平気で殺せる我が仔達…。
必至に守っても喰われるだけの蛆実装…。

見た目は肥えているが、まともな運動もせず部屋のゴミばかりを喰い、
この命の危機に際しても、まともな抵抗の言葉も話せずに悲鳴だけで死んでいく蛆実装。

それを見向きもせずに、ただ目の前に口に触れる物を喰うだけの他の蛆実装…。

同じ蛆実装でも少し前の蛆実装は、もっと言葉を話し家族を理解してくれた。

只でさえ低脳な上に、今の彼らは「プニプニ シテ」以外のまともな単語は話せない。

普通に生まれる蛆実装でも、何も教えなくても多少の単語を使い会話が成り立つ。
それすら出来ないどころか、ただ喰うだけの生活で退化していくのが親実装にも理解できた。

”こんなモノを我が仔と言えと言うのか!?”
口には出さないが、最近はそう自問自答するようになっていた。

その程度のモノしか産めない、育てられない自分自身と環境という現実。
何より、蛆実装だけでなく健常な仔、そして、自分自身も同じに退化している実感。
無力な現実が何よりも実装石という生き物を苦しめ、それが理解できる者をさらに苦しめる。

親実装は、もはや「ヤメルデス」という一言も出ないままに通り過ぎ、
さっきまでタラコの座っていた場所にドカっと腰を降ろすと、
一枚隔てた別世界の晴れ渡る外の光景を覗き穴から見つめた。


気力のない曇った目で…。


「お天気の良い日はミンナでお家の中のお掃除デス♪  毎日キレイキレイは良い事デス」
そう言っていたのは、もう遙か以前の事に感じられた。

親実装は汚れ澱んだ室内を一瞥すると、現実を見るのを避けるように再び外の景色を見た。

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デデデデ…デスゥン
レレレレ…レフン

いつものように公園内の舗装された道をデスクーターで周回した実装石親仔は、
いつもの場所にデスクーターを停めて芝生に向かって歩き出した。

「今日もいいお天気デス♪」
そう言いながら親実装は背負ったリュックを降ろし、中から布を取りだして芝生に拡げる。

「コロさん、これからオヤツデスゥ? ワタシ達は食べ終わって帰るところデス」
散歩で顔見知りの飼い実装が話し掛けてくる。

その実装石に続く仔達は、1本のビニール紐を引いていた。
その紐の先には薄汚れた肌の仔実装が、髪を毟られ服を破られた姿で四つん這いになって引きずられていた。

「今日は物欲しそうな連中が居たので楽しかったデス。 仔達もイッパイ遊んで満足だったデス」

「テチュテチュ… さっさと歩くテチ、このウスノロブタテチ」
「ブーブー鳴くテチ」

「テェェェェェェ… テェェェェェ…  ママ…ママァ…」
「ママじゃないテチ! ブヒブヒテチュ!!  オマエタチはウンチから生まれる生まれながらのゲボクテチュ」

パチンパチンと実装石護身用実装タタキを振るう仔実装達。
野良の仔は、すでにその尻が2倍に腫れ上がり、さらに、破裂したように皮膚が裂け、肉が剥き出しとなり、
今の尻を上げた姿勢から足を動かす事すら困難だ。

飼い主を連れずにこの公園に散歩に来る実装石達の一番の娯楽が、生き残りの野良達を虐待する事だ。

最初はさげすみ集団で笑い見下す程度だったモノが、
組織的な反撃能力を喪失しているのが判ると肉体に危害を加えるようになり、
野良の数が少なくなると、もはやハンティングのような娯楽になったのだ。

大抵は、この公園に流れてきたばかりの新参者が餌食になるのが殆んどであるが、
そうした流れ者が少ない日などは、公園を巡って外に出ている者を探し、時には餌でおびき寄せる事もする。

面倒で反撃の危険がある(中に入ってしまうと助けを呼べない)ダンボールハウスへの攻撃はなかったが、
すっかり数を減らし篭もる生き残り野良達に痺れを切らし、それにすら手を付ける事も増えていた。

それだけに、もはや野良達が飼い実装に捕まれば惨殺は決定事項なのである。

「テチャチャ、本当に臭くて汚くてプライドの欠片もないテチ… クズのクズテチュー」

その親仔が歩いてきた先には、動かない何匹かの仔実装が散々たる状態で放置されていた。


すっかり野良が数を減らした公園では飼い実装は神の如くに振る舞える。
数の暴力に加え、人間に守られたり、人間から与えられた護身用具があるからだ。

人間が同行しなくても良くなった環境の所為で、
飼い実装達は、普段、本能を押さえて大人しくしているストレス発散の為に暴走に近い姿を晒していた。

「ニンゲンを連れていないなら、良ければ、このクズで遊ぶデス?」

「いえ、遠慮しておくデス。 ウチの仔達は賢くないデス… ニンゲンさんにヤバンがバレてしまうデス…」

「それは残念デス…   コイツは帰り道に引きずって途中で捨てるデス♪」
「「賛成テチィー!! ドブ流しがコイツの身分に相応しいショケイテッチュ〜ン♪」」

その親仔は、紐を親のデスクーターに結びつけると、
「デチャァァァァァァ…」という野良仔の悲鳴を引きずって去っていった。

親実装はホッと胸を撫で下ろした。

お付き合いの為に、我が仔は頭が悪いと低姿勢の返答をしたが、
コロは野良をいたぶり殺して楽しむという風習は野蛮で悪い事と教えていた。

内心では、そんな遊びをして浮かれる方が馬鹿と思っているのであるが、
実装付き合いで下手に相手を刺激して機嫌を損ねるわけにも行かないから返事を選ばねばならない。

コロ達一家が目指す理想の姿は、実装教育ビデオに描かれた”セレブ実装”として可愛がられる事だ。

ビデオの中のようなセレブになれば、階段を上るように環境が変わっていくモノだと信じていた。
作法を覚えていけば、自然に、より贅沢な飼い主の家に住んで可愛がられるハズだと信じて…。

「ママ、ワタシおバカテチ?」

「違うデス… あんな野蛮な事をするのは野良と変わらないデス。  馬鹿はアイツらデス。
 でも、本当に賢いセレブちゃんは”シャコウマナー”と言うのを身につけるデス。
 ワタシ達、ニンゲンに飼われているセレブちゃん同士は勿論、
 おナカマさん、それもカワイソウなおナカマさん(野良)とすらケンカしてはいけないお約束があるデス。
 だから、シャコウジレイと言う言葉を使って相手に譲るのが本当に賢いセレブちゃんなのデス。
 今は判らなくてもオマエも立派なセレブちゃんになる為に使えるようになるデス」

「シャコウジレイ語はニンゲンさん語より難しいテチ?  おトイレのルールとかより難しいテチ?」
「テェー、ママこそセレブちゃんテチ。 シャコウマナーを知っているテチ、シャコウジレイ語使えるテチュ!」
「ワタシ達もママみたいにセレブちゃんになるテチュ!!」

一家は、そんな他愛もない話をしながら、暖かい日差しの中、持ってきたオヤツに舌鼓を打つ。

食事が終わると、仔達は自らが連れている蛆実装のリードを引いて芝生の上を歩き回る。

「ウジイチちゃん、昨日のお花が開いているテチ」
「レフレフ、お花レフ、お花レフ、でもウジちゃんプニプニが好きレフ…  ウピピ、ウンチョでるレフ♪」

この仔達が連れている蛆実装は、コロから生まれた仔ではない。
人間に飼われ、生命的なストレスから無縁で栄養状態も良い実装石からは、先天的な蛆実装は生まれにくい。

代を重ねたペット種は生命的危機から縁遠い為に出産数が極端に少なくなり、
その分の栄養が行き渡った健常な仔である確率が高まる。
出産数が少ないという事は、出産パニックによる膜の取り遅れの後天的な蛆実装になる確率も少ない。


元々、蛆実装はその知能の低さと弱さ故に健常体の実装石からは、
一応家族の認識ではありながらペット、下手をすれば保存食扱いである。

半端な知能と生物的に弱い実装石にとっては、力でも知恵でも御せる存在というのは数少なく、
かつ、その歪んだ性格・精神構造の中でも、心を許せる形のコミュニケーションが取れる生き物となると、
要件を全て満たすのが、同属同種で異端な蛆や親指実装に行き着いてしまうから仕方がない。

そして、飼いの中でもペット実装にとって蛆実装が生まれにくい環境にあるだけに、
家族としてではなく物珍しいペットとして蛆実装が認識されている。

仔実装に害をなさないで、仔実装が取り扱えて、様々な世話をする事を覚える為の情操教育玩具…。
そして、それを買って貰えて、飼える自分というステータスにも箔を付ける。

「レフー、レフー、うじちゃんポンポイッパイレフ おウンチレフ」
「ウジニちゃん、芝生でおウンチはマナー違反テチ… まったくウジニちゃんはいつまでたってもおバカテチ」
尻尾をピッと持ち上げ、ピュッピュと糞を漏らす蛆実装の尻を、
こまめに拭き取りながらも呆れを口に出す仔実装。

「レフレフレフ、レフレフー♪ おもしろいレフ、おいしそうレッフ、食べるレフ。 レピャ! イタイレフ、イタイレフ」
「ウジサンちゃん、またムシさんとケンカしてるテチ、ダメテチッ!」
毛虫に食らいつこうとして、刺されて泣く蛆を、やや乱暴にリードを引いて引き離し歩く向きを変える。

異常に忙しなく世話を焼きながらも、仔実装達は優越感に満たされており、
その姿は親仔のようであり、姉妹のようである中にも、しっかりと自己満足の主従格差や余所余所しさもある。

本当の家族ならば、もう少し扱いが甘くなり、結果的に蛆実装は馬鹿なままでも生きられると感じるが、
そこまでの情がない為、蛆実装自身もその耳かき一杯分も無い脳味噌で、
頻繁に自分を可愛くアピールし、コミュニケーションを取って身を守る事を考えなければならない。


「チコちゃん、あんまり離れてはイケナイデス。
 リンちゃん、お花のそばで転がって遊んではダメデス。
 ベスちゃん、そんなに引っ張るとウジサンちゃんの首が折れるデス」

「「ハイテチュ、ママ」」「「レフー♪ レフー♪」」

だが、それだけに端から見れば、その立ち振る舞いは、
本物の家族以上に和気藹々と欠点のない幸せだけが強調された家族の姿である。

そのまさに幸せ絶頂な家族の時間を、うらやましく見つめる目があった。

草むらに置かれた、腐ったダンボール箱の中から見つめる赤と緑の目が…。

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「あいつらは、あんなに幸せそうなのに…。
 ワタシ達と何の違いもない家族なのに、何が違うというのデス!!」

大きな怒鳴り声ではない…  むしろ、声を殺してあるのだが、
それだけに低く、唸るようで殺気すら篭もった口調で親実装が独り言を言うと、
今までにない殺気孕んだ声に、仔実装達がビクン!と痙攣するように動きを止める。

そして、それが自分達に向けられた物ではないと理解すると、
恐怖心を和らげる為に、抱き心地の良い蛆実装をそれぞれに抱えて、怯えながら親実装の傍にやってくる。

自分に向けられては居ないと思いながらも、
何かの拍子に、今行った家族である蛆実装喰いを咎められるのではないかという気持ちが、
持っていれば殴られない… と、無意識に蛆を抱かせてもいた。

「テッ  テ  ママ、ワタシ、ウジちゃんと仲良しテチ…」「レフゥ、レフレフレフゥ」
場の空気のあまりの殺気に、思わず仔実装も何も聞かれていないのに勝手に弁明を始める。

しかし、親実装の目はそんな3匹の仔の姿を一瞥する事すらなかった。

「着飾った服。 キレイな服。 リュックにポーチにデスクーター。
 家族と楽しくオヤツを食べて、遊び回って、ひなたぼっこ…。
 全部、ワタシも持っていたデス! ワタシが持っていたデス! ワタシの物だったデス!!」

親実装は、完全に自分の世界に入っていた。
目の回り、いや、顔全体の肉がヒクヒクと痙攣し醜悪に歪む。

そのブツブツと唸る親実装の姿に、仔実装達もおそるおそる家に空いた隙間からそれを見る。

「キレイな服で、オヤツ片手にウジちゃんとお散歩テチ…」
「リボン付けてるテチ… ウジちゃん如きにもリボン付けてるテチ…」
「なんで、あんなに楽しそうに遊べるテチ… あんな事していたら普通は死なされるテチュ…  ありえないテチ」

そんな光景は何度も見てきた仔実装達は、出歩けてそうした飼い実装達とすれ違っていた頃でも、
そして、今のこのブタ小屋に篭もって眺めるしか無い状態でも、
うらやましくは思っても、親の手前、安易に思ったままを口にする事はなかったし、
口にしたとしても、それはある種の本能的な反射行動で短い一言程度でしかなかった。

しかし、今、仔実装達が見たままを思わず口にした中には、
明らかに、今までにない本当に”羨ましい”という感情が乗っていた。

親実装も、仔実装も、野良としてそれなりに平穏に過ごしていた時期から、
一転して自分達が追い込まれた逃げる事も叶わない環境…。

それに抑圧され続けた日々の鬱憤が蓄積の限界を超えたのだ。

そして、それは実装石の本能的な歪んだ思考によって、
必要以上の願望に転換され、勝手に自身の価値をその願望を得るに相応しい地位に押し上げる。

その妄想は、当然、それらが全て存在しない現実によって貶められ、それによって思考が自重で崩壊する。


そして、自らの非を一切否定する実装石は、全ての責任を自分以外に求めはじめる。

行き着く結末は… 狂気に等しい限度を知らぬ 嫉み、 恨み、 怒り…。

「不公平デス… ワタシは何もしていないのにヒドイ目に遭って、こんな野良にされたデス。
 アイツらは何デス…  能天気にひなたぼっこ…  支配者ヅラデス!
 それはワタシが居座っているべき地位デス! 笑っていられるのはこんなに苦労したワタシのハズデス!
 苦しんだワタシが、どうして何一つ望む物が手に入らないデス?   手に入らなければウソデス」

特に親実装は、飼い実装から堕ちた身だけに、野良に慣れ飼い主の元に戻る事を諦めたはずの心に、
その嫉妬心が、煮えたぎるマグマの如くにジワジワと沸き起こり、心という容器から溢れ出ていた。

野良の環境に慣れ、諦めが効いたのは、小手先の工夫さえすれば抑圧が少なく命の危機も少なかったからだ。
だが、今は彼女に思いつく事は全て無駄で、座して待つ死の影は日々大きくなるばかり。
もはや、過去の幻想に逃避するか他人に責任を負わせて恨むしかなかったのだ。

飼い実装に戻る為と足掻いていた頃の願望や、野良に落とされたときの憎しみ、飼われていた頃の妄想に逃げ。
それを奪ったのは彼らなのだと恨むしか…。


「アレはワタシデス… ワ タ シ の デ ス …」

親実装は、狭い部屋の中、ムクリと立ち上がった。

その瞳は狂気の炎が揺れている。

「マ、ママ?!」
「ママなにをするテッチ?!」
「テテテ!お外は危ないテチュ!!」

「丁度、アイツらはワタシ達と同じ数デス…  これこそ”テンノコエ”というヤツデス…。
 カミサマがワタシに戻れと言っているデス…  贅沢な暮らしに戻れと言っているデス。
 アレはワタシ達なのデス!! ワタシ達の今居るココはヤツらの席デス!!」

知能が低い仔実装でも、その瞬間に、親実装が何をしようとしているかが理解できた。
言葉以上に、そして、その知能の理解能力以上に、場の空気がそれを語り理解させた。

仔の1匹は思わずペタリと腰を落として漏らしだし、他の仔も立ってはいるが足に緑の筋が流れ出ていた。

「テ、テ…  ママ… 無理テチ  アイツら殺すと、ニンゲンが怒るって言ったのはママテチ」
「アイツらのブキは怖いテチ… 痛いテチ…     勝ち目なんか無いテチュ」
「テェェェェェェン ママ怖いテチ   ちぬのイヤテチュ  怖いテチィー」

「カミサマの言う事に逆らうデスゥ!?  カミサマがアイツらと入れ替われと言っているデス!
 ワタシ達とまったく同じモノがあそこに用意されたデス! こんな偶然は無いデス!
 まさにカミサマがワタシ達の為に用意してくれたデスッ!
 だから、失敗なんかあるわけがないデス! ワタシのする事はカミサマに認められるデス!
 ワタシのする事がカミサマデス!   ワタシがカミサマデス!
 ワタシが飼い実装に戻ると言えば戻れるデス!」

狂気…
それが、身の丈を知っていたはずのサザエすらも、これほどに壊してしまった。

いや、それは全ての実装石が元から背負っている罪そのものである。


仔実装達は家を出る親実装の姿を見送り、蛆実装を抱えたままお互いを見やり、
短い時間で決断しなければならなかった。

親実装に付いていくか、このまま、この家に籠もり続けるか…。

家に篭もる方が目先は安全ではある。
だが親を失い、仔実装だけでは、この公園、家に閉じこもっている限りは飢え死にを待つばかりである。

何より、親実装によって突きつけられた現実によって、
仔実装も、今の状況を打開するには行動しかないという気になっていた。

珍しく、目先より少しだけ先を考えさせたのだ。

仔実装も、この嫌気が差した家を飛び出していた。

その先にあるのは、野良としての平穏な日常を飛び越えた、理想郷が待っているはずであった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

散策に飽きたリンが戻ってきた。
「ママ、おジュース無くなったテチ、分けて欲しいテチュ…」

「リンちゃん、オマエは飲み過ぎデス… 制限しないとおデブになってセレブちゃんになれないデス」

「太るのイヤテチ、ルームランナーイヤテチュ。 でもおジュース甘くてウマイテチ、こんだけじゃ飲み足りないテチィ。
 テチィ!  違うテチ! ワタシじゃないテチュ、ウジニちゃんが全部飲んじゃうから足りないんテチ」

「レッレッ、ウジちゃんノドカラカラレフ… 動けないレフ…  お姉ちゃんお水レフ、お水レフ」

小学生以下の嘘だが、仔には甘いコロは自分の水筒を差し出す。

「ウジニちゃんが干涸らびそうそうデス…  ちゃんと分けるデス」
「はーいテチュ、ママ」
「レピピッ!アンマァ〜レフ もっとレフ、もっとレフ、欲しいレフ、レェェェェェェン」

リンは、蛆実装に一口だけ飲み物を与えると、再び水筒を独占した。


「テェー…  ママ、ウジサンちゃんが動かなくなったテチ… ”また壊れちゃった”テチュ」

ベスが、紫になって舌を垂らした蛆実装をズルズルと引きずってくる。
既に首が折れ、首輪を支点に首と胴体がくの字を描いて引きずられていた。

「オマエはいつも強く引っ張り過ぎデス… もっと蛆ちゃんの動きに合わせてやるデス」

「テェー、それじゃワタシが遊べないテチュ… ママ、またウジちゃん買って貰ってテッチュ!
 今度は、お隣のピーコちゃんの見たいに手足だけ長くなるウジちゃんが欲しいテチィ!
 アレはきっと最新型テチュ!  羨ましいテチ〜。
 きっとミンナ持ってるテチ、持ってないと恥テチュ!  それならちゃんと可愛がるテチュ♪」

「あれはグウゼンとか言うヤツデス。  蛆ちゃんの育ち方は決められないデス。
 ご主人様には新しい蛆ちゃんを頼むから我慢するデス」

「は〜いテチュ、ママ」

「それにしてもチコちゃんは何処に行ったデス?  いつもながら遠くに行きすぎデス…」

コロは辺りを見渡すがチコの姿は視界に無い。
それでもいつもの事だけに何も心配はしていなかった。

「チコお姉ちゃんは毎日テチ、それより引っ張るウジちゃん居なくて暇テチュ〜。
 ママ、ボール遊びするテッチュ〜♪」

「判ったデス、リンもそのぐらいにして汗を流すデス」
親実装はリンの水筒を置かせ、低皿にその水筒の中身を満たすと蛆実装に与えてリンの手を引く。

「テェ〜、運動イヤテチ、汗ならイッパイ出たテチュ」
そう口では言うが、甘えの一種で、徹底した反抗もなく笑顔で親に追従する。

全てが、満たされている証であった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

チコは、家族からかなり離れた場所、少し草の背が高い所に潜り込んでいた。

そして、スカートを上品にめくり上げながら、周りを窺い「テチテチ」とパンツを降ろししゃがむ。

「ここなら誰も見てないテチ…。
 イイテチ? セレブちゃんはおウンチするところなんて家族以外に見られちゃダメなんテチ。
 ウジイチちゃんは歩いている時もおウンチしちゃうテチ、チコは顔から火が出る程恥ずかしいテチ」

プピッ… プスー… プピプピ…

音を激しく出さないように意識して排泄口周りの肉を締め、少しずつ糞を垂らす。
ポトポトと細長い糞や細切れの糞が、ガスの音と共に落ちていく。
実装石の肉体構造からはなかなかに難しい事ではあるが、チコは努力でその難しい作法を実践できていた。

全ては母親が理想とするセレブに、長女である自分が、より早く近付く為の地味で真面目な努力であり、
チコはその努力だけは怠らないだけの、実装石としては高い知能レベルがあった。


そうしながら蛆実装を抱え上げ、そのお腹を軽く揉む。

「ウジイチちゃんも今のうちに出しておくテチ… セレブちゃんの持ち物に相応しいウジちゃんになるテチュ♪」

「レピピッ!プニレフ、レピャピャ! プニフ〜プニフ〜♪ もっとレフ! たまらんレフ、プニフでウンチ出るレフ〜〜〜」

プピ〜、プスプス、プピプピプピ…
ピッピッ、ピュ〜〜〜〜

「ウジイチちゃん、声が大きいテチ! 誰かに見つかったらイッショウのハジで生きていけないテッチュ!!」
「プニフ、プニフ、レヒレヒ♪ これぞ至高のプニフレフ、もうおウンチョとまらんレフ、逝くレフ、絶頂レフ♪」

ガサ… ガサガサ

「!!」
仔実装は間近で揺れる草に、ビクン!と硬直する。

しかし、只でさえ実装石が排便を止めるのは困難なのに、
身体が硬直した反面、排泄口への意識が薄れ、少しずつ出そうと制限した分が反動で一気に噴き出した。

ビチィ!ブチブチブチ!

激しい音と共に飛び散る糞尿。

実装石は機能の簡素化で糞尿を同時にしか排泄できないし、
感情によって即座にその尿やガスの比率が変化し、
ストレス下では軟便、恐慌下ではほぼ液状化した通称、ビチ糞になってしまう。

今、チコは通常排便中の驚きで、急に尿分とガス分が多くなった為に、
その普通の糞と共に、後から湧くビチ糞が追いついて同時排泄された。
押さえた普通の糞が抵抗になってビチ糞が排泄口の脇からスプレーの様に拡散し飛び散る。

「テチャ!!」

靴や足に飛沫が飛び散り、思わず声を上げたとき、ガサっと側面の草が割れ実装石が顔を出す。

「デププププ… イッショウのハジデスゥ? 生きていけないデスゥ?」
「テチャチャチャ…」 「テププププ…」 「テピャピャピャ…」

ガサガサと反対側、後ろ側、そして前からも草を掻き分け、蛆実装を抱えた仔実装が現れる。

チコはキョロキョロと、その現れる同族を見ては「テチャ!  テリャリャ!!」と懸命に便意を止めようと力む。
しかし、驚いた感情の高ぶりやストレスを本能が排泄の快感で和らげようとして糞が止まらない状態だ。

「まったく、何処のお嬢様デス?  堂々と醜い音を立てて盛大にウンコをしているのはデス?」
「テチャチャ… 全く、酷い大音響テッチ… 恥も外聞もない迷惑さテチュ、どこからでも聞こえるテチ」
「テププ、 全く、酷い臭いテッチ… 何を喰ったらこんなに酷い臭いになるテチ? 何処にいても臭うテチュ」
「テキャキャ! 全く、こんな場所で… こんなに大量に野グソとは本当に恥ずかしいテチ、誰が見ても恥テチュ」

「「恥テチ、恥テチ」」

その実装石達は、チコからみれば、その排泄物より鼻が曲がる程の臭いと、
糞まみれより酷い有様の、見間違う事なき醜い野良であったが、
排泄姿を見られたという驚きと、次々と浴びせられる罵声に正常な判断を失った。

「見ないでテチィ! 見ないでテチィ!  レディのトイレを覗くのは失礼テチィ!」
「レフ!? プニプニ中に急に動くとウジちゃんビックリレフ… 何レフ? クサイミニクイのが前にいるレフ?」
チコは、両手で持った蛆実装を眼前に持っていき、それで顔を隠すと叫んだ。

止まらない糞が、なおもビチビチビチと排泄されている。

「ここは公共の場所デス…  そんな場所でウンコを見せているのはどちらデス?
 そんな大音響で臭いウンコをしてたら、姿を隠しても見せているのと同じデスゥ。
 まったく恥ずかしいったらありはしないデス… ワタシなら恥ずかしくて死んでしまうデス。
 なのにオマエは、死んでないデスゥ♪   口だけお上品ならドコの野良でも言えるデス」

「死ぬんじゃないテチィ?」
「本当のセレブちゃんなら、死んで当然テチ」
「ウジちゃん、あんな恥さらしを見たらウンコマンが染っちゃうテチ。  汚らわしいテチュー」

「「ウンコ見せのヘンタイテチ、ロシュツキョウが居るテッチュ♪ 居るテッチュ〜♪」」

「テ、テテ、テ…」

パチャ!

チコは両手で持った蛆実装を手放すと、手を自分の耳に伸ばし耳を塞ごうとする。
手放された蛆実装は、その糞の海に落ちた。

「レフー! クサイレフ! おウンチョレフ、おウンチョばっかりレフ! ウジちゃんおウンチョで溺れるレフ〜」

ペット実装用のペットとして同等な環境で飼われた蛆実装にとっては、
仔実装の糞が、調整された食事を採って数段ましな臭いになっていても糞は糞である。

「テピャピャピャピャ! やっぱりオマエの糞は臭いテチ。 たまらん臭さテチ、ウジちゃんが苦しむ程臭いテチ」

「イヤテチ、チガウテチ、チガウテチ」

「オマエのウンコはクサクサウンコテチ、ワタシ達はキレイウンコテチ、ウジちゃんも食べられるテッチュ〜」
1匹の仔実装がブリッと排便し、その近くに蛆実装を降ろすと、蛆実装は「レフレフ♪」とそれを食べ始める。

普通に考えれば、実装石が糞を喰らう喰わせるのはセレブ実装なら絶対にしない低俗な行為だ。
それに幾ら蛆実装とはいえ、普段から喰い慣れていなければ、どんな糞でもさすがに嫌う。

だが、今の状況ではチコに正常な判断は出来ない。

ただ短絡的に、自分の糞は臭くて馬鹿な蛆実装すら嫌うが、
向こうの糞は、蛆実装が食べられる程にキレイなのだと感じた。

そう感じるように、嘲りが四方から絶え間なく聞こえる。

「チガウテチ… チガウテチ… チガウテチ」

「何がチガウテチ?  自分の姿を見るテチ、足下がウンチまみれテチュ、着飾ってもウンコまみれテチ。
 何処の野良ならそんなはしたない糞の仕方が出来るテチ?  テププププ…」

チコは足元を見る…いつしか糞は出きっていたが、盛大に噴射したビチ糞と、そのおつり等が足を汚していた。

認めたくないが汚れている感触があって、まだ、ピチャピチャとビチ糞の海に滴が落ちていた。
飼い主に買って貰ったお散歩用の赤い革靴が、白いレースの靴下が、緑の斑模様になっていた。

チコは、今度は両手で目を覆い隠す。

「恥ずかしいテチ〜 見られたら死ぬテチと言っていたのはドコのドイツテチュ!?」

「あまり苛めるなデス…  何を言ってもコイツは、恥も外聞もない野良の仲間デス。
 口だけで恥を晒すだけしか出来ない野良デス… セレブちゃんが聴いて呆れるデス」

「ワタシはセレブちゃんテチ! コロママから生まれた、生まれながらのセレブちゃんテチィ!!」

手をどけ、両目を開けた先には、尻を出して向けた仔実装が笑いながら尻を叩いていた。
実装石にとっては、同族に無防備な姿の挑発を受けるのが最大の侮辱である。

横を向いても後ろを見ても、皆、尻を叩いて無防備な姿でチコを笑った。

「レフー、レフー、本当に溺れるレフ…  臭くてウジちゃんパキンレフ…」

チコの頭の中で、何度も嘲りの言葉が響き、追い打ちを掛けるように自らの所有物たる蛆の悲鳴が響く。

「チガウテチィィィィィィ!!! 笑うなテチィィィィィィ!!! ワタシのおウンチはセレブで臭くないテチィィィィィィ!!!」

チコは、その嘲りで心が折れるのを否定する為に、
感情の赴くままに立ち上がり正面の仔実装に殴りかかろうとした。

お尻ペンペンを眼前でされて感情を抑えろと言うのは仔実装には無理な話である。

バチャ!!「レパァ!!」

一歩を踏み出した瞬間、チコは前のめりに倒れた。

パンツが…  降ろしたままだったのだ。

「テ… ウジ…イチちゃん?  ウジイチちゃん!?  テ?! テテテ!! ワタシのウジちゃん!!」

手を使って上体を上げる。

自らの排泄物に自ら飛び込んだのだ。
そして、自分の可愛がっていた蛆実装は、糞と共に自分の服の胸元に赤と緑の模様を残していた。

「テビャァァァァ! ご主人様に貰ったウジちゃん!!!」

チコは、潰して飛び散った蛆実装の内臓を慌ててかき集めようとしたが、
もはや、どれが内臓か糞かの見分けも付かずに潰れた蛆という袋に掻き込んだ。

「デピャピャピャ、自分で蛆ちゃん殺したデス!  野良だから仕方ないデスゥ♪」

「チガウテチ!」パシャ!!
立ち上がり、殴りかかろうとするが、パンツが両足に掛かって一歩が踏み出せずに倒れる。

「テェーーーーッチャッチャッ! ウンコまみれテチ♪ いよいよウンコマンテッチュ〜♪」ペチンペチンと尻を叩き嘲る。

「チガウテチ!」バチャ!

脱げばよいものを、せめて片足を外すなりすれば済む話を、
思考を失ったチコは、ズリ降ろしたパンツをそのままに走ろうとする。
そのたびにパンツが引っ掛かり足が揃って躓き倒れる。

「醜いテチ、ウソツキテチ、親の顔が見たいテチュ、きっとウンコばかり喰ってデブデブテチ」

「ママの悪口を言うなテチ!  ママはホンモノのセレブちゃんテッチィー!!」ボテッ…

「ウンコ喰いに相応しいウンコまみれテチ…  こんなウンコマンは滅多に居ないテチ」

「イ、イヤテチ… ママ、 ママァー、  ママァァァァ!!」ボテッ…
今度は、4匹から逃げるようにするが、やはりボテッと転ぶだけ。

「テェェェェ… テェェェェェンテェェェェェン…」
もはや、チコに自ら立ち上がる気力も残っていなかった。

突っ伏して地面を何度か叩き、そのまま背中を丸めて顔を埋める。

4匹の親仔は、チャンスとばかりに、ゆっくりと罵声を浴びせながら包囲を狭める。

そして、亀のように突っ伏して背中を丸めて頭を引き込み、耳を塞ぐチコを、
一気に力ずくで仰向け大の字にひっくり返す。
チコは、表向きの現実逃避で心が砕けるのを避けるという事を阻止されてしまった。

仔実装2匹で手足を拡げ拘束し、1匹が股の前に立つ。

「テチャチャ…  そんなにウンチを漏らすのがイヤなら、戻してやるテチ」
仔実装の顔は、醜悪な歪みを見せていた。

「テ、テチッ、テテテッ イヤテチ、何をする気テッチ…  何をするテチュ、イヤテチ! イヤテチ!」

「くっさいテチィー」
「スッゴクくっさいテチー」
左右からその手足を押さえつける仔実装が交互に、満面の笑みをチコの視界に入れながら言う。

2匹掛かりで、チコの抵抗を排して足が開かれる。

そして、股の間に入ってきたもう1匹が、すくい取った糞を排泄口に腕ごと押し込んだ。
グヂュグヂュと強引に押し込んで、中で掻き回す…排泄口を壊すように…。

そして、一旦穴が空きっぱなしになると、閉じないように乱暴に糞が掻き入れられる。

「ビビャァァァァァ!! デヂュ! デジュワァァァ!!」

「五月蠅いデス!お上品を気取るブタはこの家族の糞袋でもくらいやがれデス」
親実装が叫ぶチコの口をさらに強引に開くと、
チコ自身が潰し、糞や内臓を詰めて膨らんだ蛆実装から服や装飾品を取り除き、容赦なく押し込んで口を塞ぐ。

「ンヒィ! ンヒハァ!!」
何かを叫ぼうとするたびに口の動きで、袋と化した蛆の間抜けな死に顔の口から、
デロリデロリと詰められた物が絞り出される。

その間、開かれた股から、これでもかこれでもかと自身の糞をブチ込まれていく。
ブチ込んでは腕で奥まで押し込まれ、押し込まれて空間が出来るとさらに糞をブチ込まれる。

そして、その目の前に、自分の物ではない蛆実装の小汚い排泄口が近づいてくる。

親実装が、チコの目の上に自分の蛆を差し出したのだ。

「レフ? レフフ、レピピ♪ レピョピョピョ♪」蛆の腹が刺激される。
プチプチプチ…
チコの視界は、腐った濃い糞の緑に染められた。

「ンビィ!!  ンベ、ンフッ、ンンンッ、ンホッヘヒィィィィィ!!」

「恥ずかしい姿テチ、死ぬテチ、恥ずかしくて普通なら野良でも死にたくなる姿テチ…」
何度も何度も、声だけがチコの頭に響いた。

チコの目は白く曇りだしていた。


やがてチコの抵抗が無くなり、手足の押さえが必要なくなると、
4匹はそれぞれ責め疲れで少し離れた。


チコは、蛆を口に銜えたまま、ゆっくりと上体を起こす。
4匹はニヤニヤとそれを見つめている。

ボタボタと顔から蛆実装の糞が落ちるのも構わず、
チコは、次の瞬間、スロウな動きで口の蛆を掴むと、グチャグチャと詰め込まれた尻尾から咀嚼をはじめた。

ピューっと詰め戻された糞が、グチャグチャに掻き回され開きっぱなしの排泄口から溢れ出ており、
その腹は不格好に膨らんでいた。
蛆実装の糞に埋め尽くされ時間を経た事で、眼球が染められる効果が起こったのだ。

「ヘヒャ… テテテテ… レピピピ…  テヒョォ〜」
不気味にチコが笑う…。


チコは完膚なきまでに肉体も精神をも破壊されていた。


「テー テー テー…」
チコは、足を投げ出したまま、腹をさすり鳴いた。


「よくやったデス…  ミンナ指示通りにうまくやったデス…」

サザエが醜悪な笑みで、仔実装達を褒め称える。


「テチュ… 楽勝テチ… 日頃のお返しには足りないぐらいテチュ」
すっかり同じ顔の笑みをたたえるタラコが答える。


「これは楽し過ぎテチュ… 病みつきテッチュ… ママ早く次の獲物テチ!!」
急かすようにイクラが、サザエのスカートを引っ張る。


「テチテチ…  いい気味テチュ、お上品に生まれた事を後悔するテチ」
タイコは、チコに唾を吐きかけて自分の力を誇示する。

「安心するのは早いデス、でも1匹減らして戦力ではワタシ達が有利になったデス。
 入れ替わりデス…  ワタシの苦痛をコイツらに味合わせるデス… ワタシのモノを奪った罰デス。
 殺してはイケナイデス! 入れ替わって、コイツらには相応しい生活を、
 ワタシ達は、コイツらの地位を手に入れ… デッ、取り戻して、毎日、コイツらの無様さを笑いに来るデス」

親実装は、チコの蛆実装を奪い取った、その装飾品を自分の家族の蛆実装の1匹に付ける。

「さぁ、これからが本番デス…   ソイツを引っ立ててくるデス」

サザエは、その欲望が溢れるままに仔を従えて、飼い実装への入れ替わりを目指す。
不思議と自分が天才と錯覚する程頭が回転し、色々な戦術が瞬時に浮かんだ。

仔実装達も、直前までの無気力さは失われ、
同時に、いままで無かった程に、その親の複雑な指示を寸分違わず理解していた。

全ては、実装石の罪たる、その身に必要以上に大きい欲望が、行動と一致して成せる業である。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

つづく

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1 Re: Name:匿名石 2015/01/10-14:28:11 No:00001613[申告]
描写が凄く丁寧で、ストーリーも息をつかせぬ展開だから、定期的に読み直してしまう素晴らしい連作物
2 Re: Name:匿名石 2023/07/31-11:09:10 No:00007671[申告]
飼いの心身を破壊するくだりが凄まじい…
3 Re: Name:匿名石 2023/07/31-23:58:52 No:00007676[申告]
この頃はウジクーターみたいな小道具なんかも見られて想像力を掻き立てられるな
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