タイトル:【逆】 高い城の実装1
ファイル:高い城の実装.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2370 レス数:0
初投稿日時:2008/10/24-00:57:02修正日時:2008/10/24-00:57:02
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『高い城の実装』



 【 1 】



20XX年。
地球は実装石に支配されていた。



 * * *

パァン、パァン——
街に銃声が響く。通り魔を行なった、凶悪な殺人鬼が射殺された。



犯人の死体は解剖に回された。そこで、監察医たちは信じられないモノをみた。
「これは……」
「……偽石?」
犯人の身体には、あろうことか、偽石が埋まっていた。

 * * *

異変はすぐに膨れ上がった。

「青少年の犯罪が急増……」
「政治家の度重なる自殺が……」
「子供を殺す親が目立って……」
「今日も通り魔です……」

社会に、徐々に暗い話が目立ち始めた。
凶悪犯罪が増え、自殺者が増え、殺人が増え、汚職が増え……。
とにかく、いつの間にか、かつて無いほどの暗い世情になっていた。

そして、いわゆる「犯罪者」を解剖してみると、そのいずれにも偽石が埋まっていた。

この事実は、決壊と破綻が訪れるまで、厳重に秘密にされていた。
しかし、噂が広まるのは早い。
街中で見かける人間すべてに、偽石が埋まっているのでは?
と、疑心暗鬼が募ってゆく。

「十台を巻き込む交通事故が……」
「小学校で立てこもり、これまでに児童五名が刺され……」
「火力発電所で事故、早くても復旧に一ヶ月……」
「警官の不正が多発……」
「またも食品に毒物混入……」

しかし、政府も、民衆も、なれきった日常を信じるだけ。
誰もかも、偽石の事実から目をそらしていた。

その愚かさが、人類全体を滅ぼすとも知らずに。

 * * *

「デッデロゲー♪
デッデロゲー♪
デッデロゲッゲー♪
デロデッゲー♪

働くデスゥ、ドレイニンゲンー♪
かわいいかわいいワタシのために、死ぬまで働くデスゥ♪」

実装石が楽しそうに歌っている。
この実装石は、——実際に呼ぶことはないが——ここでは『監督』と呼ばれている。

オレたちは、わけの分からない重労働をさせられている。
実装どもの話によれば、この工場並の大部屋は『ドレイの家』。
薄暗い大部屋に、百人ほどのニンゲンがいる。
そして、クソ重い車輪のような何かを回している。

「デッデロゲー♪
デッデロゲー♪
デッデロゲッゲー♪
デロデッゲー♪

働くデスゥ、働くデスゥ、ドレイニンゲンー♪
かわいいかわいいワタシのために、
死ぬまで死ぬまで働くデスゥ♪
デスデスデスゥ♪」

この作業は一体何なのか、誰も知るものはいない。
一説によれば、車輪の軸には実装石専用のメリーゴーランドがつながっているらしい。

「クソッ、やってやれるか!!」
「デスゥ!?」
前列の男が叫び、手押し棒の列から飛び出した。

オレは、この後どうなるか知っている。
彼の反逆は、決して成功することは無い。
彼が非力で、実装石が強いわけではない。なぜなら……。

同列のニンゲンたちが、飛び出した男を押さえつけ、瞬く間に袋叩きにする。
死なない程度に。

「おいっ、何する、止めろ、止めろ、止めろ……」
その男の声は徐々に小さくなる。

「やるデスゥ! もっとイジメるデスゥ!
おイタするクソニンゲンはいらないデスゥ!
ほらそこっ、もっと殴るデスゥ! 蹴るデスゥ!
デププッ! デプププッ! デププププッ!」

彼らたちは、「監督」に逆らおうとした男を黙々と殴り続け、蹴り続ける。
「ぐ。ぼげぇ。ぐぼ。ぼ」
その男の口からは、すでにニンゲンの言葉は出ていない。

「おい、ドレイニンゲン。もっとヒャハーするデスゥ!
デププププゥーーッ! デププププゥーーッ!
ワを乱すクソニンゲンはヒャッハーデスゥ!
間引くデスゥ! いらないデスゥ!
ドレイニンゲン、バールのようなものを使うデスゥ!」

彼らの前に、二三本の、バールのようなものが投げ入れられた。

「監督」は、専用のドレイニンゲンの頭の上に雛登りしている。
専用のニンゲンは、すでに実装石のリモコンおもちゃになっている。
なぜかと言えば、そのニンゲンの中には偽石が埋まっているからだ。

「よく見るデスゥ、ドレイニンゲンーー!
これが末路デスゥ、お仕置きデスゥ、間引きデスゥ!!
デプププププゥーーーッ♪♪」

「監督」は興奮して、土台ニンゲンの頭の上でパンコンしている。
その量は、明らかに実装石の体以上だ。
土台ニンゲンはパンコンされて実糞まみれでも、嫌な顔一つしていないはずだ。

オレたちは車輪を回す作業をいったん止めて、「間引き」を見せられることになる。
今月に入って、五度目の間引きだった。
ちなみに、今月に入ったのはほんの三日前のことだ。

「……」
「……」

男たちが疲れきった顔で、バールのようなものを手に取る。
ここで従わないと、どんなお仕置きが待っているか分からない。
これは自分の命を守るための作業だ、そう言い聞かせて作業にあたる。

男たちが一斉にバールのようなものを振り下ろした。
それと、実装石が
「デップップゥーーーッ!」
と笑ったのは、同時だった。

 * * *

数時間後。

カンカンカン——。
監督実装石が、手にした金属板を棒で打ちつける。
エサ——いわゆる食事——の合図だ。

「さぁドレイニンゲン、エサの時間デスゥ。
残さず食べるデスゥ。残したらお仕置きデスゥ。
ワタシのかわいい蛆チャンも仔チャンも一緒デスゥ。
喜べデスゥ。この上ない幸せデスゥ」

ドレイの家の上の方から、いつものエサが降ってくる。
緑色の粘土のようであり、もちろん粘土のほうがおいしい。

しかも、量が少ない。
決して百人の腹を満たせる量ではない。
無言のまま、エサの奪い合いが行なわれる。
いつもの光景だ。

オレは、なんとか一口二口入れることができた。

「いつみてもあさましい食べ方デスゥ。
蛆チャン、仔チャン、あんなになったらだめデス」
「わかったテチ、ママ!」
「チュチュ! チュチュ!」
「ほらドレイニンゲン、ワタシの仔のご作法を見習うデス。
優雅で上品デスゥ。
やっぱりワタシたちは高貴デスゥ!」

その蛆実装と仔実装が食べているのは、さっきの、バールのようなものでメッタ打ちにされた誰かだ。

そこでオレたちは、初めてそいつの顔を見た。
オレたちは、緑色のドレイ服を着せられ、緑色ドレイフードを被せられているからだ。
ドレイフードは顔全体を覆っている。
エサのときは、フードの下から手でエサを口に詰め込む。

ドレイフードを脱ぐことは決して許されない。
勝手に脱いだときは、それは死ぬときだ。

「おい、そこのオマエ。オマエデスゥ」

監督がニンゲンを名指しした。
とりあえず、実装石はめったに「オマエ」を使わない。
前に出てきたのは、さっきバールのようなものを使った男だった。

「よくやったデス。
ホラ、ニンゲン、ワタシが施しをしてやるデス。
ありがたく受け取るデス」

監督実装石が差し出したのは、小さめのビニール袋に詰まった、エサだった。
すごい悪臭を放っている。ここにまで臭ってくる。腐っているのかも知れない。
ニンゲンも、もしかすると実装石でさえ、食べると悪いことになるだろう。

「ありがたく食べるデス。
ドレイニンゲンにはもったいないくらいのご馳走デスゥ。
さ、さっさと食べるデス」

その男はビニール袋のエサを手づかみで、そのままフードの下の口に押し込んだようだった。

「さ、ニンゲン。
残さずさっさと食べるデス。
行儀よく上品に食べるデス」

男は、監督実装と同部屋の百人の注視の中、エサを口に運び続ける。
オレたちは食べるのも止めて、その男の成り行きを見ている。

「うっ、ぐっ、ぐっ」

男は嗚咽を漏らしながらそのエサを食べている。
やがて、全て食べ終わった。

「いいニンゲンデスゥ。
他のドレイニンゲンも見習うデスゥ」

監督実装は上機嫌だ。

「さ、お食事のあとはお休みの時間デス。
子守唄を歌ってやるデス。
ありがたがるデス、ドレイニンゲンども♪

デッデロゲー♪
デッデロゲー♪
デッデロゲッゲー♪
デロデッゲー♪

デッデロゲー♪
デッデロゲー♪
デッデロゲッゲー♪
デロデッゲー♪」


オレたちは眠りに入る。
監督実装からのエサを食べた男は、ピクリとも動いていなかった。



 * * *
 
 平成二十年 十月二十三日
 
        ミョッパー

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