タイトル:【観?】 定期健診
ファイル:定期健診.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4057 レス数:0
初投稿日時:2008/10/19-23:02:34修正日時:2008/10/19-23:02:34
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定期健診


秋も深まったある日。父親が経営する動物病院に勤めるトシアキは年に4回行う飼い実装石定期健診の真っ最中で朝から大
忙しだ。
数年前に国は実装石を飼うには市への固体情報の登録と年4回、もよりの動物病院での飼い実装石の定期健診を受けさせる
義務、実装石を飼う為に飼い主が守らなければならない事を規定した『飼い実装法』を制定した為、定期健診の時期は結構
忙しくなる。
健診料は微々たる物でしんどいだけなので、義務化なんて変な事をしてくれやがってと文句たらたらなトシアキであったが、
飼い実装石の定期健診を始めた事により捨てられる元飼い実装石の数が減り、実装石と係わり合いを持ちたくない大多数の
住民達にとっては大助かりだった。
元からの野良実装石は定期的な駆除を行えばそれ程数も増えないし、大多数の野良実装石は知識も全然高く無いので駆除を
行うにも人家進入への対策も簡単であったが、元飼い実装石は産まれて直ぐに選別が行われ糞蟲は排除される。
選ばれた実装石は野良に比べて知能が高く、ブリーダーの元で飼い実装となる為の各種躾が施され簡単な道具ならば扱える
し、まれにだが工夫をするという知恵も得ている固体もいる。
そんな実装石が飼い主の不適切な飼い方と押さえつけられていた本能を開花させ糞蟲化して捨てられるのも、道具を使う事
や工夫をする事までは忘れて無いようで市への登録と定期健診義務化までは人や人家への被害は計り知れず、人家進入への
対策も少々金がかかるようになったし、駆除から漏れる率も高くなっていたのだ。
年4回の定期健診は飼い実装石の病気等を検査するのでは無く糞蟲化していないか検査する為に行われているのだ。
また飼い実装石は首の後ろ側に固体情報が記されたバーコードを刺繍されているので、捨てられても市へ固体情報が登録さ
れているので飼い主特定が簡単である。

先程、殺処分した実装石の死体を飼い主は持ち帰らなかったので、めんどくさそうにビニール袋に放り込んだトシアキは次
に取り掛かろうと、次の人を診察室に招きいれる。
診察室に入ってきて椅子に座ったのは普通の身なりの飼い主だったので、愛誤飼い主ではなさそうだと胸をなでおろしたト
シアキは飼い主の足元にいる二匹の実装石に視線を移す。清潔なノーマル実装服を着た一匹の成体と、これまた清潔なノー
マル実装服を着て頭に赤いリボンを付けた一匹の仔実装が手を繋いで立っていた。
いや、これは親実装が動き回りたい仔実装を無理やり押さえつけているのだろう。そう思った矢先に、親の手を振りほどい
た仔実装は別の場所に走っていこうとしたが、飼い主より30cm程離れた地点で首輪に付けられたリードの長さの限界に達し
首を締め付けられて悶絶している。ちなみにリードの長さは飼い主の足元より30cmまでと実装法で決められている。

飼い主と親実装が悶絶する仔実装をあやしている内に二匹の診察票に目を通すと、親の名は『ミドリ』。仔の名は『コミド
リ』と、ありきたりな名が記されていた。
診察票にはミドリはブリーダーから直接購入、夏の健診を受けている。コミドリの方は夏の健診後にミドリが出産、市へ登
録とあり、今回が初健診のようだ。
産んだ仔の中でも優秀なのを選別したのだろうがブリーダーによる躾を受けていないから、コミドリは健診をパスする事は
出来ないだろうなと思いながらも、早速トシアキは診察を始める事にした。
健診と言っても簡単で食事マナー。人間への口の利き方、飼い実装としての心得を確かめ糞蟲化していないか確認をするだ
けだ。

「ではお待たせしました。これより定期健診をはじめたいと思います。健診内容は以前ミドリちゃんが受けたのと変わりは
ありませんので、直ぐに始めますね」

トシアキは緊張した面持ちの飼い主に簡単に挨拶をすませると、二匹を飼い主から少し離れた場所に別々に立たせ間に目隠
しを置いて、飼い主へは検診中、実装石へ一切口を出さないで下さいと言い含める。
そしてわざと不味い実装フードを少量入れた二つの椀を二匹の前に置いていく。
自分の前にフードが入った椀を置かれても、二匹は身動きせず食べてもよいと言われるまでじっと待っている。しばらくし
てからトシアキが二匹に食べても良いよと声をかけると、ようやく二匹は食べ始める。しかしがっついた様子は無い。
ミドリはブリーダーの躾を忘れずに行儀よく、フードの味にも文句をつけずに一粒一粒零さないよう綺麗に食べている。
コミドリの方は飼い主とミドリに躾けられたのか、少しフードを口から零しているもののミドリ同様行儀良く食べているよ
うに見える。
しかし小さな声で何か呟いていたのでトシアキは業務用リンガルに視線を移す。

『こんな不味い物はワタチには相応しく無いテチ。でもワタチは糞蟲と違ってこんな不味いゴミのような物でも行儀良く食べる賢く
綺麗な実装石テチ。帰ったら奴隷に口直しの金平糖を一杯献上させるテチ。テププププ』

業務用の高性能リンガルだから拾えた小さな声だから、飼い主はコミドリがこんな事を思っているなんて知りもしないだろ
う。トシアキはコミドリの診察票にチェックを入れ、次の健診を始める事にした。

次は人間への口の利き方を確かめるながら飼い実装としての心得を確認する事なので、椅子から身を起こして実装石の目線
に近くなるようしゃがみ、実装リンガルを使ってまずはミドリに挨拶をする。

「こんにちは。君の名前は何て言うのかな?」
『私の名前はミドリと言いますデス』
「いい返事だね。君は他の飼い実装石みたいな綺麗で豪華な服を着てみたいとは思わないかい?」
『私はこの服で十分デス。毎日ご飯が食べられ、お風呂にも入れてもらえ、ふわふわタオルの寝床をくれるご主人様とコミ
ドリとの今の生活に満足しているデス。これ以上望んだら罰があたるデス』

飼い主に無理やり言わされた風でもなく心の奥底から自然と湧き上がる飼い主への感謝の念、今の生活に十分満足している
と実装石とは思えない程の見事な受け答えをしたミドリに、トシアキは驚きつつも満足げに頷いた。
ミドリは人間への口の利き方も、飼い実装としての心得もブリーダーに教えられた事を忘れないでいるし、飼い主に飼われ
る生活で、より一層感謝の念を深めているようだ。糞蟲化は微塵も見受けられない。
トシアキはミドリの診察票に合格と記して、次はコミドリへ話しかける為に視線を移すとコミドリはふてぶてしい態度、ト
シアキを見下した表情で立っていたが、無視してミドリと同じ容量で話しかける。

「こんにちわ。名前は何て言うのかな?」
『ワタチの名前はコミドリって言うテチ。名前に様をつけるテチ。覚えておけテチ奴隷』

ミドリの仔とは思えない程糞蟲発言をかますコミドリ。
目隠し越しに発言が聞こえたミドリは驚いた表情をし、そして顔を青ざめさせその場にへたり込んだ。そんなミドリを見て
何か引っかかる感じがしたが、今はコミドリだと糞蟲発言に怒りを抑えつつトシアキは続いて質問をする。

「コミドリって言うのか〜。君のママは今の生活に満足していると言っているが、君も今の生活に満足しているかい?」
『コミドリ様と様をつけろテチャァッ!無礼テチ!次、様を付けなかったら、ぶっ飛ばすテチよ!」

顔を真っ赤にしながら地面を力強く踏みつけ、トシアキを睨み付けるコミドリだったが質問には答えてくれるようだ。
コミドリの後ろで様子を見ていた飼い主は、手に持つリンガルに表示されるコミドリの発言を見て、驚いた表情で未だ怒り
心頭の様子のコミドリを不安げな視線で見つめる。

『まぁ心の広いワタチだから今回は質問に答えてやるテチ。感謝するテチ。ママは高貴じゃないから今の生活に満足しているようテチ
が、ワタチは全然満足してないテチ!奴隷人間は世界一可愛いワタチを飼わせてやってるんだから、もっと豪華な服と食事をワタチに
提供する義務があるテチ!こんなみすぼらしい服装に生活でワタチは世界一不幸な実装石テチ!』

コミドリの完璧な糞蟲発言や、飼い実装としての心得を持っていない様を見せ付けられた飼い主は終わったとばかりに顔を
覆う。ミドリの方は先程と同じく顔を青ざめさせながら体を小刻みに震わせ、脂汗まで流し始めている。
トシアキはコミドリの診察票に「矯正は不可と思われるも、矯正か殺処分かは飼い主の判断に任せる」と書き記した。


これで一応全ての健診が終わったのでトシアキは二匹の間に置いてあった目隠しを取り除き、重苦しい空気の中、言われる
事を解っているような表情の飼い主に健診結果を発表する。
そんな飼い主などお構い無しにコミドリは飼い主の足をペチペチ叩いて何か言っているが、ミドリはそんなコミドリを必死
に止めようと押さえつけている。

「さて、もうお分かりでしょうがミドリは合格でコミドリは矯正不可と思われます。いくら仔実装でも今から矯正専門のブ
リーダーに任せても基準に合った飼い実装になるのは無理でしょう。それでも矯正なさるのなら矯正専門ブリーダーを紹介
しますがどうなさいますか?」
「……そうですか。やっぱり無理言って産ませるんじゃなかったですね。いくら選別したとは言っても所詮は素人。ブリー
ダーみたいにちゃんとした躾けは無理だったんですね。今からブリーダーの元で躾けてもらうにしてもコミドリを苦しめる
だけでしょうから、殺処分でお願いします」

辛そうに、聞き取れない程小さな声で殺処分を依頼した飼い主を見てられなくなったトシアキは、視線をそらしてコミドリ
の診察票に殺処分と記して、飼い主が市に提出する飼い実装登録抹消届けを書くと飼い主に手渡し、しゃがみこんでコミド
リを必死に押さえつけるミドリに話しかける。

「ミドリ、コミドリを離してやってくれないか。君なら先程の会話の意味を何となく理解出来ただろう?僕はコミドリに対
し、やらなくちゃいけない事があるんだ」
『デッおねg』
「離れてくれないか」

ミドリが何か言おうとするも、言わせる前に有無を言わせぬ口調でどくよう促すトシアキ。
トシアキの発言に何かを感じたのかミドリは肩を落として力なく立ち上がると、形見のつもりなのかコミドリのリボンを外
し懐に抱くように持って飼い主の足元に置いてある移動用籠に入り、震えながら座り込む。

『クソママ、ワタチのリボン返すテチッ!』

コミドリは勢いよく立ち上がって自分のリボンを奪ったミドリに罵声を浴びせるが、ミドリは無言のまま籠の中で震えてい
る。
トシアキはその間に飼い主に頷いて、机の上に置いていた小さな金平糖を一粒つまんでは、地面を力いっぱい蹴り付けなが
ら未だミドリに罵声を浴びせるコミドリの前にそっと置いて話しかける。

「まぁコミドリ。それ食べて落ち着こうよ」
『金平糖の献上テチ?気が利く奴隷テチ』

金平糖が献上されたと思ったコミドリは気をよくし、一口で頬張る。

『でもこの金平糖はちっさいテチ。もっともらってやるからよこすテッ……!!』

トシアキの足元にたどり着き更に要求しようとした瞬間、声が出なくなり息も出来なくなったコミドリは、金平糖が喉に詰
まったのかと思い四つんばいになり手を口に突っ込んで吐き出そうとするも吐き出せなく、瞳と同色の涙を流しながらえづ
く。
恐怖で糞を漏らそうとするも総排泄口がきつく締め付けられているのか、少しも出てこず腹の中で生産された糞により妊娠
したかのように腹を膨らませていく。
トシアキがコミドリに食べさせたのは金平糖ではもちろんなく、殺処分用に開発された『実装もだえ』だ。効果はもだえが
吸収されると、喉、総排泄口の周りの神経と筋肉に作用して通常の数倍の力で喉、総排泄口が締め付けられる為に声を出す
事も、吐く事も食べる事も、息をする事も、糞を出す事も出来なくなり、そのままもだえ苦しみ死に至らしめる薬で、動物
病院ではうるさくなく、糞で床を汚さないですむので重宝している。

『……!!………!!!!!!』

無言でもだえ苦しみ、のた打ち回っているコミドリを尻目に、トシアキは飼い主にミドリは今後も今のような飼い方で大丈
夫だろうと伝え、ミドリの診察票に記入していく。そしてコミドリの死体はどうするかと訊ねると、申し訳ないが病院側で
処分してくれないかと言われたので了承する。
トシアキと飼い主が会話をしていた間、必死に助けを求めようとしていたコミドリはトシアキからも飼い主からも意図的に
無視されて、3分後偽石が負荷に耐えられなくなったのか、もだえ苦しんで死亡した。
その表情は涙と涎で非常に汚く、目を見開き、舌を出した状態で固まっている。腹部も糞が排出されない為、妊娠したかの
ごとく膨れ上がっている。トシアキは手袋を付けてコミドリの死体を持ち上げ、ビニール袋の中に無造作に放り込む。
そして飼い主はミドリを入った籠を持ち上げ、一礼をして診療室を出て行く。

去って行く飼い主の背中を見ながらトシアキは思った。
ミドリはコミドリが糞蟲だと言う事に気が付いていていたが、愛情が深く賢かった為、飼い主に言ったら処分されるとわか
っていたので今まで必死に飼い主に悟らせぬようしていたのだ。
自分が飼い主に言わずコミドリを見張って糞蟲性を押さえつけておけば、ずっと幸せに暮らせる。ばれたらコミドリは殺さ
れ自分も捨てられると思い、欲が出て嘘をついてきたのだろう。
だからコミドリがトシアキに対して糞蟲の口の利き方をした際に、あれ程狼狽していたのだと。
そしてミドリがコミドリが糞蟲だったのを隠したのを何故トシアキが飼い主に言わなかったのかも賢いミドリの事だから理
解しただろう。飼い主へは嘘をついてはいけないとブリーダーに徹底的に教え込まれる。だけどミドリは嘘をついてしまっ
た。
今までなら自分が黙っていれば幸せに暮らせるが、今はトシアキが知ってしまっている。トシアキがいつ飼い主にミドリが
嘘をついていたのだと言うか、ミドリは今後怯えて暮らさなくてはならなくなったのだ。
そのまま寿命を迎えて死ぬか、自分の罪に恐れ自壊するか。それはトシアキには解らないがミドリは一生苦しむ事になる。
もう二度と昔のような満足した生活はおくれない。
何で初めから隠そうとせず飼い主に言っておけば、こんな辛い事にはならなかったのにと悔やみ続けるのだ。

「ミドリの奴、あの調子だと冬の診察には現れないだろうねぇ」

トシアキはそう呟くとミドリの事を忘れて次の診察に取り掛かる。
飼い実装石定期健診。年4回行われ、一回の合格率は低く、一年を通して合格する飼い実装石の数は非常に少ない。


END

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第九段スクです。
前作、季節の変わり目に感想を下された方に、この場を通してお礼申し上げます。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。今後ももっと良い文が書けるよう精進いたします。

では、最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。

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