タイトル:【駆観】 ドレスコード(前編)
ファイル:ドレスコード1.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4342 レス数:0
初投稿日時:2008/10/18-03:03:15修正日時:2008/10/18-03:03:15
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『デズォォォォアアアアアアアアアッ!』

「うわっ!汚ネッ!!」

 近道をしようと公園の中を自転車を押して歩いていたら、いきなり植込みの影から実装石が飛び出してきた。
しかも全身糞まみれで。
 幸い、咄嗟に避けようと身体をひねった際に自転車の前輪がうまい具合に横っ面をはたくように当たり件の
糞蟲は脇の花壇に飛んで行ってくれたが・・・・

『「」!何事なのダワ?』
 後の荷台に設えた椅子に横座りし、のんびり音楽を聴いていたロッソがいきなりの車体の揺れに驚いて僕に
聞いてくる。パルタはというと・・・・別に驚くでも無く『何かあったのぉ?』とばかりにこちらを見上げ
尻尾をユッサユッサと振っている。・・・お前ホントに危機感無ェな・・・・

『デエエエエエッッッッスウウウウウウッッッ!!!!』『デジュアアアアアアァァァァッーーーー!!!』
 気がつくと周りを実装石達に囲まれている。更に言えばその全部が全身糞まみれ。蹴っ飛ばしただけでも
靴とズボンはダメになってしまうだろう。

「何なんだよこいつ等?少なくとも実装石に嫌われるようなこと(好かれるようなことは当然だが)した覚えは
無いぞ!?」
 思わぬピンチに情けない声を出してしまった。生憎武器になりそうな物は持っていないし、これから人に会う
のに実装糞のついたズボンというのもマズイだろう。



「しゃーねー、緊急避難だ。」
本当はやっちゃ駄目だがこの場合は致し方ないだろう。自転車に跨ると、
「うぅぉおおりゃーー!ラ〇ダァァーーーッブレ〇クッッ!!」
と全力立ち漕ぎで前面の主力を踏み潰し一気に公園を突破した。(因みに地方の条例にもよるが、原則として
公園や商店街などでは自転車に乗って走行してはいけません。)やっとの思いで公園を突破し振り返ると実装石
が追ってくる気配は全く無い。それどころか、何処かに隠れでもしたのか糞まみれ実装石達の姿は忽然と消えて
いた。

「何だったんだ?ありゃ・・・」
 狐につままれたみたいにポカンとしてたら、
『面白かったね。もうちょっと走ろうよ。』
と言わんばかりに興奮したパルタがヨダレまみれの顔を膝にくっ付けてきてくれた。
・・・あぁ、結局汚れる運命だったのね(涙)。




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「あははは、そりゃ災難だったな。」
 穐動物病院院長、逆代明敏(さかしろあきとし)通称ギャクタイ先生の陽気な笑い声が診察室に響いた。
 今日はロッソとパルタの健康診断だ。別に何月何日と決まっているわけではないが、午前中で仕事が片付いた
ので電話を入れたら先生のほうも「丁度手が空いたから来なさいよ。」となったのだ。

 因みにこの逆代先生、ギャクタイ先生というあだ名はなにも本名からきたのでは無い。ガチの虐待派、いや、
虐待師と呼んでも差し支えないほどの糞蟲嫌いで、しかもそれを堂々と公言して憚らないでいる獣医としては
一寸アレな人である。
 とは言え、糞蟲でなければ実装石に対しても親切だし(事務的ではあるが)、他実装や犬や猫にならこっちが
見ていて恥ずかしいほどデレデレした顔を見せる動物好きである。それに腕も確かで特に虐待で培った実装石
に対する知識と技術はハンパではない。何より多くの動物病院では平気で仮病を使ったり逆に「ワタシはどこも
悪くないデス!悪いのはオ前の頭デスゥ!!」と悪態をついて周りに迷惑をかけまくる実装石は大抵断られる為
実装石も診察する先生の評判は決して悪くない(尤も、診察をうけた飼実装の多くは殺されたほうがマシなほどの
精神的ダメージを受けるらしいが)。
 それどころか最近では増長した飼蟲の性根を叩き直すための躾学校代わりに長期入院させる飼主もいたりして
概ね繁盛しているようで羨ましい限りである。



「はい、これでパルタくんも終わりっと。」
 先に検診を受け、毎年のこととはいえ実装インフルエンザの予防接種をされた不満をツインテールで僕の腰や
背中をペシペシやることで訴えるロッソをどかせながら二人掛りでパルタを診察台から降ろす。お前喰い過ぎだ。

 ドッグランになっている中庭に遊びに行った二人(?)を見送りながら「さて、ロッソちゃんはいつ人化するの
かな?」と毎度お決まりの台詞を僕に向けてきた。これも毎度の事ながら「頼むから、それは勘弁して下さい。」
と切り返す。実はロッソには以前人化の傾向があったのだ・・・


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 まだ10cmにもなるかならないかの幼体の頃から僕と僕の両親からの愛情を一身に受け、順調に大きくなって
行ったロッソだったが、50cmを超えたあたりからその兆しが見え始めた。
 ナイフとフォーク程度なら何の問題もなく扱い始め、最終的にはリンゴの皮むきまでマスターしてしまった。
さすがに新聞は読めないながらも簡単な文字と曜日と時間の概念を理解し、お気に入りのテレビが始まる前には
テレビの前に座るようになり、それどころか見よう見まねで録画予約の方法まで覚えたのだ。
 
 その頃はまだ実装シリーズに対する知識も乏しかったもんで、両親と口をそろえて「お利口なもんだねー。」
と感心する程度だったのだが、居間で寛いでいる時や食事の時の僕への接し方に変化が現れはじめ、それが妙な
違和感になって行ったのだった。

 始めの頃、僕の膝の上が指定席だったロッソはいつの間にか僕と向かい合って座るようになり、やがて横に
寄り添うように座るようになった。始めはこれも単に成長した証拠くらいに考えていたのだがバイト先で知り
合った彼女を連れて来たとき疑問が確信に変わった。

 明らかな嫉妬の反応を見せたのだ。いつもなら「可愛いィ〜」のセリフには無条件に反応して寄って行くロッソ
がプイとソッポをむいて奥へ引っ込んでしまったのだ。それどころか、彼女が近付くと明らかな攻撃姿勢を見せた
ので慌てて引き離したくらいだ。
 
「あの子、自分のこと人間だと思ってるんだね。」と犬や猫を飼っている人の間ではごくありふれた感想を彼女は
示してくれたが、幼い頃からほぼ途切れることなく動物と暮らしてきた僕にはあれが全く別の反応であるという確信
が生まれていた。ロッソの中には人の魂に近いモノが宿っていると・・・

 それからしばらくしてテレビで何処かの国の大富豪が愁いを帯びた瞳の人化実装石を侍女のように従え歩いている
姿が放送され、この時初めて実装シリーズの人化を知って慌てて色々調べたのだ。だが、調べれば調べるほど人化
とは何か、何故人化するのかを含め総てが分からずじまいに終わった。

 とにかくハッキリしたのは、実装シリーズが人化するのは金のエ〇ゼルが出るよりも稀であること。人化した実装
シリーズはとんでもない美少女になるということ。人化実装の大半は実装石でそれ以外の人化実装は更にレアで好事
家は法を犯してでも手に入れようとすることetc.・・・・

“これはなんとしてでも人化を止めねばならない。”結論はそれだけだった。そんなにレアな生物なら目立たない
ハズがない。人化実装(紅は特に)を性的な玩具にするために拉致し、高価な値段で取引する輩もたくさんいると
聞いた。大方件の大富豪もそういう連中から手に入れたのだろう。そんな連中にもしロッソが攫われたりしたら・・・
 それにこんな片田舎の町にはあらぬ噂を立てるのが趣味の困った人も結構たくさんいるのだ。当時でもロッソを
連れて散歩していると「「」君が金髪の外人さんに子供生ませた。」なんて噂が流れまくったのだ。いい年した男が
人化実装紅なんて連れて歩いていたらそれこそ何を言われるか分かったものではない。確かに僕はロッソを愛しては
いるがそれはそういう意味ではない。“ロッソと平穏に暮らしたい。何が何でもロッソを守りたい”それ以外に何も
考えられない日が続いた。

“どうすれば人化がとめられるか?”それを調べるうちに逆代先生に出会い「100%の保障はできないけど。」と
人化を止める処置をしてもらったのだ。お陰でロッソは人化することなく、現在にいたっている。
 ただし“普通の実装紅”に留めることはできなかったらしくその後も成長を続け巨大実装紅へと進化したのであるが。




 しかし、何が功を奏すかは“神のみぞ知る”というやつである。身体が大きくなるにつれ脳も大きくなったらしく
知能は一般の実装シリーズの比ではないレベルにアップした。

 掃除や買物は言うに及ばず書類のコピーやダイレクトメールの整理くらいなら何の問題も無くやってのける。
 それに、そのド〇えもんを思わせる外観と声をかけられればスカートの端をつまんで上品に挨拶する愛嬌の良さ、
そして(失礼ながら)一般の飼実装石など比べ物にならないお利口っぷりは誰からも好評で一昨年からは商店街の
マスコットも勤めている。昨年の商工祭りで催された“ロッソちゃんのティーパーティ”は最高で3時間待の行列が
でき、会長さん曰く、郊外のショッピングセンターに取られた客の何割かを取り戻せたのは他ならぬロッソのお陰と
のことだ。ただし、次の日丸一日『疲れたのダワ〜。』と言って僕にベッタリくっついたままだったが・・・
 何よりも嬉しかったのは僕との関係をちゃんと理解してくれたことだ。詳しくは語ってくれなかったが逆代先生と
奥さんのご尽力がいろいろとあったようだ。そのお陰で今のベストな関係が構築されたと言っても過言ではない。
 尤も、その分ツンデレ属性が強くなったのか時として僕に対してふてぶてしいとさえ思える態度をとることもあるが、
それはそれで可愛いと思えるあたり僕も“バ飼主”とよばれても致し方ないかもしれない。
 


 え゛っ?ところで彼女とはどうなった?・・・・黙秘する。それだけ!!!........................・゜・(ノД`)・゜・ 



---------------------------------------閑話休題------------------------------------------------------



「まっ、実装シリーズの生態は未だに未知の部分のほうが多いくらいだから今度人化の兆しが見えたら覚悟しなよ。
俺としてはある意味人化実装紅より珍しい実装紅が見られるのは嬉しいけど。」
 コーヒーを淹れながら先生がいつもどうりのオチで話をしめくくった。確かにこの先生にとってはロッソもある
意味珍しいサンプルなんだろうな。


「で、その糞まみれ実装石なんだけど・・・」
 他に患畜もいなかったので休憩を決め込んだ先生が話し始めた。
「他にも見たって人いるよ。朝、駅に向かうサラリーマンや学生が。今月に入って特に多いみたいだね。」

「えっ?でも僕が見たのはついさっきですよ。」

「うーん、そりゃ糞まみれのヤツは常に糞まみれなんじゃないの?それをたまたま見たってだけで。」

 確かに言われてみればそのとうりである。とすれば、あれは同属のリンチを受けた連中の成れの果てか・・・・
しかし、それではどうしても腑に落ちない。実装石にはそんなに詳しくはないが、あれはどう見ても威嚇だった。
その時は単にロッソに対する嫉妬から攻撃姿勢を見せたくらいに考えたのだが、よくよく考えればリンチを受けた
直後の実装石なら飼主&猛獣つきの飼実装(それも特大サイズ)に威嚇するどころではないだろう。仮に人間の前に
顔を出すとすれば『デエエエエェェェンン』の声と共に保護を求め媚まくるのが関の山だ。
 それに、数が多すぎだ。しっかり数えたわけではないが少なくとも20匹以上はいたと思う。あれほどたくさん
の実装石を一度にリンチにかけるほどあの公園の野良蟲の数は多くない。何せ駅前という(人間にとって)最高の
立地にあるため学校帰りの小学生に職安帰りのニートや仕事帰りのサラリーマン、はたまた糞蟲よろしくどこから
ともなく涌いてくる虐待ヒャッ派ーまでが自主的な(ストレス発散とも言うが)駆除活動をしてくれるため公園内の
野良蟲が一定数を超えたという話は未だ聞いたことがない。

「あ、そう言えば。」
思考のドツボにはまりかけていた僕に先生が声をかけ、こちらの世界に呼び戻してくれた。

「どういう訳か早朝に散歩してるお年寄りなんかはその糞まみれのヤツを見たことがないっていうんだよ。それと
商店街の小学生たちも。」

 それを言うなら毎朝パルタの散歩であの公園を利用している僕だってそうだ。毎日公園に顔を出しているが文字
通りのあんな“糞蟲”を見たのは今日が初めてだ。それに逆じゃないのか?通常実装石はより弱そうなモノに見える
(だけで絶対勝てないのだが)子供やお年寄りを主にカモにするはずだ。ますますもって腑に落ちない・・・・・

「いったい何なんでしょ?」

「分からないけど、今のところあまりひどい被害が出たっていう報告はないみたいだしねぇ。実装石の考えてること
なんてさっぱりだよ。まっ、もしまた何か新しいことが分かったら教えてよ。場合によっちゃ“公園清掃”の必要
があるかも知れないし。」



 “ギャクタイ先生”の本領発揮と言わんばかりの笑顔を見せて先生が席をたった。あまり仕事の邪魔をするわけに
もいかないので僕も帰ることにして、ロッソとパルタを向かえに中庭に行った。
 ロッソは先生の奥さんや入院中の実装紅達とお茶会の真っ最中だった。おーい、そろそろ帰るよ。
 パルタは・・・『デギャアアアァァァァ・・』あ、入院中の実装石のリハビリに付き合っているのね。柵の中を逃げ
惑う裸飼蟲達は嬉しそうに追いかけるパルタが跳ねる度血しぶきをあげて柵にぶち当たっていた。『デエエェェン!』
あ、パルタ!髪はまずいぞ。そんなに咥えて振り回したら・・・・
 
「心配すんな!偽石は抜いてあるし、イザとなりゃ皮膚ごと引っ剥がして再生させてやるから。」
いつの間にか僕の後ろにいた先生が威勢良くパルタに声をかける。その声に応えるようにパルタがより一層激しく
首を振った直後・・・「デギャッ!!」野良の禿裸と変わらないみすぼらしい実装石が僕の目の前の柵に熱烈な
キスをしていた。
 


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 あくる朝いつもより早い目にパルタの散歩にでかけた。目的はもちろん例の“糞まみれ実装石”の調査である。
別に役所の人間じゃあるまいし、こんなことをしても一銭の得にもならないのは分かっているが、並の実装紅の
3倍や4倍ではきかないロッソのワクチン代を“実装紅1匹分”しかとらず、パルタに至っては「歯石とっただけ
だから」とタダにしてもらった以上僕も何らかのモノを返す義理があるだろう(センセイには完全に僕の性格読まれ
てる)。公園内を一周してパルタとロッソを帰してから適当な植込を見つけ、中にいた野良を追い出すと中でじっと
様子をうかがった。


 日の出と同時くらいから何処からともなくお年寄りたちが集まり始めゆっくり公園内を散策したり体操らしきモノ
を始めたりした。
 確かに“糞まみれ実装石”(以下糞実装)は現れない。稀に実装石が顔を出しても、ごくごく普通に仔供を抱いて
媚ポーズをとり餌か蹴りをもらってるくらいだ。

「今日は出ない・・か?・・・」
 そう思いながらも、もう少し頑張ってみようと腰を据え直した直後、朝連に向かうらしい高校生が公園の中に入って
来た。するとそれを待っていたかのように例の“糞実装”が向かいの花壇から飛び出した。

『デエエエッッッッズウウウウウウーーーッッッ!!!!』

「うわっ!またかよ!」
 いきなり出現した糞実装に一瞬驚いたようだが、そこはさすが体育会系の学生である。なんなく糞実装を跳び越す
と悪態をつきながら駅へと走って行った。

『デエェ・・・』
 するとどうした訳か件の糞実装は急に戦意を喪失したかのように元気を無くしトボトボと花壇の中に入って行った。

「かまって欲しかった・・・って訳ないよなぁ・・・」
 ますますもって分からんと首をひねっていると今度はどこかに出かけるらしい老夫婦が楽しそうに話しながらやって
来た。

『デズォォォォッッ!』『デジュアアアアアアァァァァッーーーー!!!』
 相手が年寄りなら勝てると踏んだのか今度は複数の糞実装が飛び出し、驚きのあまり固まってしまった老夫婦を包囲
している。御主人の方は何とか糞実装を追い払おうと脚を振り回すが当ててこないと分かっているらしく糞実装どもが
怯む気配は無い。そうこうするうちに御婦人のほうがヒキツケのような症状を見せ始めた。これはさすがにマズイ。


「とりゃぁぁぁぁーーーーっっ!真空跳〇蹴りっっ!!」
 生では僕も見たことのない昔の技の名前を叫びながら糞実装をを吹っ飛ばす。この際ユ〇クロのスゥェットごときを
惜しむ貧乏根性と“膝使ってねーじゃん”というツッコミは無視だ。
 糞実装どもを踏み潰し持参したビニール袋に詰め込んでから老夫婦に駆け寄る。幸い二人とも実害は無いようなので
脇のベンチに座らせ落ち着かせることにした。


「ありがとうございました。本当に助かりました。」
 少し時間をおいたお陰で落ち着いたらしい二人が僕に話しかける。完全にパニックになっていたらしく僕が植込み
の中から飛び出したところは幸い見られていなかったようだ。
「しかし、あれは何だったんでしょう?よくこの公園には来ますがあんなに汚い実装石を見たのは初めてです。」

 あ、そう言えば早朝に公園を散歩していた老人達の前には糞実装は現れなかったな。逆代先生も「お年寄りはその
糞まみれのヤツを見たことがない」って言ってたし・・・
 老夫婦が話すには「よく公園を散策しているが糞実装を見たのは今回が初めて。」とのこと。近所のサラリーマン
や学生が見たと言っていた“すごく汚い実装石”の話も話が大きくなっているくらいに考えていたのでがあれほど
とは思っていなかったと少なからずショックを受けたようだ。


「するとサラリーマンや学生の前に主に出現するのは間違い無いわけだ。さっきの学生も“またかよ”って言って
たし・・・しかし、だったら何故この老夫婦の前には飛び出してきたんだろう・・・・・・」
 もう少し情報が欲しかったが、この老夫婦もこれ以上のことは知らないだろう。先週生まれた初曾孫の顔を見に行く
と言う二人を念の為駅まで見送り、スゥェットを弁償すると言って聞かない二人を半ば強引に改札口に押し込むと
再び植込みに身を潜めた。


 とにかく、あの糞実装達が何らかの目的をもって顔を出す相手を選んでいるのは間違いない。それを絶対確認して
やろうと妙な意地を出してトイレさえ我慢して待っていると今度は二駅ほど先にある私立小学校の制服を着た兄妹が
手を繋いでやって来た。

「きゃあぁっ!おにいちゃあぁぁん!」「うわっ、こっち来るな!!」
 再びターゲットを包囲した糞実装が害を及ぼす前に僕が飛び出そうとした刹那、
「来るなって言ってるだろっっ!」
男の子が叫びながらコロリかシビレらしきスプレーを吹き始めた。残念ながら目Pi-!滅法に振り回しているので糞実装
達には効果は無いようだが危険であることは理解したらしく包囲網が崩れた。その隙に二人とも逃げてくれたので今回
も被害は無かったようだ。

『デエェ・・・』
 再び何か憑き物が落ちたかのようにおとなしくなる糞実装達。はて?確かこいつら小学生の前には姿見せないんじゃ
無かったっけ?ブツブツ言っているのが聞こえたのでリンガルをとり出し向けて見ると・・・

『デェ・・、今日は調子悪いデス』
『そんなこと無いデス。まだちょっと早いだけデス』
『そうデス、もう少ししたらエモノがたくさん通る時間デス』
『でも、糞まみれは気持ち悪いデス。早く“狩リ”を終わらせてさっぱりしたいデス』
と言い合っているのが聞こえた。

 “獲物”?“狩リ”?まさかこの糞実装達は人間狩でもしてるつもりなのか?
 しかし、もしそうならさっきの老夫婦なんかはそれなりに被害を受けててもおかしくないよな?さっき観察させて
もらった限りでは糞実装達は威嚇しながら周りをうろつくことはあっても何らかの攻撃をする素振りは見せなかった。
 
「一体、奴らの言う“狩リ”とは何ぞや?」
一応目的は分かったがその真意は未だ見えない。しばらくすると今度はキャリアウーマンらしき女性が先程と同じ
私立小学校の制服を着た女の子の手をひきながら入って来た。



『デジュアアアアアアァァァァッーーーー!!!』『デギャギャアアアアアアァァァァッーーーー!!!』
 何か先程より迫力が有る。どうもこの親子連れは糞実装達にとって“イイ獲物”らしい。

「やだーーーっ!ママァーッ!!」「ちょ、ちょっと来ないでよ!」
 そりゃ、あれだけめかしこんでいるのだから糞実装に汚されてはたまらないだろう。すると、
「もう、あっち行きなさい!」
とバッグから何かを取り出すと今自分達が来た方向に放り投げた。すると、
『デエエエエエエエェーーーッ!』
とおかしな掛け声と共に二人の周りにいた糞実装達が一斉にそちらに走って行った。その隙に二人は駅に向かった
ようだ。

「あ、あれってもしかして・・・」
 ふと奴らのいう“獲物”が何なのか分かったような気がした。程なく糞実装達がゾロゾロと戻ってきた。



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『デププププ、一番エモノゲットデッスーン♪』
グチャグチャと涎をこぼしながら口を動かす糞実装が御機嫌そうに言った。
『デェ、惜しかったデス後モウチョットだったのにデス・・・』
『デモこれで勢いがついたデス。後はこの勢いで“狩リ”を続けるデス。』
『じゃ、ワタシはこれで失礼するデス。』
そう言うと口を動かしていた糞実装は噴水の方へ歩いて行き、他の糞実装達は再び花壇の中に隠れて行った。




「キャーッ!寄んないでよっ!!」「チッ!汚ねェなぁ!」

 その後も途切れることなく公園を横切る通勤通学客の前に糞実装が立ちふさがる。どうやら大抵の人は糞実装の
出現には有る程度慣れているようだ。金平糖や齧りかけのパン(場合によっては小石やコロリ)を放り投げその隙に
駅へと走って行く。中には運悪く何度も糞実装に遭遇する人もいるようだが。
 公園の其処かしこに“ハトと実装石にエサを与えないで下さい”と看板が掲げられているがまぁしょうがないと
言えばしょうがないのだろう。
 
 糞実装達も自分達に被害が及ばない距離がある程度分かっているようでギリギリの距離を保ちながら、
『糞まみれデズヨーッ!!』
『バッチイ、バッチイデズヨーッ!』
とやりながらも人間の攻撃圏内には入ろうとしない。まぁ中にはドン臭いのもいて
『デギャッッ!』と踏み潰されたり条件反射で虐待派らしい学生に蹴っ飛ばされているのもいたが。
 その度に「ちきしょーっ。今日は遅刻だぜ。」と言いながら帰っていくのが見えた。遅刻ぐらいで済めばいいが、
スーツに実装糞がついたら処分するしかないだろうに。




『テチャァァァァァァッ!』『デエェェェェェェェェェェェン!!』今度は反対に駅の方から実装石の悲鳴と子供達の歓声が聞こえた。
『デスゥ!デエエエェェェン!!(ヤメルデス!仔を返すデス。今ならコンペ・・(以下略))』
 下半身にラップを巻きつけた2匹の仔実装の後ろ髪を結びつけアメリカンクラッカーのようにビッタンビッタン
やりながら小学生達が学校に向かうようだ。その後を仔を取り返そうと親実装が必死に追いかけている。あれは
商店街に住んでるガキ共だ。
『チャガッ!(X2)』『デゲッ!』公園を出る間際に親実装の顔にアメリカンクラッカーを叩きつけると元気に
学校のほうへ走って行った。今日も1日がんばれよー。


 ここまでの観察を終えて糞実装達の目的と考えがようやくつかめた。
 何のことは無い、奴らの言う“狩リ”とは人間にまとわりついて金平糖や飴玉といった“獲物”をせしめること
だったのだ。大方通勤途中のサラリーマンか誰かがデスデス寄って来る野良蟲を避けるために金平糖か何かを投げた
ことで“寄って行ってまとわりつくとニンゲンは餌を投げる”と学習したのだろう。
 おそらくその際に、自分達は汚ければ汚いほど、人間が綺麗な服を着ていれば着ているほど人間からは攻撃され
にくいと気付いたのだ。そう考えれば今朝見てきた糞実装達の行動は総て説明がつく。


 この駅前公園は50年近く前、駅が整備されると同時に作られたこの辺りの施設としては云わば“最古参”だ。
開発の波の中、何度か取壊しの話もあったが、“市民の憩いの場所”としてその度に開発を免れ、今ではこの公園を
中心に建物が立ち並ぶ町のシンボルになっている(只、開発を免れた真相は虐待派の議員が自分達が手近に遊べる場所
を残すために動いたという説もあるが・・・)。
 確かに、駅の真正面に有る緑一杯の公園というのは悪くはないがその分不便も有る。
 先述したように建物は総て駅とは公園をはさんだ反対側にあり、駐輪場なんかもその内の一つだ。中には公園の中
に自転車を停める不届きモノもいるが、駅前という立地故目が多いことと、結構仕事熱心なシルバー人材センターの
皆さんが多い為意外なほど不法駐輪は少ない。
 線路の反対側。旧の駅前に当たる商店街(僕の住み着いているオンボロビルもここにある)の中にも駐輪場はあるが
規模も小さい上、多くの人は公園側から更に向こうの(元)ニュータウンに住んでいるためこちらを利用する人は少数派だ。
 結果、多くの人が朝、近道として公園の中の道を駅へと向かう。僕が今隠れているのもそんな道の内の一つだ。


 朝一で公園にやって来た老人達の前には姿を見せず、例の老夫婦の前には飛び出したのは恐らく着ている物の違い
を見てだろう。実装石達が何を基準に服装の判断をしているのかまでは知らないが、朝一の老人達がジャージや軽装
だったのに対して例の老夫婦は明らかに余所行きとわかる服装をしていた。多分背広や制服も同じ基準で見ている
のだろう。誰だって制服やスーツを実装糞で汚したくなんてないからな。まして衣替え直後の卸したてなら尚更に。
 今月に入ってから増えたのはたぶん“クールビズ”と違い見分けがつけ易くなったからだろう。

 子供に対してもそうだ。制服姿のお上品な私立小学校の生徒なら糞実装を嫌ってエサ投げをしてくれるか、最悪
でも逃げるくらいだろうが、私服姿の悪ガキ共ならそうはいかない。よほど洗濯が大変な冬服でもない限り何の躊躇
もなく蹴っ飛ばすだろうし、ヘタをすりゃ服が汚されたことを口実に学校をサボろうと考えたガキ共に踏み潰される
恐れだってある。その辺は奴らなりに考えているのだろう。

 そう考えれば昨日僕が糞実装達に囲まれたのも説明がつく。あの時僕は仕事帰りでスーツ姿のままだった。きっと
朝“獲物”を取り損ねた連中が僕がズボンを汚されるのを嫌って何かアマアマを投げると期待して集団で飛び出し
てきたのだ。尤も期待とは裏腹にミンチになってしまったわけだが・・・・

 
 気がつけば日もだいぶ高くなっている。通勤時間のピークも過ぎただろう。糞実装達もそれに気付いたようで
ゾロゾロと噴水のほうに歩いて行ったので後を追ってみることにした。

『今日は殺されたヤツが多かったデスね。』
『まぁバカが死ぬのはイイコトデス。』
『そのとうりデス。バカが減ったほうが賢いワタシ達の“獲物”が増えるデス。』

 口々に無駄話をしながら服を・・アレ?糞塗れの服を脱いだら下からデフォの緑服の実装石が現れた。注意して
耳を澄ますと糞塗れの服からはカサカサした音が聞こえる。

『デェ・・、暑かったデス』
『この服のお陰で“狩リ”がうまくいくデス。文句言うなデス。』

 無駄話を続けながら糞服を噴水で濯ぎ始めると白い・・・あ、ありゃコンビニのビニール袋だ。
 なるほど、レインコートのようにコンビニ袋をかぶった上から糞を塗りつけて糞実装が完成していたわけだ。
いくら実装石とはいえ大事な自分の実装服に糞をつける気にはなれないのだろう。尤も、袋を濯いだ後の糞緑色の
噴水で行水や洗濯を始めるヤツが何匹かいるあたり意味があるのかないのか分からんが・・・

『デププ。今頃まで“狩リ”デスか?』
 どうやら最初のほうでエサを拾えたらしい実装石が冷やかしに来たようだ。
『全く、オ前タチはどうしようも無いグズデスね。ワタシはもうオ風呂も洗濯も終わったからこれからオ昼寝デスヨ♪』
 それだけ言うと仔を連れて自分のダンボールに向かったようだ。はっきりとは分からないがどうやら実装石達
の間では一度エサ拾いに成功するとその日はもう“狩リ”には参加できない不文律のような物があるらしい。
 
 ノロノロと普通の実装石に戻った糞実装達が撤収を始めたので僕も帰ることにした。

「たく、悪知恵だけは人並みだな。」
 思わず声に出してしまう。帰りの道すがら踏み潰された糞実装の屍骸から喰えそうな肉を拾っているヤツが何匹かいた。
どうやら“狩リ”には参加しない慎重派も公園内には存在するようだ。ついでに糞の掃除もしておいてくれればありがたい
のだか・・・




「なぁ、頼むよ。ロッソ。10時から人に会わなきゃならないんだ。」

『そんな汚い格好でお家に入れるわけないでしょ!ココで脱いで頂戴なのダワ!』
 ビルの入口で箒を振り回し悲鳴に近い叫び声をあげるロッソと帰ってから一悶着があった。ビルの玄関先を掃除していた
ロッソが糞まみれのズボンを見て中に入れてくれなかったのだ。やむなく往来の真ん中でズボンを脱ぐ羽目になったのだが
・・・・良かった・・・・、今日はまともなパンツ穿いてた。




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「なるほどねぇー。、悪知恵だけは人並みだな。」
 どこかで聞いたようなことを言いながら逆代先生がコーヒーの入ったマグカップを差し出す。次の日一応分かった
ことだけでも報告しておこうと先生の所にやって来たのだ。その際、念の為作業服姿で公園の中を横切ってみたが
やはり糞実装は一匹も現れなかった。

「つまり、アイツ等は服装で攻撃対象を決めているわけだ。」

「そうみたいですね。“余所行き”姿なら老若男女を問わない。」

「しかし、うまいこと考えやがったな。俺だって一張羅汚れるよりは糞蟲にエサくれてやるわな。」

 先生の話によると、あの公園の実装石達は夜明け前には生ゴミ漁りを終えて公園に戻っているそうな。というのも
公園を囲むように建つビルには駅前ということもあり結構たくさんの飲食店が入っている。その多くは深夜に営業
を終えてそのままゴミを出すため夜明け前、回収車が来るまでの所謂真夜中がエサ集めのピークになるらしい。
 もちろん、どの店もそれなりに実装石対策をとってはいるが割と繁盛している店が多くゴミが溢れることも少なく
ない。稀に愛護派のバイト店員がいたりするとワザとゴミ箱の蓋を開けたままにしてたりもするから実装石達がエサ
に困ることはまず無いらしい。
 つまりヤツ等にとって糞まみれ姿での“狩リ”は通常のエサ漁りを終えた後の貴重なアマアマをゲットするため
のお手軽なバイトといったところか・・・


「でも、あのままにしておくのもチョットまずいですよね。今のところ被害は無いみたいですけど。」

「何言ってるの?もう充分被害出てるじゃん。」
 僕のズボンを指差し先生が笑いながら否定した。確かに昨日穿いていたスゥェットはあの後ロッソが何回も洗濯
を繰り返しファ〇リーズに漬け込んでしまっている。でも、使えるかどうかは五分五分だよなぁ・・・

「それに、人間が攻撃してこないとなればトコトン付け上るのが実装石だからね。被害が大きくなる前に対策を
考えないと。」

 確かに先生の言うとおりかも知れない。今のところ服の裾が汚れる程度(これも服によっては深刻だが)の被害で
済んでいるが増長した実装石が今後被害を大きくする可能性は否定できない。現に、昨日も子供やお年寄りだけ
ならかなり危険な状況であったのは事実だ。

「となると、やはり・・・・」

「“清掃”だね。」
 先生がこれ以上楽しいことは無いと言わんばかりの笑顔を見せる。僕より10才近く年上なのにこの時の笑顔は
近所の悪ガキ共と変わらない。なるべくかかわらないほうが良いと判断しお暇させてもらった。


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 長くなってしまったので分けてお届けします。もしよろしければ後半も読んでやって下さい。

 拙スク“カラーマジック”に沢山の感想を頂きたいへんありがとうございました。

 ロッソ→男性形 ロッサ→女性形、モノクロ画面の色の判別方etc.色々とおかしな所があったようですが
そこは何卒御容赦のほどを。

 レーザーポインターのネタ絵はあの後塩の保管庫で拝見しましたFLASHさんのアイデアだったのですね。
“光線で強制出産”というネタを思いついた時自分ではやったーと思ったのですがやはり先達は偉大ですね。


過去スク

sc1612. 二種混合 
sc1630. カラーマジック



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