タイトル:託児オムニバス3(後編)
ファイル:託児オムニバス3(後編).txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4396 レス数:0
初投稿日時:2008/10/12-05:38:29修正日時:2008/10/12-05:38:29
←戻る↓レスへ飛ぶ




















二葉市のとある小公園。
個室が2つと小便器数個という小汚い公園便所で奇声が1つ上がっていた。
便所前に止めてある自転車。そして便所の中に居たのは次女の仔実装を託児されたあの青年だった。

「ヒャッハァー! もう我慢できねぇ、今日は集会だぜぇ!!」

そそくさと一つ目のトイレの個室で服を着替える。
今時のスタイルから、何やら怪しげな格好へと素早く着替えていく。

二葉市発祥の新興宗教団体『デッスンコート』。
信者はカリカチュアされた実装服(頭巾と服が繋がった貫頭衣がイメージとして望ましい。勿論化学繊維)を着ている。
そして顔はオッドアイのレンズを填め、兎口状の吸気口と排気口が付いている全面マスクを装着していた。

彼は二ヶ月前からその宗教の信者として活動していた。
託児仔実装専門虐待派だった彼は、託児された仔を教祖への生け贄に捧げているのである。

仔実装が水を浴びながら洗面台で上げる悲鳴が心地の良いBGM。
仔実装は洗面台から這い上がる事が出来ない。深さもそうであるが、最初に吹きかけられた霧吹きの水。
かなり薄目に配合した実装シビレ。それこそ仔実装の身体を常時正座して痺れた程度の麻痺状態にする程度のもの。
それでも、仔実装の逃亡阻止としては充分過ぎる威力を誇る。
実際、託児の仔を水で洗う際、洗面台から逃亡(投身自殺)出来た奴は居ない。
彼曰く、『逃走を封じても逃走の気力は封じないのが俺式虐待道』らしい。

「よっしゃー、準備完了。今宵は救済の夜だ、さぁ逝こうぜ仔蟲ちゃん!!」
「テチャアアアアア!!」

必死に拒絶の叫び声を上げる仔実装をビニール袋に放り込み、信者スタイルの青年は意気揚々と自転車を漕いで公園から去っていく。
警邏中の警察官がそれを見かけたが、溜息を吐いて首を軽く左右に振りながら去っていってしまった。







「デース、デスデスデス? デェェェェスッ!?」

親実装———次女は必死に鼻をひくつかせながら、トイレの中を探し回っていた。
随分引き離されてしまった彼女が公園のトイレに到達したのは、青年がトイレを去ってから優に2時間は経過した後という手遅れ具合。
最早ここで捜索を続けても全くの無意味であるが、そんな事を理解出来るような次女ではない。
愚直に臭いが最後に確認出来るこの場を堂々巡りするだけだ。

「デスデスデスデスデスデスデスデッシャアアアアア!!??」

2つの個室の内、億の個室の閉められたドアを叩きまくる次女。
トイレのドコを探しても我が仔は居ない。臭いも此処で途切れている。
ならば、この個室の中に人間が隠したに違いない。出て来い、卑怯なニンゲンめ!
自分が勝手に託児した分際にも関わらず自己完結的なトンチキ極まりない言い分で猛り狂いながら、ドアをひたすら叩きまくる次女。

キィ〜〜…………。

「デス!?」

唐突に個室のドアが開いた。

「…………」

開いた扉の間に広がる闇の空間。
穏和そうな、青年の顔が暗い個室の中にぼんやりと浮かんでいた。
浮かび上がった顔は、特に何をするでもなく、ただ静かに次女を見下ろしている。

「デスー……デデッ、デス、デスデスデス!」

リアクションが無く見覚えもない青年に、一瞬どうしたものかと途惑った次女であるがそこは実装石。
早速と言わんばかりに質問か罵倒か尋問かよく解らない言葉の速射砲を連打し始める。
だがその耳障りなわめき声は、唐突に終わった。

「デシャア、デスデスデゥ、デギャ!?」

頭を鷲掴みにされ宙づり状態の次女が、目をギョロギョロ動かしつつ青年を見上げる。
頭蓋をメキメキと軋みそうな握力で掴んでる青年の表情は、全くを持って静謐だった。

しかし、行動そのものはアクティブだった。

「デギョォ!?」

一瞬で青年の腕によって個室内に引き込まれる次女。
続けざまに勢い良くドアが叩き付けられるような音と共に閉まり、ガジャンと荒々しく錠が掛けられる。


グキ、ポク、ゴキ、グシャ、メキョ、ヌヂィ、ビギチチチチ、メキメキメキ、ブチッ、ビリリリリリ……ボタボタボタ。


暫くの間、砕く音と裂く音と何かが零れる湿った音が締め切った個室の中で響いていた。
やがて、個室の床から静かに赤と緑の血溜まりが広がっていく。


キィ〜〜…………ゴロン。

僅かに空いたドアの隙間から、両目をえぐり取られ舌を引き抜かれた次女の頭が転がり出る。
首の傷口は強引に首元をねじ切ったような切断面だった。

ゴロン……ゴロン……ゴロン……ゴロン……ゴト。

便所の小便器の下まで転がった頭は、ようやく壁際で止まった。

後は微かに本のページを捲る音だけが響き、公園のトイレは静寂を取り戻したのであった……。






同時刻。


「不浄なるモノ達よ。終息の刻は今こそ来たれり!」

百数十人の貫頭衣タイプの実装服に身を包んだ虐待派が、『円卓』にある野外劇場に集まっていた。
大きな篝火が幾つも焚かれ、劇場の円台を照らし出している。
その中央に築かれた祭壇の傍に大きな篭が置かれ、中で信者達が奉納した実装石達が惨めに泣き喚いている。

そして、緑と赤の酷く血生臭い司祭服に身を包んだ中年男が、儀式用のインゴット装飾付き銀バールのようなモノを掲げ叫んでいた。

「今宵も不浄なるモノ達の、汚らわしいその魂を永遠に浄化させ、汚れてしまった現世を清めるのだ!!」

完全にイッた目をして信者に熱弁を振るう中年男。
彼こそは新興宗教団体『デッスンコート』の教祖である。
本名、年齢などは不明、しかしそのぶっ飛んだ言動とカリスマ性で信者を集めていた。


デッスン・コートの教義はとても簡単、

『糞蟲は世界の穢れ、即ち虐待したりぶっ殺したりするのが救済』

『だから世界に存在する実装石は須く虐待するか殺しましょうもう我慢できねぇヒャッハー』

というイエローピーポー振り。はっきりいってキ○ガイである。


「教祖様、本日初めの生け贄でございます。あ、俺が捕まえた罪深き託児蟲です」
「テチャー、テチテチィー!!」

先程の青年っぽいデッスンコート信者が、篭から仔実装を引き出し、教祖の前にある祭壇へと載せた。
手早く拘束用のベルトで祭壇に仔実装を固定し、教祖に向かって恭しく一礼をしてから数歩下がった。

「ほう……託児とな。年端もいかぬとは言え何という罪深き事を……」

充血しきった両目から、ハラハラと涙を流す教祖。
涙は黒ずんだ隈と痩せこけカサカサになった頬と顎を伝い、色褪せた円台へと落ちて染みとなった。

血涙を流しパンコンする次女の仔実装は、何故このニンゲンが泣いているのかは理解出来なかった。
だが、その実装石らしい考えを持ってこれを好機と捉えた。

つまり、

泣いているニンゲン=カワイソウな自分に同情している=助けてくれる=飼ってくれる=ウハウハ飼い実装生活

という超展開具合だ。
超展開な思考を経て、仔実装は自らがやるべき事を理解した。
立ち上げる事は出来ないが、動かないのは背中だけなので問題ない。
即ち、

何とか動く可愛いお手々を頬に当て、

愛らしい小首を傾げ、

魅惑的なお目々を上目遣いにし、

「テッチューン♪」

全力で教祖に向かって媚びた。

「神よ……」

震えるような声音で、教祖は静かに呟いた。
相変わらず仔実装は教祖に向けて必死に媚びている。
震えが声だけではなく、全身にも熾りのように広がってる。


流石に様子がおかしいと理解した仔実装が、媚びのポーズは止めないものの「テェ?」と疑問系の鳴き声を発した瞬間。


「「ヂ」この胸糞悪い仔糞蟲の魂と身を浄化したまえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

声よりも先に飛来したバールが、祭壇に若干埋没しつつ血飛沫と肉片を半径十数メートルに渡ってぶちまけた。

おお、地獄に落とされた糞蟲に神の追い打ちあれと祈りを捧げる信者。
今宵も教祖のバールは最高だぜヒャッハーとテンションを高める信者。
うわ、汚ねぇ血を被ってしまったぜ少しは加減しろよなこの基地外と毒づくにわか信者。

そんな信者達の反応に目もくれず、血と糞と内蔵にまみれた教祖はバールを掲げて叫ぶ。

「今、糞仔蟲の魂は浄化され清められた! 我等は功徳を神のおわす世界に対しまた1つ刻んだのである、さぁ、次の生け贄を捧げよ!」
『デッスン・ヒャッハー!!』

教祖と信者の唱和に応えるようにして、実装石達の悲鳴が公園に轟く。

『デギャアアアアアア!!!』
『デヂャアアアアアアアアアア!!!』
『レピャアアアアアアア!!!』

狂乱と狂信の儀式は、まだ始まったばかりである……。












三女と仔実装は抱き合いながら、震えてきた。
彼女らは、今、人間の建物の中に居る。
そして強化ガラスケースの中に糞抜きを行った上で監禁されていた。

親実装は、暫く老人を追跡していたところ暗がりに入った瞬間に意識が途絶えた。
仔実装は、暫く買い物袋の中身を貪った後で1つのあめ玉を口に入れた瞬間に意識が途絶えた。

親仔が次に気が付いた時には、もうこのガラスケースに入れられていた。
彼女らは知らない事であるが、そこは大きな会議室であった。

壁には二葉市の市章に赤色と緑色のバールが交差するように重ねられた旗が貼り付けられ。
二葉市全域を映し出されたモニターが設置され、あちこちに光点が点いたり消えたりしていた。
何よりも中央に円卓状の大きな机が置いてあり、そこには4人の男性が腰掛けていた。

「ジー大人(ターレン)、そのような糞親仔を持ち込まれるとは。何かの余興かな?」
「ほっほっほ、まぁ、そんなトコじゃよグリューン准将殿。ここに来る前に運良く託児されたんでなぁ」
「ははは、相変わらず託児がお好きですね大人は」

在日米軍二葉基地司令、グリューン・ホフネスト准将。
二葉市中華街の華僑元締め、ジー・シー大人。
二葉市市議会議長、日双俊章。
メイデン社二葉市支社取締役、侍倉登志晃。

この4人を含む市長・警察署長・駐在自衛隊基地高官・裁判長・地元出身の与党議員の10人に満たない虐待派の重鎮。
彼らがこの街……いやこの県一帯に居る多数の実装虐待派や団体を取り仕切っていた。
この県で虐待派が思う存分活躍できる反面、その行為が問題として表面化したり犯罪にならないよう抑制・統制されているのも彼らの尽力である。

「ま、何時も通りの定例会議だけじゃつまらんからのぉ。会議も終わった事じゃし今日は御主の連れが来る事を思い出して即興を思いついたのよ」
「ほぉ、それはそれは……」

ジー大人は会議室の側にある控え室へと目をやり、何やら登志晃に耳打ちする。
そこには、取締役がこういう会議などに偶に連れてくる付き人が居るからだ。
それは、つい最近の事だった。ほんの、数ヶ月前からの事。

「解りました。ではそのように趣向を凝らしましょう……ガラスケースを開けなさい」
「ボクッ」

壁際に控えていた数匹の成体実蒼石がガラスケースを取り囲んだ後、リーダー格が手にしたリモコンのボタンを押した。
円卓の方に面したガラスが上にスライドし、実装石達は部屋の中に入れるようになった。
出口が開いたとはいえ二匹とも動けない。周りに圧迫するような気配を放つ実蒼石が包囲する形で立っているからだ。
登志晃はすっと黒い革張りの椅子から腰を上げると、洗練された物腰でガラスケースに歩み寄り親仔に声を掛けた。

「お二方。勝負を、しませんか?」
「デ?」「テェ?」
「本来であれば、託児なぞをしたあなた方は実蒼石の鋏の錆にならなければなりません。ですが、勝負をして勝つ事が出来れば殺すのは止めましょう」

二匹とも、オドオドと登志晃の顔を見上げるばかりだ。
普通ならここで罵声と要求の連呼を人間に浴びせ、叩き潰されるのがテンプレートであるが周りに天敵が居る為にそうも出来ない様だ。

「親仔で私の飼っている実装石と勝負してください。勝てた場合、飼い実装として最高待遇でおもてなし致しましょう」
「テェェェ!」「デデッ!」
「ただし……」
「テェ」「デェ?」
「負けた場合は、相応の覚悟をして頂きますよ。あ、我々全て虐待派ですから」

登志晃は、にこやかに自分達の正体を告げた。

「慈悲や許容、妥協なんてものは求めない事です。余興でなければ、即座に偽石が自壊しない程度に縊ってた所ですしね」

一見紳士的とも言える背広姿の全身からどす黒い悪意が滲み出る。
強烈な悪意を直に受け、仔も親も無様に腰を抜かしてしまった。糞を抜いてなければパンコンしてただろう。

「さて、お二方は私の用意する勝負を受ける。それでよろしいですか?」

傍に居た実蒼石に鋏を突き付けられて返事を急かされ、二匹はガクガクと猛烈に首を縦に振る。

「よろしい。それでは私の飼い実装をご紹介しましょう。……ティチ、お出でなさい」

登志晃が軽やかにパンパンと手を打ち鳴らす。
打ち鳴らされた手の音に呼応するように、会議室に連なる控え室の扉が静かに開く。

「テ、テェ!!」
「デェ!!」

何も知らない人ならば、思わず感嘆の溜息を漏らしていただろう。
精巧な人形のような雰囲気を纏う美少女がそこにいた。

年頃は人間にして15〜16歳位か。
精巧なビスク・ドールの如く整った面持ちは、まさに作られた人形を思わせる。
力を込めれば折れてしまいそうなほっそりとした手足と、150cmに満たない小柄な身長。
太股まで届くややカールした亜麻色の艶やかな髪と、抜けるように白くて張りのある柔肌。
ただ、尖った耳と、澄んだオッドアイの瞳孔が普通の人間ではない事を示している。

欧州ブランド会社製オーダーメイドのイブニングドレスを着た少女はしずしずと部屋の中に入ると、やや固い仕草で幹部達に深々と礼をした。
エメラルドグリーン色のドレスから露出してる細い肩が白く眩しく輝き、薄化粧の中薄く引いたルージュが幼さを残した顔に妖しさを醸し出す。
履いている艶やかなハイヒールが、会議室の明かりを磨き上げられた表面でテラテラと反射した。

「ふむ、前よりは礼節が上手くなったようだね……ティチ、顔を上げてもいいですよ」
「ほう、ますます仕草が滑らかになってきたようですなぁ」
「ふん、まさに学習する生きた人形だな」
「ほっほっほ……」

幹部達の感嘆と嘲笑が入り交じった声音に、彼女の唇がほんの少しだけ引き締まる。
と、その時、会議室に酷く耳障りな大声が2つ上がった。

「デ、デジャアアアアアアアア、デシャッアアアアアアアアアア!!!」
「デヂャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

大して気性の激しい訳でもない次女の仔実装が凄まじい敵意と嫉妬を全面に出し、四つん這いになって吼えている。
いや、仔実装どころか親実装である三女もティチに対し敵意剥き出しである。周りに凄腕の虐待派と実蒼石が居るにもかかわらず、だ。
糞抜きしてなければとっくに糞投げをしていただろう。
実蒼石達も、威嚇する実装石達を止めはしない。
ただ、実害のある行動を取れば即座に腕と足をへし折る位はやるつもりだ。

「お二方、どうか静粛に」
「デ、デジャアアアアアアアア、デシャッアアアアアアアアアア!!!」
「デヂャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「静かに、なさい?」

チラリと目配せした瞬間。

「デベ!」
「ジベ!」

親仔は叩き伏せられ、実蒼石によって押さえ付けられた。
ティチの肩がピクンと動き、儚げな顔立ちが少しだけ俯く。

「勝負の題目を言いますので静粛に。よろしいですか?」
「デゲ、モゴ」
「デチ、フガ」

鋏の刃を首筋に押し当てられ、ようやく落ち着いたのか親仔は首を縦に振る。
しかし、それでも尚ティチに向けられた視線は憎悪に充ち満ちている。

「さて、勝負の題目は三つ。おあいそ、踊り、歌、どれも実装石が人間に対して好んで行うアピールですね」
「……」
「…………」
「ちなみに審査員は、私達ですよ。ちゃんと公平に審査しますのでご安心を……勿論、得意ですよね? 託児をした後で、人間に媚びるつもりだったんでしょ?」
「……」
「…………」

静かな微笑みを湛えた登志晃の言葉に、幹部達は冷笑を浮かべた。

「いやはや、一山幾らの親仔蟲が羽化した実装石に勝てるなんて事有り得るのかな?」
「勝てるとすれば、面の醜さや性根の腐れ具合じゃろな」
「ハハハご覧くださいあの仔蟲の様子を。堪らなく醜い憤怒の顔ですねぇ!」

幹部達の声を他所に三女親仔は無言のままティチに向き直る。
絶対に負けるつもりはなかった。あんな、あんな存在が居ていい訳がない。
認めるつもりはない。あんなのが同属であっていい訳がない。

親仔の気持ちは、全く同じだった。

ティチと呼ばれた、ニンゲンと同じ姿をした存在など認めない。
あんな素敵な服を着て、何不自由してないような生活を送るだなんて。
そんな認めれない存在からワタシ達と同じ生命を感じるだなんて。
タイセツな石の力を感じるだなんて。

ゼッタイニ、ゼッタイニ、ゼッタイに認められるものか!!

親仔は気付かなかった。
否定している対象に自らが、どうしようもなく嫉妬している事に。
嫉妬し憎む理由が、地を這う生き物が空を飛ぶ鳥を羨むような事に。

最後の最後まで、実装石らしく愚かしく気付く事は無かった。

「それでは、まずお愛想をしてみましょうか?」

奮起する親仔に対し冷や水を浴びせるが如く、登志晃の声が会議室に響き渡った。





結果は、当然のように三女達の大惨敗であった。
おあいそ、踊り、歌。全てに置いて三女達は敗れ去った。
ドコにでもいる知性も性根も標準よりも若干上程度の実装石の親仔が、登志晃の調教を受けた羽化実装石に勝てる道理など無いのだ。

ここまでは幹部達も予想し期待してた展開であった。
しかし、余興の割には三人の幹部達はすこぶる機嫌が良く楽しんでるようだ。

「おお……何ともはやいい顔ですねぇ」
「何というデリシャスな形相だ。ファッキンな糞蟲にしてはいい顔じゃないか」
「ほっほー、ちょっとした暇潰しのつもりじゃったが、何ともいい顔を見れたのぉ♪」

三女親仔は、最後にちょっとしたサプライズを見せてくれた。

どうしても認められない存在にどう足掻いても勝てない、そんな存在に完全無欠に負けた三女親仔。
彼女らは敗北が確定した瞬間、会議室の人間が思わず顔を顰める程の大声を上げたのだ。

「……」
「…………」

二匹並んで天上を見上げている親仔実装石。
まるで何かを求めるかのように両手を上に突き出している。
口は顎が外れた程に大きく開いたまま。
真っ白になった両目は目蓋が戻らない程に開いたまま。
鼻の穴は体液をいまだに流しながら大きく開いたまま。
これでもかと流された血涙は、二匹の頬と服と会議室の床を塗らしている。


二匹の顔は、どうしても認めたくない存在に完全無欠にこれ以上ない程敗北した。
そんな絶望がありありと浮かんだ、虐待派がとても喜ぶ『良い死に顔』だった。









クラシックな内装の控え室では数匹のメイデン社製成体SP実蒼石が待機しており、戻ってきた2人に挨拶をした。
登志晃は壁にあるボタンを押して部屋のドアの鍵をロックし、部屋の中で立ち尽くしているティチに声をかけた。

「どうしたんですかティチ。お愛想も歌も踊りもとても素晴らしかった。初披露目の時よりずっと上達していましたよ?」
「…………」

部屋に入ってから、ティチの顔は俯いたままだ。
彼女がどんな想いに囚われているのか理解した登志晃は、部屋に置いてあるソファにティチを座らせ自分も隣りに座った。

「また泣いているんですか」
「…………」

顔に掛かっていた髪を払うと、ティチの頬に薄い色の付いた筋が幾つも出来ていた。
彼女は悲しんでいたのだ。あの会議室からこの部屋に入るまでずっと。

彼女は、羽化する前から人間の世界での人間と実装石の有り様を見てきた。
飼い主からは人間の残酷さ、親と姉達からは実装石の愚かさと醜さ、その双方を見てきた。

登志晃には何となく彼女が羽化した理由がわかるような気がした。
彼女は彼女なりに、実装石の現状をどうにかしたいのかもしれない。
だが、ただの実装石一匹に何が出来るか? 何も出来はしない。
幾ら賢くても利口でも歌や踊りが上手かろうと実装石は実装石に過ぎない。
人間の世界を変える事など出来はしないし、実装石の種族的問題を解決する事も不可能。

そうティチに世界の理と実装石の限界を教えたのは登志晃だ。
それから暫くして彼女は繭を作り、今に至る。
彼女は今、登志晃の屋敷にある書斎で何事かをしているようだが、登志晃は好きにさせている。
例えヒトになろうともやはり何も出来はしないと思っているからだ。
ただの1人の人間では、社会も世界も変える事など出来はしない。その事実を登志晃は知っているから。

壁にぶつかる毎に己の無力を嘆くティチが愛おしい。
それでも尚抗い解決への手段を模索する懸命なティチが健気で愛らしい。
こうやって幹部達との席で実装石を使った余興に付き合わされ、巌のように無情な現実に涙するティチは非常にそそられる。
涙した彼女をベットに組み伏せ、嘆きの声を聞きながらティチを蹂躙するのは至高の極みだ。

「ティチ。演技などではない真実の憂いと悲しみを秘めた君の涙は美しい。かつて実装石だったとは思えない清らかな魂を顕しているかのように」

顎の先端を押さえたまま、登志晃はティチの流した血涙をそっと絹のハンカチで拭う。
普段は有能な若手エリートサラリーマンそのものの端正な登志晃の顔は、これ以上ないほどに恍惚と嗜虐と興奮と醜さに充ち満ちていた。

彼は、ティチの事をこの上なく気に入っていた。
その原型の種族的醜悪さを考えれば、有り得ない程の慈愛と知性を秘めている羽化した実装石を。
好事家に売れば、売価十億円は軽く超える羽化実装石を手放す気は更々無い。
彼女の知性と慈愛の高さ故の、実装石と実装石を囲む世界に対する絶望と悲しみと憂いが堪らなく愛おしい。
まさに『人形のような』美しい顔がそれらの感情を刻むのが堪らなく麗しい。

気が付けば、登志晃は乱暴にティチを抱き寄せていた。

ティチを後ろから抱き締める登志晃の両腕は、獲物を糸で絡める蜘蛛の如く彼女を捉えて放さない。
登志晃の左手がティチの小振りな膨らみを服ごと揉みしだき、右手はスカートの中に蛇のように滑り込んだ。
少女から微かな痛苦の声が漏れ出、興奮した登志晃は彼女の尖った耳を甘噛みしながら優しく囁いた。
今まで何度も閨で彼女を組み伏せている時に、必ず耳元で囁く言葉を。

「絶対に、絶対に放しませんよティチ。私の可愛い飼い実装……」

種族的な嫉妬を内包した無表情の仮面を被る実蒼石達の見守る中。
ティチの啜り泣き声と登志晃の荒ぶる息、粘着質な水音が何時までも控え室に響き渡っていた……。


























「託蟲虐極技・破石皇(ハセキコウ)!!」
「斬実剣秘奥・出魏阿(デギア)!!」

2つの、人を超えた技が夜の円卓公園でぶつかり合う。
一度ぶつかった時に、半径20m内のダンボールハウス全てが吹き飛んだ。
二度ぶつかった時に、ハウスの住人が蛆一匹に至るまで禿裸になった。
三度ぶつかった時に、抗議しようと近付いた住人がその場で血煙か超音速でお星様と化した。
四度ぶつかった時に、逃げようとした住人達が悉く宙に放り上げられたり八つ裂きになったり爆発したりした。
技の範囲も威力も徐々に広がり、同時に悲鳴と断末魔も拡大していく。

やがて、円卓公園の住人数が70%をきった時点で2人は間合いを取り技の応酬を止めた。
技を連発した為に荒くなった呼吸を整え、互いを編み笠の下から睨み付ける。

1人は、編み笠を被った着流し姿の男。
もう1人は編み笠を被った袴姿の男。
2人は凄まじい鬼気を放ちながら、間合いを保ちつつ口を開いた。

「…………ふん、相変わらずだな、その技は」
「……そう言えば、最後に仕合ってから久しいな我が愚弟よ。よもや貴様がこの二葉の地に流れ着くとは思わなんだ」
「我も同感だ愚兄。よもや、あの暗愚なる父の飼い犬と化した貴様がここまで追い掛けて来るとはな思ってもみなかったぞ。まさに猟犬、というところか?」
「抜かせ、我が一門の大義を忘れ、ただただ蟲を一門で得た技で剥くしか考えぬ志無き愚か者が何をほざくか!!」
「その何時も見下していた愚か者にまんまと逃げられた能無しはどこの誰だ!?」
「我に対するその暴言、許すわけにはいかん。貴様の敗北を持って贖って貰うぞ!!」
「その言葉、そっくり返してくれる。野に出て磨き上げた我が奥義、一門のぬるま湯に浸かり続けて来た愚兄に破れると思うな!!」
「笑止、貴様にこそ土の味を喰らわせてやるわ!」

2人の戦いは、更に激化した。
嵐の如き技と技とのぶつかりは、公園の住人達を壮絶な勢いで減らしていく。
彼女らは悲鳴と命乞いを叫びながら、逃げ惑うしかない。
しかし、彼女らの惨状を他所に2人とも掠り傷1つ負ってない。

当然である。2人の繰り出している技は実装石を虐待する為の虐待技なのだから。
人間を傷付ける為にある技ではないのである。
ちなみに公園に棲んでるホームレスの皆さんも全くの無傷で爆睡中だった。
それどころか、住居であるダンボールハウスですら全く損壊は無い。

要は、互いの意地の張り合いである。
どちらが凄い虐待を行えるか、そしてその凄さを相手に認めさせるか。
故に片方が負けを認めるか実装石が全滅しない限り戦いは続く。



円卓に棲む実装石が尽き果てるまで戦いが続くのか。
そう思えてきたその時、それは降ってきた。





「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「デギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「サダコォォォォォォォォォォォォッォォォッォォォォォォォッォ!!!」

2人が闘っていた溜め池の側で、緑色の水柱が噴き上がった。

「!」
「!」

極限まで膨れあがっていた殺気が、瞬時に霧散した。
ついでとばかりに、2人の居る公園の上を何かが過ぎる。

「む」
「ぬ」

反射的に見上げた瞬間に見えたもの。
それは、猛スピードで回転する回転ベットらしき飛行物体だった。


ドップラー現象で聞こえた青年っぽい悲鳴。
これまた、2人の超人じみた眼力で見えたものであるが、ベットの上ではしたない姿の少女が何とも珍妙なダンスを無表情で踊っていた。


「…………」
「…………」


ベットはそのままどんどん高度を上げ、ベットの横からガ○ラの如く緑と赤の噴射炎を吹き出し回転しながら成層圏に突入していった。


「……………………………………ふ」
「……………………………………興を削がれた、な」

兄は斬実剣を鞘に収め、弟は構えを解いて後ろに下がった。

「今宵はこれまでだ。しかし次は無いぞ。覚悟をしておけ愚弟よ」

兄は僅かにずれていた編み笠を直し、公園を去っていく。

「覚悟を決めるのはそちらの方だ。次こそが腐れ縁が切れる時だと覚えておくがいい」

弟もそう静かに呟くと、公園の闇の中へと消えていく。



こうして、2人の編み笠の戦いは一旦幕を閉じた。








夜半過ぎ、夜空に流れ星が一条流れ落ちる。
翌日、ネバタ州の砂漠でエリア51に所属する米軍が焼け焦げた謎の回転式ベットを発見したそうであるが、それはまた別のお話。








完










————————————

感想を何時もありがとうございます。
過去の登場人物が多いので、簡単に一覧と紹介をば。

・今時のスタイルの青年
 登場スク【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ
 仔実装虐待専門家。託児のシチュエーションが好きで自転車乗り。最近になってデッスンコートに入信した。

・個室の中に居た青年
 登場スク【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ
 上記スクの主人公。静謐な物腰の割には残酷で容赦無し。実装公園のトイレ内部で虐待しながら読書をするのが趣味。

・侍倉登志晃
 登場スク【虐】夏を送る日(前編)
 捨て仔実装ティチを拾ったメイデン社二葉市支社の重役だが今年になって取締役に昇進した。二葉市の虐待派組合の幹部。
 虐待派であり地元名士の家の嫡男。羽化したティチ相手にしか勃たない独身貴族。変態!!変態!!変態!!変態!!変態!!

・ティチ
 登場スク【虐】夏を送る日(前編)
 元捨て仔実装であり、まだ書いてない後編を経て羽化した実装石。
 元が実装石だと思えないほど知性と慈愛の心を内包し、今の人間と実装石の在り方を憂い解決策を模索している。
 登志晃とは主従の関係でありながら決して解り合えない間柄。登志晃の性奴隷でもある。

・ジー・シー
 登場スク【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ
 二葉市中華街の華僑元締めで実装虐待派。上海と香港で貿易商も営んでいる。二葉市の虐待派組合の幹部。
 中国拳法の達人でもあり、拳法を虐待に流用する事で実装さんすら一撃で仕留める事が出来る。
 実は実装中華料理が得意で幹部会がある時に時たま料理の腕を振るう事もある。

・編み笠(兄)
【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ/【虐・覚醒】スイッチ入っちゃった
 編み笠を被った着流し姿の男。斬実剣と呼ばれる日本刀を携え二葉市に流れ着いた。
 刀を用いた虐待技は羅刹の如き暴威を持って実装石たちを禿裸にする。無様になった姿を実装石に見せる為何時も手鏡を所持している。
 編み笠(弟)を裏切り者扱いして追っているが、一門と呼ばれる集団やそこで2人が何をしていたのかは不明。


・編み笠(弟)
【託児】託児オムニバス/【託児】託児オムニバス2
 編み笠を被った袴姿の男。神がかった身体能力で『託児返し』と呼ばれるカウンター技を託児蟲に浴びせている。
 編み笠(弟)は編み笠(兄)と一門にとって裏切り者のようだが、一門と呼ばれる集団やそこで2人が何をしていたのかは不明。

過去スク

【微虐】コンビニでよくある事
【託児】託児オムニバス
【託虐】託児対応マニュアルのススメ
【虐】夏を送る日(前編)
【虐】急転直下(微修正)
【日常】実装が居る世界の新聞配達(微修正)
【虐】山中の西洋料理店
【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ
【虐・覚醒】スイッチ入っちゃった
【虐夜】冥入リー苦死実増ス
【冬】温かい家(改訂版)
【虐】繭を作った蛆
【教育】神父様の教え
【哀】風の吹く町
【哀】【春】急転直下2
【哀・虐】桜の季節
【虐】繊維蟲
【餌】釣り場での託児
【虐・哀】春が過ぎた季節
【託児】託児オムニバス2
【哀】初夏を迎える季節
【ホラー】シザー・ナイト
【ホラー】幽霊屋敷
【託児】託児とペットボトル(仔)
【食】秋のお楽しみ
【観】防波堤の磯


■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため6302を入力してください
戻る