タイトル:【観】 仔実装オーディション
ファイル:仔実装オーディション.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4179 レス数:0
初投稿日時:2008/10/06-02:36:07修正日時:2008/10/06-02:36:07
←戻る↓レスへ飛ぶ

「—で、話ってのは?」

「ああ…、実はな…」

一介の実装石ブリーダーである「」の元に友人が訪ねてきた。
この友人の職種はTV番組の制作会社だった。
事の始まりはある実装石向けの番組。


「魔法少女マジカルテチコテッチュ〜ン♪」

気色の悪い声の後にポップなサウンドが流れ出す。
今、飼い実装の間でも人気の高い実装石向けのアニメ番組だ。
主人公であるテチコの声は仔実装が担当しているので一躍話題になった。
ちなみに飼い主用としてリンガルでの字幕放送である。

今回「」への依頼はこうである。
テチコに変わる新しい声優のオーディションの審査をして欲しい。

「つまり声変わりしてしまったわけか」

仔実装から成体の実装石へ変わるのは自然の摂理だ。
テチテチと甲高い声からデスデスという不協和音に変わってしまったわけだ。
こうなっては仔実装役の声優としては機能しない。
そこで新たに仔実装の声優を募集しようというわけだ。

「んで、何で俺なんだ?」

「いやー、実は実装石に詳しい奴がいなくてさ…」

実装石は一般人から見るとほぼ同じに見えてしまう。
その為、上の人間はちゃんと演技をする仔実装を欲していた。
台本通りにやってくれれば文句は無い。
だが、糞蟲だと好き勝手にやる上に暴れて機材を壊す恐れもあるのだ。

「そこで俺ってわけか」

「なー、頼むよ」

両手を合わせて頼み込む友人。
「」にとってこの友人は切っても切れない縁に近い。
学生時代に虐待派だと周囲にバレて、周囲の人間に煙たがれていた。
そんな時、唯一普通に接してきたのがこの友人だった。
この友人がいなければ今頃は公園でお尋ね者の虐待派になっていただろう。
そんな事があったのでこの頼みを断るわけにはいかなかった。

「わかった。やるよ」

「ホントか!?助かるよ」

「でも、ちゃんと報酬はくれよ」

「ああ、わかってるよ」

こうして仔実装の声優オーディションが始まったのだ。


「次の方、どーぞ」

進行役でもある友人の声で会場でもある会議室に仔実装と飼い主が入ってくる。
会議室の中は机が一つに椅子が3つ。
これは「」と友人とその上司が座る椅子だ。
その前方にもう一つ椅子と小さい台があった。
そこには飼い主と仔実装が座る為である。
台にはもういらないクッションをできるだけ漂白したのを乗せてある。
これは「」が友人へと頼んでおいた事だ。


「クッションなんているのか?」

「まあ、賢い奴なら要らないだろうけどな」

もし飼い実装が糞蟲なら、ただの台を見て間違いなく癇癪を起こす。
プライドが高い飼い実装石というのは差別をされると些細なことで癇癪を起こす。
そうすればその怒りが飼い主にも連鎖してこちらにも来る。
その事態を防ぐためなのだ。

「ふーん」

「特に愛護派の奴は変にプライドが高いからな」


このクッションは成功だった。
ふかふかする床に座れた事により優越感を得たのか終始ご機嫌だった。
それによりオーディションもスムーズに行われていた。

会議室に入ってきた飼い主がケージから仔実装を出す。
台のクッションに放された仔実装は物珍しそうに周りを見回す。
ちなみにこのケージも「」からの指示だった。


「オーディション応募者全員にケージに入れてくるようにしてくれよ」

「何でだ?」

「会場には他の飼い仔実装が来るんだろ?」

「ああ」

つまりケージに入れるのは飼い仔実装同士の喧嘩を防ぐためだった。
喧嘩をしたとなれば仔実装同士でもお互い無事ではすまない。
下手すると周りの飼い仔実装まで感化されて暴れ始まるかもしれないのだ。
もし死者を出したならば間違いなくこちらの責任になってしまう。
それを防ぐ為の処置だ。


「ではお名前をどーぞ」

「ワタチはエメラルドテチ」

さらさらと手元の書類にメモを入れていく。
最初の質問は名前。
自分の名前くらい言える知識を持つのが最低ラインだ。
すでに5組程名前を言えないで落選したのがいた。

「今回の志望動機は?」

「チププププ、決まってるテチ」

下品な笑いを浮かべる仔実装。
その瞬間「」の鉛筆がさらさらと動いた。
友人が横目でそれを見た。

"落選"

「またか…」

もう何組だろう。
この手のタイプが多いのだ。

「ワタチの美声で下僕達をメロメロにしてやるテチ」

しかも、言う事まで似ている。
落選が確定した仔実装はその後適当な質疑応答で終わる。
すでに落選してるのだからもう見る必要はないのだから。

「はい、どうもありがとうございましたー」

扉が閉められると三者三様のため息がもれる。

「これで大丈夫なのかね?」

上司が友人を見て言う。

「えー、どうでしょう…」

友人もなんと答えていいのやらといった感じだった。
というもの「」の理想が高いのだ。
名前が言えるのは多い。
だが問題は志望動機だ。
たいていの仔実装はここで醜態をさらけ出す。
恐らく飼い主から何か吹き込まれてそれが前面へと押し出たのだろう。
こうなった時点で落選なのだ。

「」曰く。

「俺が判断するんだから俺の好きな様にやらせてもらうぞ」

残りの組は後2組だった。
友人はもはや絶望と思い気分が重かった。
上司がイライラしているのも目に見えてわかる。

「次の方どーぞー」

次に入ってきたのは一人の男性と1匹の仔実装。
台に置かれた仔実装はどこかビクビクしている感じだった。

「お名前は?」

「ク、ミドリ…テチ」

なぜか名前を噛んだ。
だが、それに気がついたのはこの場にいた二人だけだった。

「今回の志望動機は?」

「ワ、ワタチの声を人間さん達のお役に立てたいテチ」

相変わらずビクビクしている。
仔実装にも怖がりの奴がいるので特に気にならない。
だが、「」は違った。
まだ落選の文字は書かれていないので質問が続く。
声優をやっていく自信はあるのか等というテンプレな質問。
そんな質問が行われている時に「」が動いた。
いつの間にか手に持っていたのは薄い15センチのアクリル定規。
それを反らして机に打ち付けた。

パチーン

突如として鳴り響く乾いた音に誰もが驚いた。
だが、仔実装だけが違う反応を示していた。

「テ、テ、テ、テチャァァァァァァァァァァァァァァ!!」

突然泣き出して台の上から転げ落ちた。
落ちた拍子に右手と右足が折れたがそんな事はお構いなしでその場から逃げようとする仔実装がいた。

「な、何だ?」

上司と友人は怪訝そうな顔をしていた。
飼い主は何故か汗をだらだらと流し、ばつの悪そうな顔をしている。

「嫌テチャァァァァ!!もう痛いの嫌テチィィィィィィィ!!」

動かせる左手をぶんぶんと振り回して泣きじゃくる仔実装。

「来るなテチィ!!もうやめてテチィ!!オネチャみたいにはなりたくないテチィ!!」

尋常じゃない怯えぶりに友人は「」に尋ねる。

「おい、これって」

「ああ、虐待済みって奴だな」

「」はじろりと飼い主を睨んだ。

「虐待って…!なんでそんなのを…」

「大方自分で調教した仔実装を送り込んでギャラをせしめようとしたんだろ」

「く、くそぉー!!」

飼い主は短く叫ぶと会議室から飛び出していった。

「あ、おい!」

「ほっとけ。それよりもコイツだ」

「テヒィィィ…ジィィィ…」

明らかに呼吸音がおかしい。

「過呼吸による二酸化炭素不足だな」

「ど、どうする?」

「いや、もう手遅れだな」

「ー…ー…」

もはや音も出ない呼吸を繰り返していた仔実装の呼吸が止まった。

「どうするんだね?飼い主は逃げてしまったが」

「飼い主は放っておいてもいいでしょう」

「」は仔実装の目に手のひらを上から下へとおろす。
見開かれていた目は静かにまぶたを閉じた。

「こいつは後で処理しといて下さい」

「ああ…」

友人が持ってきたビニール袋に仔実装の死体を入れる。

「何とも…、やりきれんね」

「まあ、アイツにとっては幸せかもしれませんけどね」

椅子に腰掛けた上司は深いため息をついた。

「さて、最後の組と行きますか」


最後に入ってきた仔実装は大人しかった。
こちらの質問にもはっきりと答え、突如「」が出した簡単な計算問題にも答えた。
正味5分ほどの面接は終了し、「」の手元の書類にはただ一つの言葉が書かれていた。

"合格"

それを見た友人と上司はほっと胸をなでおろした。


数日後、この仔実装が演じるテチコが放映された。
声を演じている仔実装が変わった等と気がつく人はほとんどいなかった。


「それで?あの仔実装はどうだい?」

電話で話しているのはあの友人だ。

「ああ、いい仔実装だよ」

あれからあの仔実装はテチコ以外の仕事もやっているそうだ。
売り上げの上昇に上司も大喜びしているらしい。

「そうか、それはよかったな」

「それとあの虐待していた飼い主なんだが…」

オーディション会場に来た虐待派はあれから主婦の間で噂になっていた。
その噂は段々と広がっていき、その内住所も特定されてしまったらしい。
近所の愛護派からの攻撃に耐えられなくなった虐待派は引っ越してしまったらしい。

「実装石に関わると不幸になるとはよく言った物だな…」

「確かにな…」

「そういえば前任者はどうなったんだ?」

「ん?ああ、あいつか」

成体実装石になってしまった仔実装はあれから実装石向けのダンス番組に起用されたらしい。
以前から踊りにも定評があったので採用した所、こちらも高視聴率をたたき出した。

「なるほどね…」

「まあ、あいつも捨てられずに済んだわけだし」

「しかし、因果だな」

「?」

「あの仔実装もその内用無しになるわけだ」

「ああ、多分2ヶ月後くらいだな」

「」と友人は電話口でため息をつく。

「まあ、そん時はまた頼むよ」

「ああ、わかった」

電話を切り、仕事場へと向かう。
自宅兼仕事場になっている地下室へ。
そこには数多くの仔実装がいる。
今日も「」によって調教されていく。
ケージの一つを開けて仔実装を取り出す。

「テチャァァァァァ!!」

地下室内に甲高い声が木霊する。
泣き叫び続ける仔実装を見て「」は苦笑いを浮かべていた。










■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため5234を入力してください
戻る