タイトル:【観】 仔実装玉
ファイル:仔実装玉.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4435 レス数:0
初投稿日時:2008/09/11-02:13:23修正日時:2008/09/11-02:13:23
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仔実装玉


いつものように近所の公園にやってきた俺。もちろん実装石で遊んであげるためだ。
ここは割と親仔の情が深い個体が多いので、とても楽しめるのだ。

適当なベンチに座り、実装石達がやってくるのを待つ。
待つ…待つ……、…あれ?
いつもなら仔連れで、
『ワタシの可愛い仔を飼って欲しいデスゥ』
『お腹が空いている可愛そうな仔にご飯を下さいデッスゥ〜』
とか言いながら集まってくるのに、一匹も来ない。
見回してみると、なにやら公園の周囲に植えてある木の方に緑色の集団がいた。
何してるんだ?と行ってみると、異様な光景が広がっていた。

仔実装達がゾロゾロと焦点の合っていないうつろな目で木に向かって行進している。
いつもの『テッチテッチ』という鳴き声ではなく『テー…テー…』と
力ない声が漏れている。
親達は『デスッ、デスゥ!』と声をかけているが、仔実装達は無反応だ。
やがて行進の先頭が木にたどり着くと、仔蟲たちは次々と木に登り始めた。
仔実装ってこんなに木登りうまかったか?
「うわ」
近寄ってみて理由は分かった。仔実装達は木の表面のささくれに自分の体を
引っかけながら登っていたのだ。皮膚にささくれが刺さって体液がにじんでいるが
痛がる様子が全くない。
それを見た親実装が、さすがに力ずくで仔を止めようと腕をつかむ。それを無視して
登ろうとした仔のつかまれた片手がもげる。
『デエェェェッ!』
親は、あわてて手を離す。手がぽとりと地面に落ちるが、食べようとする実装石は
一匹もいない。片手仔実装は、まったく気にせず木登りを続けている。
手の出しようがない親達は、木の周りでおろおろしている。

しばらくして木のてっぺんの枝先にたどり着いた仔実装は、そのまま動かなくなった。
しかし次から次へと仔実装は登ってくる。枝の先には、仔実装が固まっていき
仔実装玉と呼ぶべき状態になっていった。
他の枝にも似たような仔実装玉がいくつもできていた。

俺はポケットから実装観察用のオペラグラスを取り出し仔実装玉を見た。
ふるふるっと仔が体を揺すったように見えた直後、仔の顔がパリッと裂けた。
その光景には、さすがに俺も声がない。よく見ると、皮膚の裂け目からなにやら
小さな白い粉のような物が空気中に漂っていく。
「何だ、あれは…」
俺が呆然としていると
『デェッス!デェッス!』
と親蟲が俺のズボンを引っ張っていた。仔共がどうなっているのか聞いているのだろう。
俺は親の顔にオペラグラスをあてて見せてやった。
『…デー?…デェェェェェッスゥッーーーーー!!!!!』
仔の様子が見えた親が絶叫する。そりゃそうだ。
他の仔実装玉達も同じ状況のようだ。仔実装玉から小さな白い粒がたなびいていく。
パキン!
先ほどの親から話を聞いた親達の中に、偽石が割れた者が出始めたようだ。

俺はその光景に目を奪われながら、携帯でローゼン社研究所勤務の友人に電話をかけた。
『よう、どうした?』
「実はさ、とんでもない物見たんだよ」
とりあえず状況を説明する。
『あー、それ実装カビだわ』
「実装カビ?」
『最近見つかった新種でさ、仔実装だけに影響が出るんだよ』
友人によると、実装カビは種のような状態で水や食べ物にくっついていて
仔実装がそれを食べて体内に入り込むと、発芽、増殖を始める。
体内で十分に増えて胞子を放出できる状態になると、仔実装の脳を犯し体の制御を
乗っ取ってしまう。仔実装に与えられる命令は『上へ、上へ』。
とにかく高いところに登り、一番高い場所に到達すると体を硬直させ動けなくする。
後は皮膚を食べてもろくして裂けさせる。そこから胞子を風に乗せて放出するとのこと。

「なんで仔実装だけに?」
『親じゃ枝とかの先まで行けないし、蛆や親指じゃ目的地に着く前にダメになるからだろう』
うーん、最底辺のナマモノ、実装石は、ついにカビ以下になったのか。
『公園の場所を教えてくれ、回収に行くから』
「…あれ、いるのか?」
『飼い実装にも被害が出てきててな〜、研究を進めてるんだよ』
友人に住所を教えて電話を切ると、俺は何とも言えない気持ちのまま仔実装玉を見上げた。

(おわり)


実際に毛虫とかにとりついて同じようなことをするカビの話を聞いたことが
ありましたので、それを参考にしてみました。


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