彼女は二度と目覚めぬまま焼かれ土に還る ソファにもたれ呆けていたせいか物音に気付くのが少し遅れてしまったらしい 見ると体表が焼き焦げ炭化した実装石が這いずっている 「まだ生きていたのか」 実装石の残骸—まだ生きている—を やや大振りなトングで掴み水を張ったバケツの中に入れる デギャァァァアッッァアアアーーー まだそれなりに高熱を保っていた表皮が冷却された音なのか それとも傷口に更なる刺激を加えられた受けた実装石の悲鳴だったのか どちらともつかない音が室内に響く 静けさが戻ると作業机から透明な容器と高濃度の活性剤を取り出す 容器に活性剤を注ぎ込みながら冷却済みの実装石—死んだだろうか—を眺める バケツに漬けられたおそらく死にかけの実装石はそれでも微かに動いたように見えた 曲がりなりにも生きているだろう実装石を水から引き上げ容器の中に入れ蓋を閉じる 一応蓋には通気用の細かい穴が開いているので少なくとも酸欠死などという馬鹿げた事故は起こらないように思えた 回復した実装石が勝手に容器から出ないよう念押しに針金を数本容器に巻いておく 作業を終え作業机に容器を置いた頃だったろうか 少し離れた位置から何かが何かを叩くような音が聞こえた 予想に違わずその音は件の実装石の親と思われるやや大柄な実装石が扉を叩く事で立てたものだった それは扉が開かれるや否や媚びを売るような猫撫で声を出しながら体をくねらせ室内に入り込む 緩慢に侵入するそれを一瞥し殺傷用スプレーを棚から取り出し吹き掛けると声を出す間もなく硬直しややあった後に倒れた 「袋は…」 棚から処分用の袋を取り出し実装石を詰め込むとポリバケツの中に入れ蓋を閉じる 『御義母様娘さんの事は御心配なく』 『是非とも安らかに御眠り下さい』 脈絡もなくそんなふざけた文面が脳裏に浮かんだことに失笑せざるを得なかった 『おやすみなさいませ』 『御義母様』 『御冥福を』 失笑しつつも次々に噴飯物の言葉が浮かんで止まらない おそらく疲れているのだろう だからこのような奇妙な動作をするのだろう 仕方がないのだろう もう眠ろう 眠ろう そう眠ろう だからおやすみなさいませ御義母様 樹脂製の棺桶の中に独り無造作に取り残された彼女は 二度と目覚めぬまま火葬場に向かいそして焼かれ土に還った 彼女を殺した人間と娘の奇妙な行末も知らずに