ここは双葉自然公園。 その広さゆえに愛護派と虐待派が住み分けでき、 エリアによって実装の糞蟲度も分かれている。(当然虐待派エリアが糞蟲) 賢い実装を愛で、糞蟲を虐待する。 どの派閥も過激なニンゲンがいなかったため、特にトラブルも無くお互いの目的を果たしていた。 ------------------------------------- 「ほれほれー、こっちの金平糖は甘いぞー」 虐待派エリアで男が金平糖を撒いていた。 ベンチ座っている男は、足を運ぶことも無く実装を捕獲するつもりだ。 今時珍しくも無い光景であり、もはやテンプレものなのだが、やはりそんなことは実装には関係ないのだろうか。 林の奥やら、ダンボールの中やら、いたるところから緑の小人が這い出してきた。 「よしよし、集まってきたな。今日はムシャクシャしてるからシンプルに踏み潰すか…」 虐待派は実装をいかに苦しめ、生かすかを考えるというが、それは一般人向けではないだろう。 単にイライラしたニンゲンや暴力的なニンゲンは虐殺派にはしる傾向がある。 早い話が、自分より弱いものを一方的に嬲りたくなるわけだ。 ------------------------------------- 「オマエ、動物殺スノカ」 カタコトの日本語が男を制止した。 男が後ろに振り向くと、そこにはオレンジの布を纏った黒人が立っていた。 どこか神秘的な雰囲気のその外人は、林の方からぬっと男の方に進み出てきた。 「動物殺スノ良クナイ。代ワリニコレ、ブテ」 外人は肩に下げた布袋から何か黒いモノを取り出した。 それは60cm程のドス黒い塊であった。 形状から人形の類であることは見て取れるが、何故そのような出で立ちをしているのかは分からない。 「コノ人形、持主ノ身代ワリ。ワタシノ国デハ腹立ツコトアルトヨク作ッテ、ブツ」 ------------------------------------- 男はテレビを見ながら人形を眺めていた。 結局実装を一匹も殺せずに帰ってきたのだ。 本当は何匹も実装を踏みにじってストレスを発散したかったのだが、 横入りしてきた外人の目がちょっと異常だったので、事が起こる前にとっとと引き上げてしまった。 彼が人形を持っているのは、外人がしつこく付いて来て、人形を渡そうとしてきたからである。 家までは付いてこられては困るので、すぐに受け取ってしまったのだった。 「しっかし不気味な人形だなぁ… とっとと捨てようと思ったけどなんか見ててムカつく」 (ワタシノ国デハ腹立ツコトアルトヨク作ッテ、ブツ) ふと外人の言っていたことが頭に浮かんだ。 (腹立つとぶつ? 殴んのか?これ) ------------------------------------- 「ヒャァァッハァァーーーーーーーー!!」 不恰好な蹴りを男は繰り出した。 つま先しか当たらなかったが人形は勢い良く吹き飛んだ。 しかし天井から縄で吊るされた人形は、壁に激突して男のもとに戻って来た。 「チュワァァァァーーーーーーー!!」 しまりのないチョップが人形の頭をへこませる。 下に力を加えられたことで、絞められた縄はさらにきつくなった。 男は外人の言葉を思い出したとき、人形を殴りたくてしかたなくなった。 どういうわけか、人形の不気味さがムカつく… いや、それだけではない。 顔から足まで全ての要素に腹が立ってしょうがなかったのだ。 「ヒィィィィィィーーーーーーーーーー!!! ヒヒヒ!」 殴り疲れた男は人形を殴るのを止めた。 だがリンチは終わらない。 台所から一番大きな包丁を持ってくると、震える左手で人形を抑え、切っ先を脇腹に刺し込んだ。 柄を握る力をさらに強め、刃を中にねじ込んでいく。 人形が堅いため、力を入れた包丁はガタガタとぶれる。 それでも刺し込もうと、男は歯を食い縛り、刃先が半分ほど埋没した包丁を振った。 人形の胸元は開くように裂け、勢い良く飛び出した包丁は男の左手を突き刺した。 「うぎゃあああああああ!! いってえええ!! この野郎!!」 男は血が出る左手にシャツの裾を巻き付け、包丁を投げ捨てた。 怒りに我を忘れ奇声を上げながら人形を叩き続けた。 ------------------------------------- ------------------------------------- ------------------------------------- 薄暗い洞窟の中で二人の男が話をしていた。 骨まで冷やすような寒さであったが、二人ともオレンジの布だけしか身に着けていなかった。 「日本、思ッタ以上ノ所ダッタ。 呪子ガ街中ニイタ」 「信ジラレナーイ。 アレハ命ノ森ニモ、数エルホドシカイナイノニ」 「ダケド日本ノ呪子ハダメ。 力無クテ動物ト同ジ。 アレハ造レナイヨ」 話をしながら男達は鍋に髪と爪を入れた。 中では煮えたぎった黒い湯と緑の小人がいた。 小人は開いたままのみつくちに湯が流れ込むため声を出すことはできなかった。 「ヤッパリウチノ国ノ呪子カラシカアレハ造レナイヨ。 初期型トイウノモ日本ニイタケド、アレハトテモ手ニ負エナーイ」 「初期型トイウコトハウチノ呪子ノ御先祖様?」 「ワカラナーイ」 「日本デアレハ売レソウ?」 「ダメ。 日本ニハ愛護派、虐待派、虐殺派、観察派、実食派… 色々イマース。 ドイツモコイツモミンナアレノ呪効カナイ。 ミンナガミンナ耐性モッテルヨ」 「ソンナ嘘!? アレヲブッタ奴不幸ニナラナカッタノ? アレノ持主ハ死ナナカッタノ?」 「試シタケド、ナランカッタ。 アレブッタ男、次ノ日モ公園来タ。 前ノ日ヨリアグレッシブ、元気ニナッテタ。 アレノ持主モ飼ッテル呪子ノ世話シテタヨ。 マルデ呪子ノ奴隷ミタイニ奉仕シテタ」 ------------------------------------- その呪術師達の国では実装石は大変貴重な生き物だった。 初期型に近く、またカオスの力が弱まったそれは禁断の呪術のマテリアルだった。 一族に代々伝わる方法で調合した黒い湯に、殺したい相手の断片と実装石を入れ、一つの黒い塊になるまで煮続ける。 このようにして作られた人形は、赤の他人のもとへと送られる。 不気味な人形は当然のごとく捨てられることになるのだが、カオスの呪だというのか、それを処分した人間には不幸が訪れる。 そして人形の本来の持主、つまり体の一部を人形に混ぜられた人間は死ぬ。 呪術師は金持ちの多い日本でそれを売ろうと思ったのが、驚くべきことに日本には実装石が溢れていた。 しかも日本人には呪が効かなかった。 これは日本人には実装石の不思議な力に対抗するパワーがあるということなのか、 それとも既に日本人は、呪術師の用いる呪を超える力に捉えられているということなのだろうか。 あなたは今、幸せですか。 どーも、小悪魔気取りの赤いサクブスでした。 過去スクは色物ばっかデス。