箱はサウナ ************************************************************************************************************************************** 天気のいい日だった。 ここは敏明の住むアパート。 ベランダには手足をテグスでぐるぐる巻きにされ、完全に拘束された一匹の成体実装がいた。 この夏の暑さはおかしかった。 例年よりも気温が高く、あろうことか敏明の部屋のエアコンが故障中という事態になっていた。 つい先日、仔蟲を託児され、傷心の敏明。 二匹ばかり同族を惨殺してもまだ足らない。 敏明の部屋には、 『忘れるな!我がプリン』 『汚物は消毒だぁ!!』 『暑がりません!殺までは!!』 というちょっとアレな標語がいくつも貼ってあった。 まあ、暑いからだろう。 ************************************************************************************************************************************** さて、ベランダである。 成体実装の目の前に黒い箱がある。 中からはやかましく、テチテチ声がする。 それも二匹分だ。 まあ、この成体の娘なのだが。 現在、敏明はちょっと暑さに当てられて、変な虐待の実行中であった。 簡単だ。 親蟲の目の前で仔蟲のサウナ大会。 今は暑いとはいえ、直射日光は当たらず、少しばかり風が吹いている。 ただ、これが正午になると地獄の熱波となる。 本日は気温が40度を超すとニュースで言っていた。 黒い箱である。 ダンボールを黒く染めたものだが、黒いことに意味がある。 黒は熱を吸収する色だ。 その為、中は気温が上がる。信じられないほどに。 ************************************************************************************************************************************** 「あついテチ・・・・・・」 「・・・・・・・・・チュウ」 まだ、箱の中の温度が人肌に近いくらいなのに、中の仔蟲二匹はへばっていた。 緑の実装服は汗と体液と漏らした糞でべとべとになり、頭巾は触りたくも無いくらいに湿っている。 その上、悪臭だ。 箱のそこには水が撒かれていたので、湿度が高い。 ピチャピチャと片方の仔蟲が床の湿り気をなめる。 こうでもしないと気が変になるからだ。 「ママ、大声で呼んでるテチ」 「・・・・・・・役立たずのクソムシテチ・・・・・・早く助けろテチャァァァ!!」 妹の方の仔実装が、顔を床から引き剥がし、絶叫する。 「デデ!!」 その絶叫は箱の外の親蟲にまで聞こえた。 「ふふふ。なァ?親蟲、仔蟲がお前のこと糞蟲だってさ」 「デー・・・・・・」 敏明は冷蔵庫から取り出してきたアイスキャンデーをしゃぶりながら、親蟲に維持の悪い笑みをむける。 「デデー!!デッスン!!」(次女!!三女!!気を確かにもつデス!!) 親蟲はめげずに声をかけ続ける。 無駄なのに。 ************************************************************************************************************************************** 時間はやがて、正午を過ぎ、日光が箱を直撃し始めた。 極短時間で箱の中の気温が急上昇し、中の仔蟲は狂乱した。 「テチャァァァァァ!!ダセェェェェ!!テチィ!!」 「ニンゲン!!ダセェェェ!!アツイィィ!!今なら八つ裂きでユルサナイテチュゥ!!!!」 狂ったかも知れない。 熱せられた箱のは熱く、周囲には陽炎が見えるようだ。 中から凄まじい勢いで壁が叩かれる。 軽い音なのだが、憎悪・執念・生への執着・願望・絶望・・・・・・・、ありとあらゆる実装石の感情が込められた音がした。 仔蟲二匹が必死で箱の壁を叩き、怨嗟を敏明に向ける。 箱の床はすでに体液と汗、汚らしい液体すべてで濡れ、僅かにふやけている。 しかし、黒く塗られた壁は水気をはじく。 ジュウ、という音が聞こえたかもしれない。 実際、仔蟲たちの両の手、壁を叩く手は熱傷を負い、皮膚はズル剥けだ。 壁を叩くたびに筋組織と血が飛び散り、激痛を伴わせる。 しかし、茹っているような神経は痛覚さえも壊れてしまっていた。 ************************************************************************************************************************************** トントンと箱を叩く音が狂おしい。 親蟲の健常は狂う寸前だった。 「デジャァァァァ!!」 テグスが肉に食い込むのを覚悟で身体をゆする。 顔を真っ赤にして、敏明をにらみつける!! 「デジャァァァ!!デェェェェェェエエエエエエ!!!!!」 もはや言葉は必要なかった。 娘たちの親として、敵に憎悪をぶつけてやる!! 殺された娘たち!殺されそうな娘たち!! すべてをあいつに・・・・・・!! 「うるせぇ!」 「デェェゲェェェァァァァ!!!!!!」 敏明はアイスキャンデーの棒を親蟲の赤い方の眼につきたて、箱を観察した。 箱は揺れている。 中からは以前悲鳴が聞こえている。 中の気温は五十℃を超えているだろう。 やがて、箱の揺れが収まってきた。 そろそろ限界が近いのだ。 ************************************************************************************************************************************** 妹ちゃんがおかしい。 「テチプププププププ・・・・・・・」 意味も無いのに笑い出した。 体中の汗は干上がり、カサカサになった肌。 ふらふらとたっているだけで、髪が抜け落ちている。 両の手はつぶれて、もう動かない。 妹ちゃんは笑いながら自分の手をなめていた。 傷をいたわる舐めかたじゃない。 血をすすっているのだ。 ピチャピチャ・・・・・・。 眼は、焦点が合ってないのか、ぐるぐるとせわしない。 「妹チャァァン!!ヤメルテチャァ!!!」 姉は瀕死の身体に鞭を打ち、妹の所へ駆け寄る。 表情はみえなかった。 暗かった所為もあるが、おぞましくて顔を見たくなかったのだ。 ミツクチの端を不気味なほどに釣りあがらせ、青ざめた顔で口元を血でぬらし、微笑む。 聞こえる笑い声は心に刻まれた。 パキン!! 甲高く、ガラスが砕けるような音を放ち、妹蟲の偽石は砕けた。 なのに妹は立ちながら此方を見つめ、笑みを浮かべている。 舌なめずりしながら・・・・・・。 ************************************************************************************************************************************** 「「ヂャァァァァァァァァッァォォォォォォオォ!!!!!」」 パキッ・・・・・。 箱の中から今までに聞いたことが無いような悲鳴が聞こえた。 そして、何かが割れる音も。 パキン!!! 直後に、親蟲の偽石が吹き飛んだ。 親蟲も何があったのか解らないような表情をしている。 表情といっても、片目は木の棒がつきささり、完全につぶれていて、顔の半分が血まみれだ。 しかしその表情は変に間抜けで、きっと自身が死んだことにも気がつかないのだろう・・・・・・。 「おわっちまいやがった」 後片付けをしながら、敏明はつぶやいた。 親蟲はゴミ袋に放り込んで実装回収箱に入れておいた。 箱を開けると凄まじい熱気と悪臭が立ち込めた。中には仔蟲のミイラが二匹分。 仔蟲どもの死骸を同じくビニール袋につめ、燃えるごみに出しておいた。 「ま、これで決着・・・・・・クーラー直らないよなぁ」 つぶやいた。 ただ、仔蟲の死骸の片方が笑っていたのが気になった気がした。 駄文お読みいただき感謝です。 自分も暑さでやられてるのか変な文を書いたきがします(笑) 黒い箱はサウナになったかな? なんか微妙に変なホラーテイストが最後に混じりましたね。 筆が迷走しましたwすいませんw 一応、火遊びの決着です。 託児一家の末路にしては苦しみだけはありましたかね? 後はマリアーナを不幸にするくらいですね。 byレーザーメスの人 過去の文↓ レーザーメスで焼くこと 研究生活・親蛆 火遊び 食用白仔実装のつくりかた 公園浄化7月 過去、敏明学生時代