異臭のするジュース缶がいくつもはこびこまれてきた 調べてみると、中に仔実装や親指、蛆実装のつめられたものがいくらも見つかった こまったものだ。彼らの浅薄な虐待が、我々の仕事には余計な手間を生む。 「テチュービィッ!」 「テチュービィッ!」「テチュービィッ!」「テチュービィッ!」 やつ等は最早生を放棄せざるを得ない場ですら、自分は何となく助かる。大丈夫だと、本気で信じているのだ。 だから工場内には、実装の汚臭と悲鳴が間断を伴って響いた。 これが一日二日に二三匹程度なら手間も惜しんで保護センターにでも送るが。缶や瓶に実装石を閉じ込めるというのは流行りの遊びらしく、今年は多い。気が滅入る。こまったものである。 そんな私の目の端に、禿で裸の仔実装が止まった。 缶から命からがら脱出し、姉妹の救出は困難と見たか、素早く工場内から逃げ出そうとする。テッチテッチ。無駄な足掻きだが、しばらくそれを眺めている と、丸太のよううに逞しい父がわたしに一言、こう言った 「潰すばっかで気持ち的にどうにもバランスが悪ぃ。としあき、次蟲入りがあったら、持ってかえって飼ってみよう」 私は表向き不満の声を上げていたが、内心では大喝采だった。 私は動物を未だに飼ったことがない。父が祖父の工場を継ぐまでは都心の古いマンションで、動物は禁止での、親子四人暮らしをしていた。 だが、今年、初夏の気候の寒暖に祖父が体調を崩した。 ならばそろそろ一家七人で暮らしてみよう、というのが父の言ったこと。 祖父母はペットは飼っていなかった。 私も弟も、控えめながら母も、なにかかいたい旨を父へそれとなく主張した。 「犬も猫も、俺らがガキのころにゃ割といたんだがなぁ」 「あら、野良を飼う気だったの?」 「野良とはいわねぇが、雑種で長生きしそうなやつを飼いたいねぇ」 「野良の犬はご無沙汰だし、猫はどこの子かわからないわよね」 「動物保護センターってのも調べたが、ここは駄目だ」 「どうして?」 「雄は玉ぬいて、雌は子袋取っ払うのが飼育条件なんだそうだ」 「痛がってる犬はいやよ。かわいそう」 「ああ、わかってる。それでかわりの生き物を探そうと思ってな……」 で、選んだ動物が実装石であった。 空き缶から取り出したので、ひどくべたべたする。 これは風呂場直行か。 温い湯に浸すこと六回。 一度湯につけたら緑の刺激物が出来上がり、早々と湯を入れ替えた。二度目は少し学習し、シャワーで流しながら石鹸で体をまさぐった。時折便をひるのが苛立たしい。 たかが小動物の入浴に三〇分も立っていた。 乾燥機の中で回る拡散防止の洗濯ネットが恨めしい。 出来るだけ最上級の扱いで感想させたそれは、仔実装のもと着ていた服と比べると、とても同じものとは思えなかった。 ドブ色の衣服は草の臭い香る、風にはためく。 仔実装の三日目に及ぶその生涯では、破格の待遇であった。 すると当然ながら、実装石は増長する。 物を拾っては家具や調度品を狙って、力の欠片もない軟質素材の棒でつつきまわした程度では、丸い灰皿といい勝負か。 灰皿の持ち主——普段実装に構わない父が、その時ばかりは思いっきり実装石を引っ叩いた。 ばんっ、という身の竦む音には、俺も弟もあったことがない。 「動物は誰より偉いのか知りたがるもんなのさ。最初が肝心だね」 ただ聞くばかりの俺たち兄弟は、叩かれてなく実装石を尻目に、父の意外な知恵に感心するばかりだった。 —————————————————————————————— スク師です 前作品は 『ボランティア』 のみです