タイトル:【観】 空き缶処理場での実装飼育日記.txt
ファイル:【観】空き缶処理場での実装飼育日記.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4261 レス数:0
初投稿日時:2008/08/04-02:25:36修正日時:2008/08/04-02:25:36
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 異臭のするジュース缶がいくつもはこびこまれてきた
 調べてみると、中に仔実装や親指、蛆実装のつめられたものがいくらも見つかった
 こまったものだ。彼らの浅薄な虐待が、我々の仕事には余計な手間を生む。

「テチュービィッ!」

「テチュービィッ!」「テチュービィッ!」「テチュービィッ!」
 やつ等は最早生を放棄せざるを得ない場ですら、自分は何となく助かる。大丈夫だと、本気で信じているのだ。

 だから工場内には、実装の汚臭と悲鳴が間断を伴って響いた。
 これが一日二日に二三匹程度なら手間も惜しんで保護センターにでも送るが。缶や瓶に実装石を閉じ込めるというのは流行りの遊びらしく、今年は多い。気が滅入る。こまったものである。

 そんな私の目の端に、禿で裸の仔実装が止まった。
 缶から命からがら脱出し、姉妹の救出は困難と見たか、素早く工場内から逃げ出そうとする。テッチテッチ。無駄な足掻きだが、しばらくそれを眺めている  と、丸太のよううに逞しい父がわたしに一言、こう言った
「潰すばっかで気持ち的にどうにもバランスが悪ぃ。としあき、次蟲入りがあったら、持ってかえって飼ってみよう」
私は表向き不満の声を上げていたが、内心では大喝采だった。

 私は動物を未だに飼ったことがない。父が祖父の工場を継ぐまでは都心の古いマンションで、動物は禁止での、親子四人暮らしをしていた。
だが、今年、初夏の気候の寒暖に祖父が体調を崩した。
ならばそろそろ一家七人で暮らしてみよう、というのが父の言ったこと。
祖父母はペットは飼っていなかった。
私も弟も、控えめながら母も、なにかかいたい旨を父へそれとなく主張した。
「犬も猫も、俺らがガキのころにゃ割といたんだがなぁ」
「あら、野良を飼う気だったの?」
「野良とはいわねぇが、雑種で長生きしそうなやつを飼いたいねぇ」
「野良の犬はご無沙汰だし、猫はどこの子かわからないわよね」
「動物保護センターってのも調べたが、ここは駄目だ」
「どうして?」
「雄は玉ぬいて、雌は子袋取っ払うのが飼育条件なんだそうだ」
「痛がってる犬はいやよ。かわいそう」
「ああ、わかってる。それでかわりの生き物を探そうと思ってな……」

 で、選んだ動物が実装石であった。
 空き缶から取り出したので、ひどくべたべたする。
 これは風呂場直行か。

 温い湯に浸すこと六回。
 一度湯につけたら緑の刺激物が出来上がり、早々と湯を入れ替えた。二度目は少し学習し、シャワーで流しながら石鹸で体をまさぐった。時折便をひるのが苛立たしい。

 たかが小動物の入浴に三〇分も立っていた。
 乾燥機の中で回る拡散防止の洗濯ネットが恨めしい。
 出来るだけ最上級の扱いで感想させたそれは、仔実装のもと着ていた服と比べると、とても同じものとは思えなかった。
 ドブ色の衣服は草の臭い香る、風にはためく。
 仔実装の三日目に及ぶその生涯では、破格の待遇であった。
 すると当然ながら、実装石は増長する。
 物を拾っては家具や調度品を狙って、力の欠片もない軟質素材の棒でつつきまわした程度では、丸い灰皿といい勝負か。
 灰皿の持ち主——普段実装に構わない父が、その時ばかりは思いっきり実装石を引っ叩いた。
ばんっ、という身の竦む音には、俺も弟もあったことがない。

「動物は誰より偉いのか知りたがるもんなのさ。最初が肝心だね」

 ただ聞くばかりの俺たち兄弟は、叩かれてなく実装石を尻目に、父の意外な知恵に感心するばかりだった。


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スク師です
前作品は
『ボランティア』
     のみです

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