二葉市某区公民館 何の変哲もない公共施設だったこの館は数日間の間、恐怖の館と化す。 入った者を恐怖のどん底へと突き落とす、恐るべきホラーハウスに。 入り口には看板が立っていて「幽霊屋敷にようこそ」と下手な字で素っ気なく書いてあった。 幽霊屋敷か。平凡な夏の区民祭に飽きてきた人達が入るかもしれない。 暗幕が張ってある公民館……もとい幽霊屋敷の入り口横で、暑さの所為か気怠げに突っ立っている青年ボランティアに入場料を切って貰う。 料金は二百円。区民祭などといった小さな祭りの出し物の値段としては微妙なラインかもしれない。 嫌な予感はしたが、金を払った以上は中に入らないわけには行かないので幽霊屋敷の中に入る。 中に入るとソコソコ広い玄関ホール。今は安っぽいセットで精一杯不気味に飾ってある。 入場者が入って来た為か、どこからともなくアナウンスが流れてきた。 やる気の無いセットの割には、アナウンサーはノリノリのようだ。 「ようこそ二葉市が誇る幽霊屋敷へ! ……いや、本当はこの区にしか無いんだけどね。さぁ、そこの扉を潜りたまえ。君を恐怖の世界にご招待しよう」 ホールの向こうに扉があるのでそこから中へ入ってみる。 そこは……血まみれの部屋だった。 血生臭い空気が、部屋一杯に充満している。 作り物ではない、本物の死体が部屋中にゴロゴロと転がっていた。 思わず口元を押さえたのを見計らったのか、またアナウンスが流れる。 「ここは一家惨殺事件のあった部屋だ。4人が殺された……なんてのはウソ。本当は十数匹が殺されただけさ」 何だか糞の臭いまでする。吐き気がしてきた。 慌てて中央の通り道を過ぎると、またドアがあったので開けて潜る。 「雷雨の夜というのは恐ろしいよね。たとえばの話、首つり死体が夜空に映し出された瞬間とかは」 M○3でやっつけで作ったような安っぽい雷鳴のSEと共に窓のカーテンに首を吊った小人の影が沢山映る。 長い廊下をカーテンで仕切られた通路が10m程続き、時折煌めく雷光によって影が何度も映される。 「テェェェェ……」 「グゲェェ……」 「ゲブ、ゴ、ゴボ……パキン!」 驚いた事にまだ生きているのか、時折吊り下げられた躰がゆらゆら動いたり、痙攣したりしている。 やはり、ここも糞の臭いが充満していた。気分が悪くなったのでさっさと通り抜けた。 次の部屋に入るとキイ、キイ、という何かが軋むような気味の悪い音が聞こえてくる。 背中を向けて揺り椅子に座っている誰かは無言だ。無言どころか、死に損なった呻き声まで聞こえてくる。 向こう側にドアがあるから、椅子の側を通るしかない。 仕方がないので、恐る恐る進むことにした。 「デギャアアアアアアアアアア…………ギャブ!!?」 ドアに向かって進んで行くと、絶叫と共に天井から逆さ吊りの実装石が落ちてきた。 良い具合に血みどろで、良い具合に首にも荒縄が締め付けてある。 アナウンスの声が何だか妙に楽しそうに響く。 「彼女の名はマリアンヌちゃん……お喋りだったけど今は無口になってしまった。見てご覧、半死半生だけど君に会いたくて出て来たみたいだよ?」 「タ、タスケテニ、ンゲ……パキン」 「あら残念。折角出て来たのに半死半生から完全死になってしまった。これじゃご挨拶も出来ないね」 死体となったマリアンヌちゃんがズリズリと天井へ引き上げられていく。 さらに揺り椅子に座っていたのは何と実装さんだった。こっちは剥製だったので虚仮威しだったけど。 剥製の頭に突き刺さっているバールが何ともリアルだった。 「マリアンヌちゃんの悲劇は、君にとっても辛い事だと思う。だけど悲しむ事は無い。あれで125代目のマリアンヌちゃんだからな」 陰湿で臭い部屋の中で、アナウンスの声だけは妙に楽しそうだ。 「君が次にここに訪れる事があったとすれば、きっと125代目以降のマリアンヌちゃんとご対面出来る筈だ。楽しみにしていてくれ」 次の部屋は牢獄のような場所で、鉄格子の牢屋が並んでいる。 中には蛆ちゃんから成体果てには獣実装までが監禁されていて、中に居る拷問吏に虐待を受けていた。 ……どうみても、単純に中世の拷問吏のコスプレをした虐待派が実装虐待をしているだけのような気がする。 いささか陰鬱な気持ちになったが、アナウンスの声は相変わらず楽しげである。 「この屋敷も古い……偶に仕掛けておいた罠が作動してしまう事もあるんだよ」 アナウンスの声を聞き流して先に進むと天井がガタンと音を立てて揺れた。 天井には無数の鉄のトゲがついていたが、少し揺れただけで落ちてこない。 アナウンスがのたまう。 「失礼。機械が誤作動してしまったようだ。本当は最後まで落ちるはずだったのに……」 と、ドスンという音が響き、「ブメギャ」だの「ピギャ」だの悲鳴と共に何かが潰れる音がした。 よく見ると、少し手前の牢屋の吊り天井が落ちていて、牢屋に居た実装石達がぺちゃんこになってしまっている。 「おや、あっちの方は正常に動作したようだね」 どうでもいいが、糞の臭いがますます酷い。 拷問吏もアナウンスもいまだノリノリだが、常人である此方としては随分とキツイ。 しかし、それも終わりのようだ。 牢屋を抜けた場所にある扉。『出口』と書かれていた。 アナウンスが告げる。 「そこが最後の出口だ……またのご来場をお待ちしているよ」 少しほっとした。怖いだの、気味悪いだの関係ない。 これでやっと陳腐でウンコ臭い幽霊屋敷から出られる。何だかむかつくアナウンスともお別れだ。 ほっとした気持ちで、扉を潜り抜けた。 …………その先は長い廊下になっていた。 出口じゃない。どんなおふざけか。 「そう……そこは出口のはずだった。はずだったが……此処に棲むみんなは君が帰るのを望んではいないようだ。 そして私もそう思う。大丈夫だよ。糞蟲を虐待する事は愛護する事よりもずっと簡単だ」 ……やっぱりか。流石、虐待派御用達の街の幽霊屋敷だ。 壁に立てかけてある金属バットとバール。そして通路の向こうからやって来る禿裸の群れ。 みんな良い具合に虐待され、さながら幽鬼の集団だ。 「ニンゲン、ココカラワタシヲツレダスデスゥ!」 「ゼイタクイワナイテチュ、モウ、コノオウチカラダシテチュウ」 「ユウレイヤクナンテモウヤデチュ、ホントウニコロサレルノハイヤテチュ!!」 「タスケテクダサイデスゥニンゲンサン、ココニスンデルノハユウレイヨリコワイギャクタイハドモデスゥ!!」 ……さて、俺は別に虐待派じゃない一般ピープルだ。 さりとて、このウンコと血生臭い屋敷から出たい。 故に俺に選択肢はない。 そー言う風に設定されているようだ。 トホホ、こんな幽霊屋敷に入るんじゃなかったぜ。 「お前等さっさとくたばってそこをどきやがれぇ!!」 「デギャアアアアアアアアアアアア!!!」 「タ、タスケテクレジョパァ!!」 バットとバールで禿裸を薙ぎ払いながら出口に向かう俺。 まだ出口は遠く、禿裸は数多い。 「さぁ、これで君も虐待が好きになった筈だ。どうかね、今度中央公園で虐待ライフにレッツトライ♪」 「絶対に訴えてやるぅぅぅぅぅぅ!!」 完 ———————————— 感想を何時もありがとうございます。 過去スク 【微虐】コンビニでよくある事 【託児】託児オムニバス 【託虐】託児対応マニュアルのススメ 【虐】夏を送る日(前編) 【虐】急転直下(微修正) 【日常】実装が居る世界の新聞配達(微修正) 【虐】山中の西洋料理店 【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ 【虐・覚醒】スイッチ入っちゃった 【虐夜】冥入リー苦死実増ス 【冬】温かい家(改訂版) 【虐】繭を作った蛆 【教育】神父様の教え 【哀】風の吹く町 【哀】【春】急転直下2 【哀・虐】桜の季節 【虐】繊維蟲 【餌】釣り場での託児 【虐・哀】春が過ぎた季節 【託児】託児オムニバス2 【哀】初夏を迎える季節 【ホラー】シザー・ナイト