『蛆ペット』 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 「——レフェェェン、出してレフー、出してレフー……!」 道端に転がるペットボトルの中で蛆実装が泣いているのを見つけた。 ……ペットボトルの、中? 無理やり押し込まれたというわけか。頭巾は脱げて、顔に擦り傷。 「ニンゲンさんお願いレフ助けてレフー、ここから出してレフー、ママのところに帰らせてレフー……!」 ……ったく、どこのヒマな虐待派気どりだ、つまらないイタズラしやがって。 チリぃ蛆なんかイジメて何が面白い? その場にしゃがんでペットボトルを拾い、逆さに振ってみる。 「レピャッ!? レピィッ!? イタイイタイレフッ! 振ったらダメレフッ! やめてレフー!」 ペットボトルの中で、ぽこぽこと頭やらどこやらをぶつけて蛆が悲鳴を上げる。 飲み口に外から押し込むのは簡単だけど、中にいる蛆を飲み口から外へ出すのは無理っぽい。 サイズがぎりぎりすぎるのだ。 あとはナイフでも使ってペットボトルを切り開くしかないけど…… 「…………」 俺はペットボトルをその場に転がして立ち上がった。 「……ごめん、無理」 「……レフッ!?」 持ち歩いてないしカッターにしろ他の刃物にしろ。かといって家に取りに帰る暇もない。 暇があったとして、そこまでしてやる義理もないし。 「そんなひどいレフッ! 見捨てないでレフッ! お願いレフここから出してレフー!」 悲鳴を上げてる蛆を振り返らずに、その場を後にする。 チリぃ蛆が一匹、のたれ死んだところで世の中どうってことないからな。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ ……と、それが近場へ嫁いでいる姉貴のところへ甥っ子と姪っ子を迎えに行く道すがらの話。 自分は高校時代の友達とカラオケに行くという姉貴から、 「オマエ学生なんて夏休みで暇だろ、ウチの子が『ポ○ョ』観たがってるんで連れてっとけや」 と、呼び出されたのだ。 そういうときは普通、姉貴がウチ(実家)へ子供を連れて来るものだと思うけどな。 そして小学校低学年の甥っ子と幼稚園児の姪っ子と三人で例の映画を観たわけだけど。 甥っ子と姪っ子は普通に「おさかなのときのポ○ョきもーい(笑)」とか面白がってたけど。 俺は来る途中の出来事を思い出して、ちょっと反省した。 あの蛆実装を助けて家に連れて帰っていたら可愛い実装人にでも生まれ変わってたかなー、なんて。 魚のときはキモかったポ○ョも、そこそこマシな外見の女の子に化けたくらいだし。 まさか……ね。 ありえねーか(笑) ------------------------------------------------------------------------------------------------ んで、映画のあと。 甥っ子と姪っ子を駅前の大型スーパーでメシを喰わせ、ゲームコーナーで遊ばせて時間を潰して。 約束通り、夕方五時に二人を姉貴に引き渡して本日の任務完了。 その帰り道、なんとなく気になって。 本当に実装人に化けると思ったわけじゃないけど。 もしまだ生きているなら、せっかく『ポ○ョ』観たよしみで助ける努力してやってもいいかなーとか思って。 行きに蛆実装入りのペットボトルを見つけた辺りで注意深く道端を見ながら歩いてたら。 まだ、ありましたよ問題のペットボトルが。 中の蛆実装は死んでたけど。黄色いイヤな色をした液体に浸かって眼球を白濁させて。 黄色い液体……わざわざ近づいて確認する気はないけど、どう見てもアレだよな。 小便だよな。 昼間の話だぜ? わざわざ蛆をいたぶるためにペットボトルを拾って小便を注いでやったのか? 道端で? まあ、子供の仕業かもしれないし、どうでもいいことか。 (俺もガキの頃によく公園の野良実装に小便を引っかけてイジメたもんだ。) みじめに死んでいく蛆実装なんて珍しくもないし。 さっさと忘れることにして、俺は家路を急いだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 【終わり】