タイトル:【観?】 悪気は無い
ファイル:悪気は無い.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3722 レス数:0
初投稿日時:2008/07/28-23:10:03修正日時:2008/07/28-23:10:03
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悪気は無い


昼にはまだ程遠い時間帯、住人が通勤した後の静かな住宅街を一人の男、トシアキが自転車で颯爽と駆け抜ける。
貧乏なトシアキは大学の夏休みに田舎の実家に帰るのにお金が無いのともったいないので、自転車で2、3日かかる道のりを
ひたすら突き進んでいた。

「テジャァァァーーーー!テチテチテチーーーー!!」

住宅街から少し離れた所で仔実装の悲鳴が聞こえてきたので、気になったトシアキは自転車を止め、辺りを見回してみる。
悲鳴をあげる仔実装がいた場所は一台の放置されているとしか思えない薄汚れた車がある原っぱで、よく見ると仔実装は数匹
車の近くに抱き合いながら震えていて、その姉であろう少し大きな一匹の仔実装が棒を振り回して猫を追い払おうとしている
所だった。
仔実装は姉妹を守る為に必死に棒を振り回しているが、デタラメに振り回しているだけなので猫に当たるはずも無く、軽々と
避ける猫も遊び心が沸いてきたのか、一気に仕留めずに避けるのと同時に爪で小刻みに仔実装を傷つけていく。
そのような様子を見て別に愛護派でも無いトシアキだったが、仔実装達を助けてやろうと原っぱに足を踏み入れる。するとト
シアキに気づいた猫は仔実装に一撃を加えてその場から逃げ出して行った。
猫も逃げ出したので帰ろうとしたトシアキだったが、車の方から仔実装達の悲しげな声が聞こえてきたので様子を確かめよう
と近づく。
少しトシアキが現れるのが遅かったのだろう、そこには猫の爪で全身引っ掻かれて死亡した仔実装を、目と同色の涙を流しな
がら必死に揺さぶる三匹の仔実装がいた。
トシアキに気が付いた仔実装達は逃げ出そうとしたが、トシアキは携帯の実装リンガルアプリを起動させ、害意が無い事を伝
えると、解ってもらえたのか落ち着きを取り戻した仔実装達と一緒に死んだ仔実装を車の脇に埋めてやる。

「なぁ、お前ら家族はここに住んでいるのか?」
「そうテチ。そこの車って言うのの下にママが家を作ってくれて、そこに住んでいるテチ」

生き残った三匹の中で一番大きな仔実装に言われてトシアキは車の下を覗き込んで見ると、地面が少し掘ってありダンボール
ハウスがちゃんと組み立てられていた。この仔実装達の親は賢い野良なのだろう。ここなら雨でダンボールハウスが潰れる事
も無いし、暑い太陽の日差しも車が遮ってくれる。それに車の下に巣を設置する事により人間やカラスに発見される可能性も
少ない。ただ今回のように地を這う動物には見つかるだろうが。

「そういやお前らの親はまだ帰ってこないのか?」
「ママは今ご飯を取りに行ってるテチ。いつもママはお日様が真上になるまで帰ってこないテチ。ワタチ達はいつもお家の中で静かにお
留守番していたんテチ。でも今日は一番下のイモウトチャが我慢できずに外に出てしまったから、連れ戻そうとした時に猫に見つかっ
てオネイチャが……テェェェン、テェェェン」

姉の事を思い出したのか、また泣き始めた仔実装をなだめながらトシアキは、親実装が帰ってくるのはもっと後でこのままじ
ゃまた猫かにやられるなと思い、仔実装が泣きやんだのを確認すると、放置されている車を調べだした。
見たところ薄汚れているだけで、ガラスも割れてないし少し整備したら今にも走り出しそうだ。

「テ?ニンゲンさん何してるテチ?」
「それは車テチュー♪ワタチ知ってるテチュー♪」
「あぁお前らの親が帰ってくるのも遅いようだし、このままだとまた猫とかに襲われるかもしれないからな。だから安全な場
所がないかと思って調べているんだよっと」

危害を加えないトシアキに安心したのか下の二匹の仔実装もトシアキに話しかけてくる。それに答えながら車のドアノブを引
いてみると、鍵はかかってなかったのでドアは用意に開いた。

「テェェェェ。車が開いたテチ。凄いテチ」
「よし。車の中で親が帰ってくるのを待ってな。ここなら猫とかに襲われる心配も無いぞ。親が帰ってきたら出してもらいな」

車のドアが開いたぐらいで歓声を上げる仔実装達を、トシアキは優しく一匹一匹車のシートに置いてやる。

「凄いテチー。ワタチ車の中に初めて入ったテチー♪」
「地面がフワフワテチュー♪」
「こけても全然痛くないテチー」

シートの上ではしゃぐ仔実装達をしばらく眺めていたトシアキだったが、家に帰る途中だったのを思い出した。

「テッ?ニンゲンさん帰っちゃうテチ?」
「ワタチもっとニンゲンさんと遊びたいテチュ」
「俺もそうしてやりたいんだけど、家に帰る途中なんだ。遠いから急いでいかないと……。じゃあ達者でな」
「ニンゲンさんバイバイテチー♪」

トシアキは車に以上が無いか確認をしてからドアを閉め、自転車に乗り原っぱを後にする。


トシアキが原っぱから去って数時間後。暑い日ざしが降り注ぐ中、ビニール袋に生ゴミを一杯詰め込んだ親実装が汗を一杯か
きながら巣に戻ってきた。
そして車の近くで一度立ち止まり辺りを見回して警戒した後、急いで車の下のダンボールハウスの中に入る。

「お前達待たせたデスー。今日はご飯一杯取れたデスー。リンゴの芯もあった……デデッ!?仔がいないデスー!!」

親実装が意気揚々と巣の中に入るも仔がいないので、慌てて手に持つ袋を置いて巣から飛び出して声を上げながら辺りを見回
す。

「お前達ー何処デスー?ママが帰って来たデスー。出てくるデスー」
「テェェェ……マ、ママァ……。出してテチ……」

すると車の中からかすかに弱った仔実装の声が聞こえたので親実装は、車を叩きながら仔実装に声をかける。

「なんで車の中にいるデスー!他の仔も中にいるデスー?ママが直ぐに助け出してやるデスー!」
「ママァ…凄く暑いテチ……イモウトチャ達もいるテチ……。でもちょっと前からイモウトチャ達、口から泡吹いて動かなくなったテチ……」
「デガァァァァ!車が凄く熱いデスー!でも負けないデスーー!」

照りつける日差しにより窓一つ開いていない車内はサウナ状態。人間でも耐えられないだろう車内で、三匹の仔実装の内一匹
を除き既に暑さで死亡。残った一匹も虫の息だ。
車内から弱弱しい仔実装の声を聞くや、親実装は無我夢中で焼けるように熱い車体に触る手が火傷をして使えなくなるや、体
当たりをして必死にドアをなんとかして仔実装を助けだそうとする。
だが所詮実装石の力では車に傷一つつけられず、体当たりをしてははじき返され、それでも体当たりをしてと意味も無い行動
をしているだけだった。

「マ…ママ。もうワタチ死にたくないテチ……出し……」パキン
「デ?どうしたデスー!もう直ぐママが出してやるデスー!だから声を聞かせるデスー!!死んじゃダメデスー!」

仔の声が聞こえなくなっても、必死に声をかけながらドアに体当たりを続けた親実装だったが、とうとう力尽きてその場に仰
向けに倒れこんでしまった。体当たりで車に触れた箇所は火傷を負い酷い状態だ。

「デェェェェ……体がもう動かないデス。何でこうなったデス。私は何も悪い事はしてないデス……ただ仔達と幸せに暮らし
ていただけデ……」パキン

仔も助け出せず、体も動かなくなった親実装は何でこうなったのかと絶望に打ちひしがれる中、偽石が消耗に耐え切れず割れ
て死亡した。



「暑いなー。そういやあの仔実装達元気にしてるかなー。今頃親とご飯を食べているかもしれないな。俺も早く家に帰って母
ちゃんのご飯食いてー」

トシアキが良かれと思って仔実装達を車内に入れた事で実装親子を全滅させてしまったのだが、トシアキはそんな事知るよし
も無く、反対に今日は良い事をしたなーっと思いつつ、暑い日差しを浴びながら実家までの遠い道のりを力いっぱいペダルを
こいで駆けて行た。


END


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第七段スクです。
前作、ある公園の真夏に感想を下された方に、この場を通してお礼申し上げます。
今後とも感想を励みに、アドバイスは生かして、指摘して頂いた部分は今後そういう事が無いようにしていきたいです。
今回は短いですが、悪気は無いんだろうけど、それを行動に移すと裏目に出るというのを書いてみたのですが、いかがだった
でしょう。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。今後ももっと良い文が書けるよう精進いたします。

では、最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。

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