タイトル:【虐】 変わらない
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:6406 レス数:1
初投稿日時:2008/07/27-21:05:56修正日時:2008/07/27-21:05:56
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ピンポーン・・

時刻は夜23時ジャスト。
バイトが長引いたせいでイライラしている僕のもとに友人が来た。
しかも実装石を連れて。
友人の足に隠れてこちらをチラチラと伺っていることから、なんとなく賢いヤツのような気がした。
明らかに不機嫌を前面に出してドアを開けたのに、友人はヘラヘラ笑いながら口を開いた。

「いや〜、こんな遅くに悪いなぁ〜」
「・・あぁ悪い。とっとと用件言って帰れ」
「マジ冷たいなぁお前・・」
「疲れてるんだよ」

ちっとも悪びれる様子の無い友人に多少怒りを通り越したものが芽生え始めたが、僕のすわっているだろう目から
その黒い感情を読みとったのか、それ以上余計な事は言わずに率直に用件を述べてきた。
まずその足に隠れている実装石を自分の前へと引きずり出して、

「実はな、こいつをお前に貰って欲しいんだわ」
「断る」
「早!!」
「用件はそれだけか、なら帰れ」

都内で一人暮らし。学生やりながらバイト。言うまでも無くペット養う金など無い。
自分養うだけでもせいいっぱい、限界ギリギリの生活をしてるのだ。
無論ペットの中でも特に金のかかる実装石なんぞ飼う余裕はゼロ。
だが友人はまだ渋い顔をしながら俺に恨みがましい視線を向けてくる。
そんな目で見るな。

「とりあえず理由だけでも聞いてくれよぅ〜〜」
「・・・聞くだけなら」
「ホントか?よし!」

友人はパっと目を輝かせて、ため息をついて頭を抱える僕の事など全く気にせずに話を始めた。
その無神経さと切り替わりの早さが時折羨ましくなる・・。



・・まず先に言っておくと、この友人は虐待派だ。
だが、何故か賢く性格の良い実装石のみは許せるらしい。
前に彼の家に邪魔させてもらったことがあったが、そのときに見た実装石の扱いは2通りだった。
汚い水槽で飼われている汚くウザいヤツら。
もう一方は家の中で放し飼いにされているキレイで礼儀正しいヤツら。
キレイな方は2匹、汚い方は7匹。
一目見ただけでどういう区分なのか、僕でも想像がついた。
あの頃は実装石なんて野良しか知らなかったので、どっちを見てもあまりいい感想は持たなかったが。

僕は実装石という生き物についてそこまで詳しくはない。
虐待派というわけではないのだ。
まぁ腹が立っているときに視界に入れば9割方蹴り飛ばすだろうが。
ただ何故か友人が虐待派ばかりなので、虐待という本来なら非道徳的であろう行為に対して全く抵抗がない。
例えば友人が

「実装屠りに行かないか?」

と言えばいつもなんとなく着いていく。
「「「テェェェェェェェェ!?」」」という悲鳴が耳障りだが。

「実装虐めに行かないか?」

と言えばいつもなんとなく付き合う。
「「「テチュァァァァァァアアアア!!!!」」」という悲鳴は聞き飽きたが。

「実装潰しに行かないか?

と言えばいつもなんとなく長靴はいてご一緒する。
「「「チュボァ・・・・」」」という断末魔だけは静かでいいが。
実装石の虐待・虐殺は僕にとって友人達との付き合いの一間だった。

さて、説明が長くなってしまったのでそろそろ友人の話を要約しよう。
まとめてしまうとこういう事だ。


『こいつは少し変わったヤツで、俺の手には負えない。だがとても珍しいヤツだから殺してしまうのは惜しい。
 しかし俺の周りには虐待派しかいないので頼めない。だから実装石にあんまり興味が無いっぽいお前に飼って欲しい。
 幸い賢いので「普段」は手間がかからないはずだ・・・・多分』


ちなみにこっちの意見を一言でまとめると「帰れ自己中」だ。
いつもなら。
前述でも述べたが、僕は実装石に興味は無い。
「少し変わった」「珍しい」という単語の方に反応したのだ。
頭の中でなんと答えるか考えてるうちに、僕の口は勝手に開いていた。

「わかった。だけどつまらなかったら返品しに行くからな」
「そうこなくっちゃ♪まぁもし返品するならついでに処分も頼むわ〜」
「知るか。そんな事はお前がやれば・・・ってオイ!!?」
「任せたぜーー!うちの子達が俺の事を待ってるんだぁぁぁ・・・・」

悪態をついている間に、友人は連れていた実装石を玄関に残して後ろも振り返らずに走り去っていった。
しかもいつ置いたのか、玄関の前に巨大なダンボールが。
中を開いてみるとどこまで周到なのか、実装石の飼育道具&虐待道具一式が詰まっていた。

「最初から何が何でも僕に押しつける気だったのか」

残された実装石は僕の顔を見上げて震えていた。
僕の怒りの表情に怯えたのだろう。
別にこいつに向けているわけではないのだが・・。
ため息をついて表情を崩し、僕はダンボールの一番上に置かれていたリンガルを装着する。

「・・仕方ない。おい、お前。賢いなら僕の言葉はわかるな?わかったら頷け」
「デ、デスゥ(はははいデスゥ)」

震える体と浮かべた涙もそのままに、実装石は頷いた。
友人の家でそれなりに「躾」をされているんだろう。
人間に対する恐怖心が植え付けられているようだ。
僕はこいつに友人の行いを告げた。

「お前はこれから僕の所有物だそうだ」
「デェ・・」
「僕の邪魔をしない、手間をかけさせない、家を汚さない・・本当はまだまだあるが、とりあえず僕の手を可能な
 限り煩わせるな。それが守れるならこの家で飼ってやる」
「デス(わかりましたデス)」

実装石は僕の言葉に多少落ち着いたのか、声の上ずりが無くなった。震えも止まっている。
賢い事は確認した。
だがどこが変わったヤツなんだ?
・・後で友人に詳しく聞きだすか。
釈然としないながらも僕はダンボールに入っていた水槽を部屋の隅、一番日当たりの悪い場所に配置した。
そして実装石をその中にケガをしない程度に放り捨てる。

「そこが今日からお前の家だ。用件があったら言え。ただつまらない事ならお前の前の主人と同じ「躾」が待ってる
 事を忘れるなよ」
「・・・・・デス・・・・」

実装石は「躾」という言葉に多少ビクついたが、小さく頷くとすぐに水槽の中でいじけたように座り込んだ。
・・どこが変わってる?どこが珍しい?
普通に賢い実装石じゃないか。
僕の心に再びイライラがこみ上げる。
友人はもちろん、この実装石に対しても。

「おい、実装石」
「デ・・?」
「お前、どこが珍しいんだ?」
「デス?(なんのことデス?)」

実装石は座り込んだまま不思議そうに僕を見上げる。
感情の昂ぶりが冷静な思考と行動を妨げているのか、僕は怒りに任せて実装石の胸倉を掴み上げた。

「しらばっくれるんじゃない。お前のどこが「変わったヤツ」なのか正直に言ってみろ」
「デ、デェェェェ!?(何のことデスゥゥ?!)」
「・・我慢にも限度がある。何より今日は機嫌が悪いんだ。ヘタするとお前、死ぬよ?」
「デェェェェーーン!(本当に何も知らないんデスゥゥ!!)」

恐怖が臨界点に突破して、血の混じった涙を流して泣き出す実装石。
僕はその態度に舌打ちした。
本当に普通の・・ただの実装石じゃないか。
賢い実装石が「珍しい」なんて時代はとっくに終わってる。
天才と言われてる個体ですら、今ではそれほど貴重でも無いらしい。
ましてこの程度の実装石だったら公園でも稀に見つかるだろう。
「騙された」という文字が頭の中に浮かびあがる。
が、僕の怒りはもう上がることはなく、むしろ急激に冷めていった。

「デフェ?!」
「ふん・・つまらないヤツだ」

掴んだ右腕を振りかぶって下に投げつける。
実装石は水槽に緑と赤の斑点を撒き散らした。
どうやらところどころ潰れたみたいだが命に別状は無いだろう。
時折涙声で呻いているが、僕は既にこの実装石に対する興味の大半を失っていた。
水槽に分厚い蓋を被せてそのまま就寝。
今日は疲れていたせいかよく眠れた。
鳴き声は聞こえなかった。




「・・・・いい朝だ・・」

正確には昼だが・・。
どうやら寝過ごしてしまったようだ。
今から授業に出ても教師に怒られるだけ損だろう。
ハイリスクノーリターンなんて最悪だ。
結論、今日はサボる事にする。

僕は水槽の存在などとっくに忘れていたのだが、昼だが朝飯代わりに食べていたチョコボールを床に落とした際に気づいてしまった。
蓋を開けると、実装石は昨日と同じように座り込んでめそめそ泣いていた。
呆れた事に昨日できた傷はもうすっかり完治している。
再生力も普通の実装石・・か。
また一つ、この実装石への興味が消えていく。
放っておいても処分にはなるが、早合点して後悔するのは嫌なので餌として実装フードを適当に入れておいた。
だが実装石はすぐには食べようとせず、餌の方をチラチラと見ているだけだった。
いちいち観察しているのも時間の無駄なので、今のうちに友人に確認の電話ついでに怒りをぶつけようと思う。

「・・・はい、利明です」
「おはよう糞野郎」
「昼なのにおはようって・・あ、お前今起きたな?ってかサボりかよテメー!!」

何故か糞野郎に反応しないのがムカつく。
憤りで寿命が縮む前にとっとと用件を切り出すか・・。

「昨日お前が置いていったあの実装、どこが変なんだ?」
「ん?あれ?まだ何も起こってないのか?おかしいな・・・」

なにやら唸り始めた友人。
早く結論を聞きたいのだが。

「何か起こるって何のことだ?」
「お前あいつに餌やってないのか?」

質問がしたのに質問が返ってきた。
話聞けよ。
それでも我慢して友人の質問に答える。

「今水槽の中に放り込んだ」
「そか、じゃあそろそろのはずだ」
「は?」
「すぐわかるって♪詳しくはまた今日お前の家で話してやるよ!おっと、そろそろ休み時間終わるから切」

ガチャン

みなまで言わせず先に電話をたたっ切る僕。
彼の言った言葉が気になったからだ。
「そろそろのはずだ」
何がだ?餌が関係してるのか?
考えながらも足は例の水槽に向かう。
すると視線の先、なんとその水槽がガタガタと揺れだした。
どうやら中で実装石が暴れているようだ。
だが・・

「あのビビりがあんな事するか?」

昨日の実装石の様子から見て、あの怯えが演技でないのはわかった。
賢い個体であることも。
だから余計に目の前で起こる事態が信じられなかった。
足早に揺れる水槽に近づき、そして乱暴に蓋を開ける。
開けた瞬間、無音だった室内に響く大音響。

「デズゥ!!!デスゥデスゥデスゥゥゥ!!!(なんでこんなマズい飯しかないんデスゥ?!美しい容姿と高貴な
 血を身に宿して産まれたワタシがこんな糞みたいなモノ食べられるわけが無いデスゥゥゥ!!!)」

昨日の実装石・・には違いないだろうな。
証拠は服についた赤緑の斑点と、昨日掴んだ胸倉の部分の皺。
だがこれはどういうことだろう。
実装石はものすごい声で鳴きながら、実装フードを水槽内に手当たり次第に投げ捨てている。
その血走った目、涎を垂らす口、昨日は染み一つ無かったパンツも今は糞を大量に収納していた。
試しに威圧的に話しかけてみる。

「おい・・」
「デズゥゥ?!(あぁ?!なんデスゥ?!)」

挑戦的な目で僕を見上げる実装石。
やはり別人・・いや、別実装のように思える。
どう考えても昨日の個体はこんな事はしない。
出来るはずも無いだろう。
どうせ死ぬなら全てメチャクチャにしてやるとでも思える程、ヤケになれる性格でも無かった。
あーでもないこーでもない、実装石の終わらない喚きを聞き流して考え続けた。
床に胡座をかいて顎を抑えて唸るも、漫画のようにポン、と原因が思い浮かぶわけも無い。
利明が来るのを待つしかないな・・。
耳をつんざく様な汚い声をこれ以上放っておくのは近所にも迷惑なので蓋をする。
水槽は声の代わりというよにガタガタと揺れたが、重石代わりに六法全書を乗せるとおさまった。
そーいや昼飯食べてなかったな・・・。
俺は情けない音を出す腹を押さえて台所に向かった。



ピンポーン・・

このタイミングで来たのか・・。
飯食ってから今まで溜めてたアニメを見続けて時間を潰していたのだが・・。
見ていたアニメが丁度クライマックス直前のシーンだったので、出たくなかった。
・・そうも言ってられないか。
俺は惜しむように停止ボタンを押す。
テレビ画面にニュースのおっさんが映るが、一秒待たずに電源を切る。
げんなりした顔でドアを開けると

「ヤッホー!「」君〜!」
「黙れ。いや黙るな。とりあえず詳しい話だけ聞かせろ。そこだけ話して去れ」
「・・最近ホント冷たいなお前・・。まあいいや」

俺の残念そうな面に同情でもしたのだろうか?
今日はやけに素直に話を始めた。

「あいつはな、「ある行為」をスイッチに人格・・いや、実装だから実格か?とりあえずな、それが入れ替わるんだよ。
 普段は賢い実装石。裏側はもう見たと思うがこれまた見事に正反対な最高レベルの糞蟲さ」

二重実格・・。
要するにそういうことか。
僕は珍しく自分から友人を家の中へと招き、こうなった詳しい事情を聞きだすことにした。








「こいつにはスイッチがある」
「スイッチ・・・?」

友人はいつものように笑いながら顔を水槽に向ける。
中では血管が浮き出るほどの狂える形相をした実装石が、その尋常でない雰囲気に勝る勢いで暴れていた。
重石を乗せてあるので水槽が揺れることも不快な声が漏れることも無いが、見ているだけで煩くなるような暴れ方だ。
そんな実装石を見ても友人は眉一つ動かさない。
慣れているのだ。

「・・そう、スイッチだ」
「性格を切り替える為のスイッチか・・」
「ご名答」

用意してやった座布団から腰を上げ、水槽にツカツカと近づく友人。
水槽の前でしゃがみこみ、重石をどけて蓋を乱暴に開け放つ。
その瞬間「デジャァァァァァァ!!」と威嚇するような耳障りな声が再び室内に響き渡った。
僕は思わず眉間に皺を寄せてしまったが、友人の顔はやはり動かない。
・・いつもヘラヘラとしている軽いヤツだが、こと実装石に関することになると人が変わったみたいになる。
いつもの軽い笑みから、それを貼り付けただけの仮面の笑顔に切り替わるのだ。
嫌悪以外の何ももたらさないだろう汚声の中、友人は騒ぐ実装石を右手であくまで自然に掴み上げる。
だが実装石はさらに激しく暴れるだけだ。
そして

「黙りな」
「デジャァァァァ・・・・・デギャァァア!?・・・・・・・デ・・・・?」

一言、その言葉を発した瞬間に友人の顔から仮面がはずれる。
僕以外ほとんど目にしたことの無いだろう機械のような顔。
それと同時にその左腕は実装石の顔を結構な膂力で殴りつけていた。
友人の一撃に痛みの叫び声を上げる実装石。
だがそれすら一瞬。
殴られてさらに逆上するのかと思えば、何故か実装石は不思議そうな顔で友人を見上げているではないか。

「デ・・デスゥ・・・?」

何が起こったのかわからない、そんな感じで僕と友人を見て、周りをキョロキョロと見渡す実装石。
僕は友人の顔に視線を向ける。
彼と目が合った。
そのときにはすでに仮面は消え、例の軽い笑顔に戻っている。
逆にいつものこの笑顔に寒々しさを覚えるほど、彼の変貌は凄まじい。
彼は僕が心中で鳥肌をたてているうちに、実装石を水槽の中にそっと降ろしていた。
優しく降ろされた実装石だったが、先程殴られた傷が痛むのか静かに泣き始める。

「とまぁこんな感じなのさ〜」
「・・・わかりやすく言葉にしてもらえると嬉しいな」




それから10分後、彼はいつもどおり笑いながら去っていった。
詳しい説明は受けたが、興味っていうのは種がわかるとその大半が失われてしまう。
それでも懇切丁寧に説明してもらった手前、このまま処分するのも友人に悪い。

スイッチについてだけ説明しておこう。
賢いヤツのときに餌を一口でも齧れば危険なヤツになり、逆は痛みを与えればいいだけだ。
そしてここが重要だが、賢いヤツは満腹を感じたことが無い。
餌を齧った瞬間に危険物に入れ替わってしまうからだ。
さらにタチが悪いことに、危険物は人から暴力を振るわれたと認識したことが無い。
痛みを感知した瞬間に賢いヤツに切り替わってしまうからだ。
・・以上。

他に何か変わったとことが無いかチェックする、という名目で僕はこいつを少し飼い続けることにした。
水槽を覗けばまだめそめそと泣いている実装石。

「おぃ」
「デスン・・デスデスン・・・デ?」

僕が呼ぶと実装石はまた怯えながら見上げる。
愛護派が見ればその控えめな姿は可愛らしいと思うだろう。
虐待派が見ればその実装石らしからぬ態度は新たな嗜虐心を呼び起こすだろう。
だが僕は無所属だ。
「ペット」の感情なんて知ろうとは思わない。
実装石はなおも僕を見上げている。
そして手を口に当てる例のポーズをとった・・ように見えた。
実装石にそのつもりは無かったのだろうが、頭に血が上るのが自分でもわかる。

「デギャ?!」

感情に任せて適当にその顔を一回殴りつける。

「お前らだけではなく、僕は媚びっていう行動が大嫌いなんだ。二度とやるな」
「デデェ?デスデスーゥ!」

何かブツブツと僕に向かって喋り始めた。
どうやら何か言い訳をしているようだ。
だが僕はもう実装リンガルなんて持っていない。
こいつへの興味が失せた瞬間、不要になった実装関連の道具は全て虐待派の従兄弟のもとに送りつけた。
ちなみに従兄弟はすぐ隣の一戸建てに一人暮らし。
羨ましいことだ。
残ったのはわずかな実装フードと水槽。これだけ。
再び自分の手が唸りを上げる。
今度は往復二回。

「デベ?!デジャ?!」
「言い訳はいらない。お前の意見は聞いてない。僕を不快にさせたら殴る、それだけだ」
「デスゥ・・・デスン・・・」

また泣き始める。
その姿にも腹が立った。
さらに三発、強力な平手打ちを放つ。

「デブァ!!デゲ?!デビャァァァァァ?!」
「泣くな。ウザい」

前の三発も相まって、腫れた頬を押さえつつもピタっと涙を止める実装石。
涙って自分の意思で無理矢理止められるものなんだな。
実装石は泣くのをやめて僕に背を向けつつ水槽の隅で蹲る。

「それでいい」
「・・・・・」

賢いヤツだ。
僕を不快にさせない一番の方法を僕にその顔を見せないこと。
極力行動を見せなければ不機嫌にさせる事もない、そう判断したのだろう。
確かにこれなら特に何も感じることは無い。
しかし・・

グゥ〜・・・・・
「・・ん?」
「デェ?!」

どうやら腹が減っているようだ。
それはそうだろう。
実格が変わって糞蟲状態になってから、一度も飯を口にしていないのだ。
いくら賢いとはいっても食欲の権化。
本能が訴えるこの腹の音を抑えることは出来ないだろう。
だがそんな事はどうでもいいんだ。

「デグァ?!ジュベ?!ギャブ?!デジュアァァァァ?!!!」

平手三発の後、その頭を掴んで軽く握り締める。
そう、こいつの本能なんて関係ない。
いちいち耳障り目障りな行動をした、こうする理由はそれだけで十分だ。

「うるさいよ」

眼前でその面を睨みつけて念を入れるように一言。
実装石はガチガチと震えながら必死でデスデスと鳴いている。
頭を下げてるようだから謝っているつもりなんだろう。
涙を流して必死で恐怖から来る便意にも耐えているようだ。

「泣くなって言っただろ。ウザいから」
「デズ?!デ!デェ!デゲェ?!デジュァァァァァァァァアアアアア?!・・・・・」

僕は頭部を掴んだまま五回に分けて、ギュッギュッと握力トレーニングでもするように握る、緩めるを繰り返した。
最後の五回目に少し強く握ったせいか、気絶してしまったらしい。
涙と涎、そして耐えていた便を少しだけ漏らしてぐったりとしている。
汚くなったペットを、僕は眼下の水槽に放り投げた。
また片腕が潰れたが、気絶している実装石は気づかない。
水槽の汚れが酷くなったのを少し不快に思いながらも、僕は夕食を取るため蓋を閉めた。





昨日は早々に寝てしまったので、今日は早く起きることが出来た。
布団から部屋の隅にある水槽を目を細めて見てみると、実装石はまだ寝ているらしい。
僕は布団から出ると、水槽の蓋を開け放つ。

「僕が起きたのに何でお前は寝てるんだ?」
「デグジャ?!デゲ!?デ(ry」

水槽の壁に強く押し付けてから例の如く平手打ち五回。
実装石は何故殴られたのかわかっていないようだ。
わからないってのがまたウザい。

「デギャァァァァァァァ?!デズボァァァァァァァ!!!!!!」

足を掴んだまま水槽のいたるところに七回叩きつける。
そろそろおわかりだろうか?
実装石が僕を不愉快にさせる度、与える痛みを一回ずつ増やしていることに。
僕が嫌な気分をした回数、それ以上をこいつに与えてやる。
虐待派じゃないくせに何故そんなことをするのかって?
決まってるだろ。不愉快だからだ。
昨日のように必死で首を縦に振って謝り始める実装石。
涙が目からあふれそうだが、流れてはいない。
効果はあったみたいだな。
だが、何故僕が不快に思ったのかがまだ理解できていないらしい。

「デグブァ!!デギュォ?!ジャ・・・・・・・」

これで八回目だ。







あれから3日が過ぎた。
この実装石は本当に日に何度も僕を不快にさせる。

「デジョァァァァ?!デグァ!?デベ?!ゲジュ?!(以下省略」

今日でもう62回目だ。
最近では一回粗相をする度に気絶する。
その分殴られるからね。

「デェ・・・・・」

舌をだらんと口からはみ出したまま、実装石はまた気絶した。
やはり特に変わったところが無い、普通の実装石だ。
二重実格になっても生態、嗜好などに変化は無い。
この3日でそれがわかった・・後は。

「もう片方のヤツか・・」

僕は憂鬱になった。
出来ればもう二度とあの糞蟲の方の実格には会いたくないのだが・・。
その不快感とは別に、興味もそそられていた。
一つだけこいつには特別なところがある。
偽石の異常な強度だ。
虐待師でない僕にとって、こいつはただの愛玩道具。
そう考えていたから僕は偽石を抜いてはいない。
別に死んだら死んだで捨てればいいだけの話だ。
だが予想外なことに、こいつはまだ生きてる。
精神虐待などの虐待師がやるような想像を絶することはしていないが、毎日殴られ続け、3日餌を与えていない状態。
一般の実装石だったら苦しみに耐えかねて崩壊してもおかしくないだろう。
今まで友人たちの脇で様々な実装石を見てきたのでそれくらいはわかる。
だが現にこいつは今日まで自我も保っているし、偽石にはおそらく傷一つない。

「となるとおそらく原因は・・」

そう、もう一つの糞実格だった。
こいつが何か作用しているのだと僕は考える。
だからそれを調べるために、僕はもう一度忌まわしいあいつを呼び覚ます。
気絶している実装石のすぐ横に、三日ぶりの実装フードを投げ込んだ。
起きたらすぐに食べるだろう。

「さて、心の準備をしておかないと」

下手すると僕の寿命が縮んでしまう。不快感で。
こんな無機物以下の有機物に自分を削られるのはごめんだ。
僕は水槽に蓋をして実装石が目覚めるのを待つ。



20分後、水槽がガタガタと揺れだした。
どうやら変わったようだ。
横から覗くとあのときのように物凄い顔をした実装石が転がったり手足をばたつかせたりしながら暴れている。
僕は耳栓を装備する。
出来るかぎりあの耳障りな声を聞き取りたくない。
そして意を決して依然揺れ続ける蓋を開けた。

「やぁ生ゴミ・・3日ぶりだな」







「3日ぶりだな」
「デジャアアァァァァアアアァァァァ!!!!デズゥゥゥゥゥゥァァァァァ!!!」

実装石にこれほどの大音響が出せるのか疑問に思ってしまうほどの声量だ。
汚い上に煩い。
とりあえず口に実装フードを詰め込む。
極力痛みを与えないように最初は大量に、だんだん少なくしていった。

「デ・・ブゥ!!」

口いっぱいに餌が詰まった。
これで少なくとも咀嚼している間は静かになるだろう。
代わりにグチャグチャと気持ち悪い音がするが、耳栓をしていればその程度は防げる。
実装石は腹が膨らんで満足なのと、安い餌を与えられたという不満で妙な顔になっていた。
そんなことはいいか、おとなしいうちに事を済ませよう。
と思ったのだが・・・

「・・どうやって調べればいいんだ・・?」

よくよく考えればこいつが偽石に「何か」作用しているのだとしても、それを調べる術が無い。
しばらく悩んだ末、僕は仕方なく諦めることにした。
が、それではまるでこの生ゴミに負けたようで納得がいかない。
そこでヒントというわけではないが、再び友人にこいつについての情報をもらおうと思った。
思い立ったがすぐ行動、僕は水槽の蓋を閉めて重石を乗せる。
そして電話。

『よぉ〜、どうした?あの実装もう処分したとか?』
「いや、その前に色々試そうと思ってる」
『いいねいいね♪ついにお前も目覚めの時かな〜?』
「馬鹿言うな。僕はお前らとは違うんだよ」
『寂しいなぁ〜・・。まぁいいや、で何の用?』

僕は友人に聞いた。
こいつが誕生したときのことを。




その経緯はこうだった。
ある日、友人のうちで飼っていた実装石が子を産んだ。
親は非常に賢い個体だったので、彼はその親に子の躾をある程度任せていた。
生まれてきた子は3匹。数が少ない代わりに中身が詰まったようで、3匹全てが賢いという異例の出産だった。
だがある日、そのうちの一匹が彼に遊んでもらおうとして服を汚してしまった。
その罰として彼は強烈な虐待をしたようだ。
仔実装が死ぬことはなかったが、それ以来彼を見ると水槽の隅で怯えるようになった。
やがて3匹は無事成体になり、うち一匹が春の花粉で子を孕んだらしく両目ともに緑に。
しかし、そいつはしばらくすると子を産むことなくもとのオッドアイに戻ってしまった。
それからも度々この孕み実装が妊娠するところを見たらしいが、出産が行われることは一度もなかった。
その原因を・・彼はようやく突き止めた。

『そいつさ、障害持ちだったんだよなぁ〜』

何度か絵の具などで無理矢理目を赤くして強制出産を試みたらしいがいずれも失敗。
いくら塗っても染めてもすぐに緑に戻ってしまうのだ。
おそらく中で育った子は、生まれてくる前に体内で消化されてしまっているのだろう。
だから今まで妊娠しかしなかった。
幸いその実装石自身が妊娠している事に気づいていなかったらしく、偽石崩壊という大事が起こることはなかった。
それから他の二匹も孕み、こちらは順調に妊娠、出産と続いて育児も始めていた。
ついに不妊実装がその異変に気づき始める。
いくら待っても子供が産まれない自分。
そして不妊実装は真実を知る。
自分の腹の中の子供の断末魔を聞いたのだ。

『すごかったぜ〜。偶然観察してたから俺も聞けたんだけどさ。悲鳴が腹の中から聞こえてくるのは圧巻だわ〜』

その最中も後も、親実装は必死で腹の子供に謝り続けていたそうだ。
そのときのリンガルの表示にはこう出ていたらしい。
「ごめんなさい、お母さんのせいでごめんなさい。出来るならあなたの痛みを全てこの身で引き受けたい」と。
そして数日後、その願いは半分実現した。

『ビックリしたぜ。最初は気が狂ったのかと思ったよ〜。だけどもう完全に違う個体なのな。そうそう、医者にも
 行ったんだけどさ。遺伝子情報が元の実装石と違うんだよ。あ、例の糞蟲実格の方な』

友人が家に帰ってくると同時に、不妊実装が彼に向かって突撃してきたそうだ。
糞を漏らして怒りの顔と声を上げて。
最初は驚いた彼だがそこは虐待師。
粗相をした実装は平等に罰するようで、異変は後回しとばかりに天井に激突するほどの強さで蹴り上げたそうだ。
短い悲鳴を上げ、高々と宙を舞う実装石。
地上に激突して今度は小さな悲鳴を発して気絶した実装石を彼は介抱した。
そして目覚めたときにはまた水槽の隅で怯える元の実装石に戻っていたそうだ。
すぐに回復祝いに餌を与えたといったが、それがスイッチだった。
実装石はまた別実装のような顔になり、彼に糞を投げつけ始めた。
彼はすかさず手にしたバール(ryで糞を持っていた右腕を切り落とす。
悲鳴は上げなかった・・そうだ。
実装石の表情にはまた怯えが浮かんでいる。
無くなったその腕を抱えて痛みをこらえるように、実装石はさめざめと泣いていたらしい。

『そこでやっと医者に連れて行ったんだわ。ちなみに仕組みに気がついたのもこの時さ〜』

彼は困った。
まだ糞蟲以外の虐待は良心が咎めるという半人前なのだ。
しかも賢い実装石を家で大切に飼ってしまっている。
他の虐待派のほとんどから白い目で見られているそうな。
不妊実装の性格のシステムに気がついた彼は悩みに悩んだ。
糞蟲状態の時に一思いに殺してしまえばいいのだが、痛覚を感知した瞬間に入れ替わってしまうのであれば、
死ぬときの恐怖は元の賢い不妊実装が引き受けることになる。
それは避けたい。
だがこいつは始末しないと行けない。
他の虐待派は自分の頼みは聞いてくれないだろうし、愛護派に知り合いなど当然いない。

『だからお前に頼んだんだよ〜。虐待派じゃ無いけど実装虐待に抵抗無くて、実装石に対して深い思い入れが無い
 お前ならこいつを速やかに処分出来るんじゃないかと思ってさぁ』





・・話は以上だった。
ようするにあの糞実格は信じられない話だが、産まれる前に体内で消化されて死んだ不妊実装の子供だという。
医者によると実格が入れ替わってる間は、遺伝子情報すら切り替わってしまってるらしい。
人間の感覚でまともに考えることなんか出来ない、あまりにでたらめな身体・精神構造。
話は興味深かった。だけど

「・・やっぱり何も変わらないか・・」

別に役に立ちそうじゃなかった。
何より友人はこの実装石を医者に見せてまで調べたのだ。
僕が彼に教えられることなんてきっともう無いだろう。
となると処分しなければならない。
すみやかに元の実格を苦しませず、というのが彼の希望だ。

「でもさ・・・」

水槽を蹴り飛ばす。
衝撃で倒れ、その蓋が開いた。
中から文字通り転がるように出てきた実装石。
僕を見上げ、溜めた涙を零さないように必死だ。
土下座のようなポーズをとって何度も何度も頭を下げる。

「僕には関係無いんだって」

その前髪を引っつかみ、空いた手でサンドバックのように殴りつける。

「デグ!ギャボ!デベ!ジュバ!デジュ!・・・・・」

みるみるうちに腫れ上がる実装石の顔。
一度止めて見てみれば、緑の目が神経らしき物ごとダラリと垂れ下がっていた。
躊躇なくそれを潰す。

「デビィ?!」
「お前がどんな経緯で生まれてこようが」
「デボォ!!!!」

今度は顔では無く腹部を殴りつける。
殴る度に前後に振られる実装石。
こちらに戻ってくる際に一発一発殴るという、いわば一人カウンターパンチ状態。
やがて僕の拳に血がつき始めた。
腹の肉を少し貫いてしまったようだ。

「どんな環境で育ってきたのか」
「デグボェ!」

貫き手のような形の手をその腹に叩き込む。
実装石の向こう側に見事指が5本見える。

「どんな性格の個体なのか」
「デビャァァ・・・・!!!」

掴んでいる間にほとんど抜け落ちた前髪の代わりに後頭部をグっと握る。
頭部を潰されるほどの握力に力の限り泣き叫ぶ実装石。

「僕には全く関係が無い」
「デェ・・・・デスゥ・・・・」

もう痛みをあまり感じなくなっているのか、実装石が虚ろな視線を僕に向ける。
抵抗する気は無いようだ。
というより、終始こいつは抵抗らしい抵抗をしなかった。
痛みで手足はバタつかせることはあったが、それだけだ。
だがそれも

「関係ない」

いつも思っている一言。
友人には言えない一言を無機物に話しかけるような顔で言い放つ。

「だってお前らは実装石だろ」

実装石はまだ死なない。
偽石はヒビが入ると確かに耳に届くほどの音が響くというが、何も聞こえてこない。
ここまで痛めつけてるのに。

「賢かろうが、馬鹿だろうが、良かろうが、悪かろうが、愛情があろうが、何だろうが」

単純に不快だ。
いつもは本気で殴りつければどんなに強固なヤツでも三発で死にいたるのに。
この脆弱な生き物がここまでしぶとい事に、僕は強い不快感を覚えていた。
単純に焼けばいい、潰せばいいって?
ここまでやっておいて今更そんなせこい手段に頼れるもんか。

「実装石だってことに変わりはない」

それは僕がこの不快感を催す生き物に屈するって事だ。
そんなものに頼らないとこんな弱い動物一匹殺せないって事だ。
僕の自尊心はそれを許さない。
不快だ。
不快だ不快だ不快だ。

「不愉快なんだよ!!!!」

後頭部の肉を丸ごと千切りとる。
実装石は悲鳴を上げなかった。
糞も漏らしていなかった。
涙を流してもいなかった。
なんとなく笑っていたような気がした。
地面に落ちたとき、微かだが確かにこの耳に固い物が割れる音が聞こえた・・・気がした。

「はぁ・・はぁ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

僕は実装石の残骸を見下ろす。
死んだ・・殺した。
口の両端が吊り上がる。
不快感が消えた。
爽快な気分だ。
しかし、その晴れやかな気分も一瞬だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デ・・・・・・・・・・・・・」
「!!!!!」

なんと足元でもぞもぞと動き回っているのは死んだはずの実装石だった。
驚異的な回復力で後頭部と腹部の傷の修復を完了している。

「デジャアーーーーーーーー!!!!」

俺を見上げて、つい数秒前まで瀕死だったにも関わらず威嚇するような声を上げてきた。
無言でその腹を踏み潰す。
臓器と糞と血液が総排泄口から飛び出した。

「デグァァァァァアエエエッァァァェエエエエ?!?!?!?!」

・・悲鳴は消えなかった。
長い長い、汚い汚い悲鳴が室内の隅々まで響き渡る。
不快極まりない音とともに糞が勢いよく噴出する。
血涙と涎、汗を節操なく排出しながら耳障りな悲鳴が轟く。
いくら待っても涙を溜めて怯えることは無かった。
そうか、死んだんだな。「特別」な方は。
爽快感も不快感も消えた。

「デギュアアァァァァァァァアアアア!!!?ブジャァァァァァアアアア!!!!!・・・・」

そうとわかればもう僕にすべき事は無い。
こいつは友人の大好きな、曰く糞蟲になったのだ。
おそらく偽石の異常な強度の正体、あれはこいつの作用では無い。
あの消えた不妊実装が我が子=自分であることを知っていたがために、己を強くもった結果だろう。
それも全て徒労に終わった。
その事情は僕にとって関係なかったから。
水槽に「ただの」実装石を放り込み、いつものように蓋をして重石を乗せる。

「23時・・か」

躊躇うことなく昼のように電話をかける。
おそらく暇を持て余していただろう相手は案の定1コールで反応した。

『よぅ「」〜〜!なんだか最近は電話が多くて嬉しいね〜!柄にも無く友情とか感じちゃうわ〜』
「うるさい。お前が余計な物押し付けてくるから用件が増えたんだよ」
『まぁそう言うなってぇ!で、今度は何よ?』
「返す」
『・・・?』

簡潔に言い過ぎたようだ。

「返すって言ったんだ。あの実装石」
『え〜!ちょっと待てよ〜、処分してくれるんじゃなかったのかよ〜?』
「お前にとって不都合な方はもういないから安心しろ」
『あ?・・それって・・』
「死んだよ。「片方」だけ」
『・・そっか〜、死んだか。それにしても片方だけってよく出来たなぁ。やっぱお前に任せてよかったぜ!』
「だから早くとりに来いよ」
『・・・・あ〜わかったって〜!今から行くから待ってろーーーーーガチャ』

・・相変わらず騒がしいヤツだ。夜は特にうるさい。
まぁすぐに取りに来るって言ってるしな。
座り込むと、水槽の壁に醜い顔を貼り付けて叫んでいるだろう実装石が見える。
試しに蓋を開けて一発平手打ちをかましてみる。

「デブァ?!デジュァァァァアアアア!!!!!」

糞と血を撒き散らして吹っ飛ぶ実装石。
叩かれた頬を押さえて怒りの抗議をしてくる。
・・確認は済んだ。
僕は蓋を戻して重石を乗せる。
後はTVでもつけて待ってよう。
ニュースではどこぞの整形外科医が新種の実装石を生み出しただのとくだらない特集をやっていた。



ピンポー「おぃ〜っす!来たぞー!」

ドアホンが鳴り終わる前に勝手にずかずかと入ってきたようだ。
鍵かけるの忘れてるとは迂闊だったな・・。
僕は早速実装石の入った水槽を手渡そうとするが、友人が待ったをかける。
怪訝な顔をすると、友人は座布団に座りなおして・・尋ねてきた。

「なぁ、どうやって「片方」だけを消したのか教えてくれないか?」
「・・なんで?」
「ん〜いいじゃんいいじゃん!一虐待師として新しい知識を得たいんだってば〜」
「・・・・・」

いつになくハイテンションな友人だが、それがどうもわざとらしく見えてしまう。
・・気のせいだな。
断ってもどうせ話すまで食い下がってくるのが目に見えているため、僕はこうなるまでの経緯を渋々ながら語ることにした。





「・・・と、これで終わりだ」
「・・・・・」

話を終えると友人は笑っていた。
だがその笑顔はいつもの軽い笑顔ではなく、あの時限定の仮面。

「・・・おい?」
「・・はは・・」

その顔でついには堪えられなくなったように声を上げて笑い始める友人。

「・・?」
「ははは、やっぱりだ!」
「うわ?!」

突然大声を上げて腰を上げるので驚いた。
しかしそんな僕には一向に構わず、友人は僕に手を差伸べてきた。

「ようこそ!」
「・・・・?」

僕は最初は何のことかわからなかった。
友人は依然としてあの空恐ろしい笑顔を向けながら手を差し伸べている。

「お前はやっぱりこっちの人間だったな!」
「・・こっち・・?」
「気づいてなかっただろ?」
「・・何に?」
「今の話してる最中、自分がずっと笑ってた事に」

僕は固まる。
なんだって?
笑ってたって僕がか?
どうして虐待派でも無い僕がそんなくだらない事で笑わなきゃいけない?
たかだか実装石を殺すだけ、いつもやってきた事じゃないか。
そんな今更・・・まさか・・

「まさか・・今までも・・・」
「そ、お前ずっと笑ってたぜ?学校で虐待の話する時も。一緒に虐殺してる時も。でもお前いつも否定するからさ、
 ちょいと意地悪してみたくなったわけよ♪」

は・・はは、そうか。
僕は変わらなかったのか。
こいつら虐待師と同じ、この生ゴミを壊して喜ぶ連中と変わらない。
ただ自分の安い自尊心がそれを否定していただけ。
虐待という、自分の周りにありふれてしまった行為に反発していただけなんだ。
僕は、彼と同じだ。
しかし、そう思ったの矢先・・

「こいつ、お前にやるよ。どうせもうただの糞蟲だしな〜〜」
「・・え?」
「その方が楽だし・・いやいや、お前も楽しいだろ?虐待派なんだから♪あーゆー賢いヤツよりもよっぽどいいぜ?
 糞蟲虐待はさ〜!」
「・・・」
「じゃーな〜!早く帰ってうちのカワイイ子達に飯作ってやんねーといけないんだわー!」

呆然とする僕の前から、普段通り彼は帰っていった。
何?カワイイ子達って実装石の事だろ・・?
お前は僕と変わらない、同じなんじゃなかったのか?
僕は無意識に脱力した顔を暴れ続けている実装石に向ける。
水槽越しからでもわかるその敵意。
僕は中腰のままふらふらと水槽に近づき、重石をどけて蓋を外す。

「デジャアァァァァアァァァァデビュ・・・・・・・・パキン」

中を覗くこともなく拳を水槽内に叩きつける。
赤と緑と茶色の混じった暗色の飛沫が眼下を舞った。
僕はもうピクリともしない生ゴミを見下ろす。

「・・・つまらない・・」

不快・・じゃなかった。
なんの不快感も無かった。
その代わりに快感も無かった。
手が汚れた事も、悪臭で部屋が埋め尽くされたことも、汚い悲鳴が耳に入ってきた事も。
数時間前の出来事に比べれば全てがつまらなかった。

「・・・そうか!」

自分の勘の良さに自画自賛したいくらいだ。
僕はこんな糞のような、生ゴミと等価値の「ただの」実装石では満足できないんだ!
「特別」な実装石じゃないといけない!
でも簡単に見つかるわけでは無いということは友人と長い間虐殺を行ってきた自分も良くわかって・・・

「・・・・・・・・・・・・・・あるじゃないか・・近くに」

そうだよ。
彼の家にはあるじゃないか。
「特別」が・・二つも!
僕は笑った。
声を上げて久しぶりに笑った。
そして叫んだ。

「ありがとう!今日は最高の日だ!!君の家で祝おう!!」

僕は靴も履かず、寝巻きのまま家を出て・・走った。
「変わらない」毎日は終わる。
僕の毎日も、彼の毎日も。








『本日未明、○○県××市△△原のアパートで、住人のペットである実装石二匹が誘拐されました。 
 飼い主である被害者の男性は激しく取り乱しており、警察側は男性が落ち着き次第、詳しい事情を
 聞いて調査に乗り出す予定です・・』










「・・これで彼も、僕と同じだ・・」



























「「デギャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・・・・・・」」











-終-

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1 Re: Name:匿名石 2023/09/28-22:35:43 No:00008046[申告]
無所属とかどうみてもこの男は虐待派だろ・・・余計に質がわるい
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