タイトル:【観】 ある民家の庭先
ファイル:ヤケクソ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5153 レス数:0
初投稿日時:2008/07/27-15:05:43修正日時:2008/07/27-15:05:43
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「ここが約束の地デスゥ」
 人気のない人家の庭に、たたずむ影が三つ。
「ようやくたどり着いたのテスね、オカアサマ」
 中くらいの影が一番でかい影に語りかけます。
「そうデス、イトシイ仔。ここがゆーふぉりあデスゥ」
 でかい影は中くらいの影を抱き寄せながら言いました。
「ウレシイテッチュ、すごいテチュ! ママ!」
 それに飛びついたのは一番小さい影。
 でかい影はそれを抱きとめながら、かみしめるように、言いました。
「ここで、家族みんなでシアワセに暮らすデス……」

その実装石親仔はついていませんでした。
公園を追い出されたのです。
公園以外に生きる場所を知らないバカな実装石ならすぐに死んでいたでしょう。。
しかし、この親仔の母実装は賢い実装石でした。
ゴミ捨て場に餌を漁りに行く道中、だれも住んでいなさそうな空家を見つけていたのです。
しかも、人の出入りはないのに水道は活きているという不思議な空家。
母実装は何かあったらここに逃げ込もう、と考えていたのでした。

母実装が率先して荒れ果てた庭の一角を整地し、持って来た折畳式ハウスを広げて設置します。
バカな実装石ですね。庭先で段ボールハウスを広げられて黙っている人間がいるわけがありません。

「デププ」

ああそうそう、この家には人が居ないのでしたね(実装的には)。
生垣で道路からもある程度遮蔽されているこの庭でなら、実装親仔が何してても大丈夫なんですねぇ。

家を構えて一段落すると、母実装は庭にあった水道の蛇口を捻ります。
一仕事終えた後の風呂としゃれ込むつもりでした。
「デ?」
蛇口を捻ったのに、水が出てきません。
おかしいですね、三日前までは普通に水が出ていたのに。

水が出ないので諦めて段ボールハウスで寝ることにした3匹。
不思議に思いましたがそこは楽観主義の実装石。
明日辺りには水道から水が出る、と踏んで今日はもう休むことにしたのでした。

翌朝。
まだ夜も明けきらないうちに実装石は目を覚まします。
ぱちぱちと何かが爆ぜる音とともに、なんだか懐かしくも変な臭いが段ボールハウスに漂ってきました。
3匹は起き上がり、なにごとかと段ボールハウスのドアを開きました。

ドアを開けた途端、懐かしいような変な臭いは、凶器となって3匹に襲い掛かりました。

脳天に突き抜けるその悪臭。
野良実装ですら悶絶する不快な汚臭。

のた打ち回る3匹のうち、もっとも抵抗力の弱い仔実装ちゃんは、いまわの際にあるものを見ます。
こちらに背を向けて蹲っているニンゲンさんと……
その後ろに無造作に立ててあるペットボトルでした。

「メッコール!!!!!」
 仔実装ちゃんは絶叫し、舌を吐き出して絶命してしまいました。
 かわいそうな仔実装ちゃん。
ですが凶器の正体を知らずに死ねたのはシアワセだったのかもしれません。

先に段ボールハウスから脱出できた中実装石は、蹲っていたニンゲンさんの手元を覗くことが出来ました。
ニンゲンさんは、庭に穴を掘って、そこで焚き火をしているようです。
ときおり木の枝で火の中をほじくり返すたびに、凶器のように脳髄に響くあの臭いが倍化します。
中実装石は激痛に身を悶えさせながら、その木の枝の先に付着したあるものを見てしまいました。
「ニ、ニンゲンさんッ!!
 それは燃やすものじゃないテシュゥウウウウウウウ!!!!」
 かわいそうな中実装石。
 実装石のくせに中途半端に常識的だったものですから、衝撃に耐えられなかったのですね。
 まあ普通庭でウンコを焼く人間なんて居ないから、それが正常なのでしょうが。

一人生き残った母実装には知るよりもありませんでしたが、この家には人が住んでいたのです。
ひとりヒキコモリ、というかなりハイレヴェルなニンゲンさんでした。
ハイレヴェルとはいえ、ヒキコモリさんにろくな収入のあてもなく。
電気ガスはとうの昔に止められ、ついに二日前、水道まで止められてしまったのでした。
けど出るものは出るのですから処分しなくてはなりません。
ニンゲンさんはふと思い立ち、庭でそれを処分しようと決めたのでした。

正気を取り戻しかけた母実装は、内臓を焼かれるような吐き気と、猛烈な渇きに襲われました。
公園脱出からこっち、ほとんど何も食べずに何も入っていない
胃袋から吐き出した胃液が、喉を焼いたためです。
母実装はニンゲンさんのペットボトルを貰おうと、そちらにフラフラと近寄ります。
しかし、無情なるかなニンゲンさん。
そのペットボトルを掴み上げると、中身をとぽとぽと、燃え残る焚き火へとかけてしまったのです。

あともう少しで手が届いたはずのペットボトル。
あともう少しで喉を潤したはずだった清涼飲料水。

母実装は、絶望に声にならない悲鳴をあげて息絶えました。
しかし母実装はシアワセだったのです。

「うわ、くっせ」

ニンゲンさんがウンチの焚き火の上に撒いたのは尿ペット。
臭いに特別鈍感になっていたニンゲンさんですら鼻を摘むほどの異臭が発生したのです。
この臭いをかがずに死ねた母実装はどれだけシアワセだったことでしょう?
近所のニンゲンさんはこの異臭にすわ毒ガスか、と騒然となり、警察まで出動したのですから。
ウンチ焚き火で尿ペットなニンゲンさんはその後警察に保護されましたが、
ウンチ焚き火の最初の犠牲者となった実装石たちの亡骸は、今もあの庭に放置されています。

どっとはらい。

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