-------------公園の夜------------ 間もなく日付も変わろうかという時間。 一人の男が公園の前をフラフラと歩いていた。 『うえ〜っぷ。気持ち悪りぃ・・・』 フェンスに手を掛け側溝に嘔吐する。 『係長のヤツ、無理矢理飲ませやがって・・・』 野良実装に餌を与えた事に舌打ちしながら顔を上げる。 『ん・・・?』 フェンス越しに公園の中に視線を漂わせる。 無い・・・。 公園とセットのように設置されているダンボールハウスが無い。 フラフラと公園の中に入る。 ハウス、実装石の糞、実装石が持ち込んだゴミ、そして実装石達。 実装石のいた痕跡が跡形もなく消えていた。 『ああ・・・そうか・・・』 男は回覧板を思い出していた。今日は一斉駆除が行われたはずだ。 尤も一週間もすれば、どこからともなく新しい「住人」がやって来る。 男の「遊び」もそれまでおあずけである。 『コイツは丁度良い。少し休もう』 水道でうがいをすると、近くのベンチに腰掛けた。 過度に摂取したアルコールが眠気を誘う。 「・・・デスデス・・・」 「デ・・ス」 「テッチューン・・」 「レフレ・・」 「・・・レチ?」 「テチー・・・」 『うるせぇぞ!このクソムシど・・・も・・・?』 男は目を覚まし、声の主に怒鳴る。 しかし、目の前には何もいない。 『酔ってんなぁ・・・』 鞄を枕にベンチに横になる。 家までは遠くないが、歩くのが酷く億劫だった。 今の時期、雨でも降らなければ風邪の心配もない。 「・・・チ」 「デス・・・!」 「デププ・・・」 「レチレチー」 「・・・デェ・・・」 「レフェェン・・・」 「デシャァァ・・・」 「テチテチ・・・」 「デッギャァァァ・・・」 「テェェェン・・・テェェェェン・・・」 「・・・デーデーデー・・・」 「テッ・・・テレー・・・レビ・・・ッ」 ぼそぼそと決して大きい声ではないが数は増えている。 駆除されたばかりの公園で何故・・・考えるのも面倒だった。 『待ってろ。明日たっぷり遊んでやる・・・』 意識が遠のいていく. チュン・・・チュン・・・ 『う・・・』 男がムクリと起き上がる。近くにいた雀が数羽飛び立った。 周りはもうすっかり明るかった。時計を見ると午前5時 痛む頭を抑えながら自販機まで歩く。 スポーツドリンクを飲み干すと頭がすっきりした。 園内を見渡す。 『アイツら・・・どこ行った・・・?』 昨夜の雑音の主を探す。そこには蛆実装1匹いなかった。 『まァいいか・・・寝なおそう』 今日から盆休みだ。 男は鞄を持つと家に向かう。 ふと昔、父に聞いた話を思い出す。 『墓地で寝るとなァ、ザワザワ声がしてうるさいんだよなァ』 男は空を見上げる。 『・・・まさかな・・・クソムシごときにそんな芸当が・・・』 新しい「住人」になろうとしていた親仔を蹴飛ばし、路上のシミに変えた。 ここはどこにでもある公園。 数多の野良実装石が産まれては死んでいく場所。 ---おわり--- ※作中の父親の話は、作者の父から聞いたものです。 ちなみに神社の境内で寝ると、ものすごく静かだそうです。 (何やってんだか・・・) 今、その父はざわめきの一人になっている事でしょう。