タイトル:【駆除虐待】 帰って来た『先生』
ファイル:ハッピーデス.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5268 レス数:0
初投稿日時:2008/07/17-02:35:59修正日時:2008/07/17-02:35:59
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「デッデロゲー…デッデロゲー…」

2007年12月X日・自治体指定『実装ゴミの日』・午前6時・双葉市・双葉中央緑地公園付近の住宅地・ある民家の庭先・気温は12月としては平均的

「デッデロゲー…デッデロゲー…ウーン、我ながら今日もスバラシイ美声デス。」
彼女の名は『マルガリータ』この家の飼実装である。

「デッデロゲー…デッデロゲー…」
彼女はその日も日課である発声練習をするために飼主宅の庭先へと現れていた。

「デッデロゲー…デッデロゲー…」
『マルガリータ』は唄う、下々の者に自分の声の素晴らしさを知らしめるため…。

「ふゥ…そろそろ終わりにするデスゥ」
彼女は練習を終え、家に上がろうとする。そろそろお腹も空いてきた…。

「それにしても気の利かんニンゲンどもデス。このワタシが歌ってやっているのにミツギモノ1つ持って来ないデス。」
こんな歌に支払われる対価とは何であろうか?『鉄拳?』『バールの様なもの?』『実装コロリ?』

「デデ?なんデスゥ?」
なんだろう?庭の隅から良い匂いがする。
「イイ匂いデス!ミ、ミツギモノデス?」
彼女はその匂いに釣られ、庭の隅へと姿を消した。


同日・午前6時・双葉中央緑地公園
「デッデロゲー…デッデロゲー…」
今日も『マルガリータ』の声が私の居る双葉中央緑地公園まで響いて来ます。早朝から響き渡る彼女の歌は、はっきり言って近所迷惑以外の何者でもありません。
実際飼主は彼女の歌声が元で何度も自治体から厳重な注意を受けています。
「おかしな事にならなければ良いがなぁ…」
あんな娘でも私の患者には変わりありません。実装石がその生涯を平穏の中で閉じるための近道は、人間と良好な関係を築く事であると私は考えます。
飼実装は言うに及ばず、野良実装においてもそれは言えるでしょう。

8月某日のある事件によって中央緑地の野良実装石は大きく数を減らしていましたが、8月末には逃亡していたと思われる3匹が帰還、さらに他からの移動,あるいは
遺棄により10月末には20匹に膨れ上がり、11月中旬には空間的余裕を感じた各個体が平均3匹の仔(保存食用蛆実装は除く)を産み、今では成体・仔あわせて
80匹という2007年6月に匹敵する大集落を形成しています。
公園の面積並びに緑地公園という隠れる場所の多い環境のため、20匹という親実装の数は目立った物に感じられず、自治体もまだ駆除計画を発表していません。
ですが60匹の仔実装は、親が健在という前提のもとで最低でも20匹は2008年5月に巣立ち、また20匹の親実装は5月末にまた60匹の仔を産みます。
そしてさらに2008年11月には目減り分を考えても2007年秋仔と前世代を合わせて30匹の成体実装,それの仔90匹,さらに2008年春仔(目減り分引いて)中実装40匹
合計160匹の大集落となります。この計算はそれほど大げさな物では有りません。それらがまともにゴミ漁り,託児,家宅侵入などを働けば、実装石の立場はさら
に悪化してしまうでしょう。

「さて…」
死骸を片付け、持ち主の居ないダンボールをたたみ終わる頃には『マルガリータ』の声も聞こえなくなっていました。
私は両手にゴミ袋を持って公園を後にします。時間が悪かったのか今日は食事中のダンボールが多く、中を見る度に威嚇され、運悪く投糞を喰らってしまいました。
途中立ち寄ったゴミステーションはまだ実装石にネットを剥がされて居ませんでした。ゴミと死骸を捨て…
「早く臭いを落とさないと…」
仕事に差し支える。私は探索を早々に打ち切り、自宅へと急ぎました。
そのせいで私は大変な見落としをしてしまったのです。


——同日・午前6時30分・双葉中央緑地公園・実装石親仔のダンボール——
寒い公園のダンボールの中、親実装が仔実装にその日の収穫を分け与えていた。
「ハグムグ…ムグムグ…」。
「オイシイテチュ…ステキテチュ…アマアマテッチュン♪」
一心不乱に『プリン』を頬張る仔実装達を穏やかな目で見守る母実装…。
「ユックリ食べるデス。これは『プリン』と言うものデス。メッタに食べれないゴチソウデス…」
そうしていると1匹の仔実装が半分ほどになったプリンを母の方に差し出した。
「どうしたデス?」
「もうお腹イッパイテチュ…ママに上げるテチュ。」
仔実装なりに自分に気を使っているのだろうか?母実装は仔実装に言った。
「ママはもう食べたデス。それはオマエの分デス。」

どう言った幸運であろうか?その朝母実装は家族全員分の『プリン』を手に入れることが出来た。

「ママの事はいいデス、ママもお腹イッパイデス。」
その内にもう1匹が、
「テチュゥ…お腹イッパイテチュウゥ…ママ、食べるテチュ♪」
とまた食べかけの『プリン』を差し出してきた。
いつもお腹を空かせていた仔実装達とは思えない言葉に母実装は戸惑った。
「分かったデス…でもママもお腹イッパイデス。それはオマエタチのバンゴハンにするデス。」
言い残して母実装は立ち上がった。
「ママァ?何処行くテチュ?」
普段なら朝食後の成体実装は、無駄なカロリー消費を抑えるために夕方のエサ漁りまでを寝て過ごす。
「『オクスリの草』を採って来るデス。良い仔で留守番してるデス。」
『オクスリの草』とは生垣の下草や公園の日陰に生えている『オオバコ』や『ドクダミ』の事だ。実装石の中にはそういった植物が体調不良を改善してくれる事を知っている物も居る。
仔実装達の食欲不振を、食べ慣れない物を食べたせいだと考えた母実装はそれを採るために出かけていった。

後には仔実装2匹が残された。
「ママ行っちゃったテチュ。」
「どうするテチュ?」
1匹が『プリン』を指差して言った。
「ホントにお腹イッパイテチュ。」
「お腹が空いたらまた食べるテチュ。」
仔実装達が話をしているとダンボールの隅の方から声が聞こえて来た。
「レフー・・・」「レフー・・・」
ダンボールの隅には上開きになった菓子箱があり、その中には2匹の蛆実装が居た。
「レフフン」「レフレフフン」
保存食兼仔実装のオモチャ用として飼われており、『家族』に数えられていないため普段から親仔の糞しか食べさせて貰っていない2匹は、甘い匂いを漂わせるその固まりに目をキラキラ輝かせていた。
仔実装2匹は顔を見合わせた。
「どうするテチュ?」
「少しだけ上げるテチュ」
仔実装達は自分の分から少しずつプリンを食べさせる。ところが蛆実装は『プリン』を2口程食べると突然仰向けになった。
「プニフー」「プニフー」
「蛆チャンもうお腹イッパイテチュ?」
「じゃあプニプニしてあげるテチュ」
「レピャッレピャッ」「レピャレピャッ」
蛆実装達はひとしきり糞を撒き散らすと、スヤスヤと眠りに就いた。


——同日・午後7時・某動物病院
この時期の動物病院ははっきり言って暇の一言に尽きます。
フィラリアの予防,狂犬病の予防注射は何ヶ月も先、おまけにこの寒さ、少々の体調不良では飼主も外に出たがりません。発情期を迎えた猫の避妊去勢を片付ければあとは診察終了までゆっくりと時間が流れて行きます。
人間暇になるとつい色々な事を考えてしまいます。例えばその朝の事を…
——何だろう?何を見逃している?
その日の朝、何故か殆どのダンボールは既に食事中でした。普段ならあの時間はまだエサ漁りの最中のはずです。
——そう言えば今朝はゴミ捨て場が荒されてなかったな…。
そうすると、今朝はゴミ捨て場以外からエサを調達したことになります。
——備蓄分の食糧で朝食を済ませたのか?全部の家族が?何故?
急に仔実装が増えたためどの親実装もエサの確保に難儀しています。余分の備蓄など殆どありませんでした。
——外に出たくないほど寒かった?いや、今日の気温は平均的だった…
以上の理由から『備蓄を食べた』説は否定されます。と言う事は一体何処でエサを調達したのでしょうか?



——同日・午後7時・双葉中央緑地公園・実装石親仔のダンボール——
「どうしたデス?食べないデス?」
ダンボールの中、母実装は困惑していた。2匹の仔実装が夕食を食べないと言うのだ。
「テチュゥ…ワタチお腹イッパイテチュゥ…」
「ワタチもテチュゥ…」
『プリン』の味を覚えてしまった為に夕食にも『プリン』を求めるといのなら話は分かる。しかし今日の夕食は今朝残した『プリン』そのものだった。
「ママ、プリンはママにあげるテチュ…」
そう言いながら『プリン』を差し出して来る我が仔の顔を見て母実装はギョッとした。仔実装達の顔は張りを失い、眼球も落ち窪んでいる。
「ママ…ワタチのもあげるテチュゥ…」
実際のところ母実装も腹が空いていない。一体どうしたことであろうか?そこに…
「プニフーッ!!プニフーッ!!」「プニフーーーッ!!プニフーーーーーーッ!!」
2匹の蛆実装が突然「プニプニ」を求めて叫び出す。その声には今までに無い鬼気迫る物があった。
「デデ?ドウシタデス??まだゴハンを食べさせてないデス?」
普通ならエサ(親仔の糞)を食べさせ、腹が満たされたらその次がプニプニのはず。
「オマエタチ、蛆チャンにプニプニしてやるデス。」
母実装に命じられた仔実装2匹は蛆実装の腹を撫でさする。
「蛆チャン、プニプニテチュ…」
「テチュチュ、気持ちイイテチュ?」
ところが…
「!!?ピイイッ!!?ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ」
蛆実装は目を大きく見開き、大声を上げて転げ回った。
「テ!!?蛆チャン!!」
「蛆チャンどうしたテチュ!?シッカリするテチュ!!?」
突然の事態に半泣きになった仔実装から、母実装に蛆実装が手渡された。
「お前達が力を入れ過ぎたデス、こんな風にヤサシク、ヤサシィク…」
母実装が蛆実装の腹に手を触れたその瞬間、
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」『パキン』
蛆実装は口を大きく開き、声も出せずに絶命した。ダンボールの中の空気が凍り付く。
「テェ…蛆チャァ…」
「蛆チャン!!蛆チャァン!!」
『死』を眼前に突きつけられた仔実装はパニックを起こして泣き叫ぶ。
「テェ…テェ…テエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン…テエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェン…」
実装石は精神的,肉体的苦痛を排泄の快感で緩和する習性がある。良く公園等で見られる、泣きながら走る仔実装が『パンツをこんもり』とさせている姿はその代表的な物だ。
仔実装達が排泄に逃避するために総排泄口を開き、大量の糞を垂れ流すべく激しく糞袋を蠕動させようとしたその瞬間、仔実装達に悪夢が襲い掛かる。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!イタイ!!イタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!」
突然2匹の仔実装が腹痛を訴えてその場に蹲った。
「オマエタチ!!シッカリするデス!!今オクスリの草をあげるデス。」
母実装の言葉は仔実装達には届かない。イタイイタイと転げ回るばかりだ。
「飲むデス!!オクスリデス!!」
母実装は何とか仔実装を捕まえると、無理矢理その口にオオバコの葉を押し込んだ。
それが薬である事を本能でかろうじて理解できた仔実装は必死にそれを喉の奥へと送ってゆく、しかし、
「ゲエエッ…」
飲み込むことが出来ない。まるで何かが食道を塞いでいるかのようだ。
見開いた両目から血涙を流し、涎鼻水で顔をドロドロにしながら転げ回る我が仔等を前に母実装は震えながら為す術も無く立ち尽くした。
「イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!」
——どうするデス??…どうすればいいデス??
「オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!オナカイタイ!!」
——タスケテデス??…だれか助けてデス??
「デエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン」
もがき苦しむ我が仔を見る事に耐えられなくなった母実装は泣きながらダンボールから飛び出して行った。

公園の中はまさに地獄であった。どのダンボールからも仔実装,蛆実装の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「誰かァ…ムスメを助けテェ…タスケテデスゥ…」
仔実装を両手で抱えてオロオロとするばかりの元飼実装がいるた。
「イダァイィッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!イダッ!!」
ついに成体実装の中にも腹痛を訴える物が現れた。
「ドウシテデス??ドウシテデス??」
パニックになりながらも腹の中にある違和感を本能的に感知していた母実装の足は公園の水飲み場へと向かっていた。腹の中の異物を洗い流してしまおうと言うのだ。

「イダァ…イィ」
「ダズゲデェ…オナガガァ…」
水飲み場の周辺には既に腹痛を訴える何匹もの実装石が蹲っていた。
「お水、お水を飲むデス!!」
母実装はそんな物には目もくれずに水道の蛇口に飛びつこうとする、ところが。
「飲んじゃダメデス!!」
足元に蹲っていた1匹の成体実装が母実装の足にしがみ付いた。
「飲んじゃダメ…ダメデス」
「エエイ!!ジャマするなデシャアアアッッ!!」
それを無理矢理振りほどいた母実装は蛇口を咥えて水道を空けた。口の中に大量の水が流れ込んで来る…ところが…。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
水を飲んだ途端に母実装の腹を激痛が襲った。口に含んだ水を噴水のように噴出し、涎,鼻水,血涙を撒き散らしながら転げ回る。
「デギイィィィィィィィィィィィイィィイイイイィイィイィイィィィィイィィイイイイィイィイィイィィィィイィィイイイイィイィイィイィィィィイィィイイイイィイィイィイィッッッッッ!!」
そして実装石の防衛本能が排泄への逃避を促し、糞袋を急激に蠕動させる。
【ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル】
全身を襲う激痛に母実装はのたうちまわる。
「デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!デギッ!!」
——ドウシテェ…!?ドウシテコンナ事にィ…。

母実装はその朝の事を思い出した。その朝エサ漁りにゴミ捨て場を訪れると、そこには『プリン』が山の様に積まれていた。
普段ならゴミにはネットが掛かっている物だが、『それ』はどういうわけかネットの外側にあった。
——運が良い日も有るものデス♪
良い物なら同属との取り合いになり怪我の1つも覚悟せねばいけない所だが、数が数だけに大きな諍いも起こらず、母実装は4個の『プリン』を手に入れる事に成功したのだ。

——きっとアレデスゥ…アレは罠だったデスゥ…ニンゲンがァ…ワタシタチを…ムスメたちをォ…ユルセナイィ…ユルセンデスゥ!!!
『ニンゲン』を呪う母実装の耳には、遠くから響き渡るサイレンの音は届かなかった。


2007年12月Y日・午前6時・双葉市・双葉中央緑地公園

昨日の違和感の原因を確かめるべく私は再び中央緑地公園を訪れていました。しかし公園の中には入る事が出来ません。
「何てことだ…」
公園の入り口は『KEEP OUT-立入禁止』と書かれた黄色いテープで塞がれ、その両脇には制服を着た警官が立っています。
聞けば、昨夜午後8時頃、公園中の実装石が大声で騒ぎ出したとの通報が警察に入り、現場に急行した警官がもがき苦しむ多数の実装石を確認。
8時15分に消防が災害出動し公園にコロリを噴霧、事態を鎮静化出来たのは午後9時30分の事だったそうです。
今は保健所の職員が死骸の回収をしているところです。
実装石の体は培地同然で、人間に感染するありとあらゆる細菌性疾患の病原巣となり得ます。そのため実装石の大量死が起こった公園は死因の特定と対処が済むまで閉鎖されるのが通例です。
ここに居ても埒が空きません。かといって公式発表を待っていられるほど気が長くもありません。
「さて」
保健所にあれを調査できるだけの設備は有りません。あの死骸の行き着く先は見当がつきます。私は携帯電話を取り出すと、ある『男』に連絡をとりました。


2007年12月Y日・午前10時・某動物病院

「先生、調査報告書持って来ましたよ、下書きの複写ですけど。」
「随分早いですね、まだ3時間しか経ってないですよ。セレブちゃんは元気ですか?」
「ええ、まだ生かしてますよ。本題に入りましょうか。」
彼は鞄を開けると紙の束を寄越しました。
「悪いですね、ドロボウの様な真似をさせて、で、死因は…」
「一応、微生物の連中に培養も頼んでますけどね、回収された成体,仔あわせて62匹全ての糞袋から『コレ』が出てきたから死因はまず『コレ』に間違い無いだろうって『教授』が…。病理の仕事はココまでですね。」
そう言って彼は私の前に1つのカップを置きました。
「まだこんな物が残ってたんですね…それもこんなにたくさん…」
私はカップを持ち上げて、それを彼に返しました。

『ハッピーデス』15年前に6ヶ月だけ販売された『殺実装剤』

『実装コロリ』の様に直接偽石を破壊しようとすれば、必ず『コロリ』の特許に抵触してしまうため、それを回避すべく全く別方向からのアプローチで開発された物です。
その本体は吸水樹脂です。実装石がこれを食べると唾液と混ざり合って強い粘性を持った固まりになり、胃の粘膜に固着します。そこで消化管内の水分を吸収しながら体積を増し胃を埋め尽くしてゆきます。
ここまでに約1時間、この時点での症状は満腹感,あるいは胃の膨満感などが挙げられます。
胃を埋め尽くした『ハッピーデス』は接触した粘膜から水分を奪いながらさらに膨張し、さらに前後の消化管へと広がって行きます。
個体差はありますが、ここまでが約10時間前後、症状は脱水とそれに伴う倦怠感,嚥下困難、あと樹脂で埋まった腸は蠕動する毎に激痛が走る様になります。

「あとは樹脂に水分を吸い尽くされて枯れて死ぬか、物が食えずに餓死するか、樹脂に気管と肺が押し潰されて窒息死するか、連続する激痛で偽石が割れるか…とにかくその残虐性は『実装コロリ』の比では有りません。」
…と言っても、コロリより嵩張るし、即効性は無いし、死ぬまでウルサイし…全く良い所の無い薬でした。

彼は『それ』を鞄にしまいながら
「で、どうして『ハッピーデス』なんて名前を付けたんですか?」
「腹一杯で死ねるんだから『ハッピー』だろうって…まぁ皮肉の様な物です、ちなみに『デス』は実装石の鳴き声と『death』とをかけていて…」
呆れ顔のまま彼は答えます。
「くだらない…、で食べてしまった場合はどうやって救助するんですか?」
「重い症状が出る前に胃を切開して樹脂を胃の粘膜ごと切り取れば助かりますがね。症状が出てしまってはどうにもなりません。激痛に長時間晒されてダメージを受けた偽石では大部分の腸管切除や、偽石の取り出しどころか
 麻酔にさえ耐えられないでしょう…。あ、そうなったら動物病院に連れて来ちゃダメですよ。車や歩行の振動でさえ地獄の苦しみになるんですから、連れて来る間に死んじゃいますよ…確実に。」


2007年12月Y日・午前10時・双葉タクシー102号車 車内

「運転手さん!!何してるのォッ!!急いでッ!!いそいデェッ!!」
中年の女性が後部座席からがなり立てる。その腕には1匹の実装石が抱かれている。
「『マルガリータ』ちゃんが死んじゃったらどうセキニンとってくれるのよォッ!!いそいデェッ!!」
『マルガリータ』の腹は大きく膨れ上がり、その皮膚はカラカラに乾いている。
「…ェ…………ェ…」

あの朝、発声練習を終えた『マルガリータ』は何者かが庭に投げ込んだ『ハッピーデス』を見つけ、それを食べてしまった。
『マルガリータ』は拾い喰いを咎められぬ様に、そのケースを、塀に空いた飾り穴から外へ捨てた。
さらに運悪く飼主家族はその日の夕方から翌朝まで親戚宅へ出かけることになっていたため、『マルガリータ』の夕食を用意するとそのまま出掛けてしまったのだ。
そして飼主の出発から2時間後、『マルガリータ』を悪夢が襲う。飼主宅が双葉中央緑地公園の直側にあったため『マルガリータ』の苦痛の叫びは昨夜の『騒動』に飲み込まれ、気付く者は一人も居ない。。
ケージの中で苦痛にのた打ち回り、苦し紛れに扉に噛み付いたせいで口も歯もボロボロ。そして暗い家の中、帰ってきた飼主が血みどろの『マルガリータ』を見付けたのは翌朝、午前9時30分の事であった。

「…ェ…………ェ…」
『ハッピーデス』が咽頭にまで迫っていた。もうじき呼吸も出来なくなるだろう。
——ヤクタタズのドレイメェ…許さん…ユルサンデシャアアァァ…。
水分を失い、涙も鼻水も涎も出せない。死体のようになった『マルガリータ』は飼主を睨みつける、飼主はその視線に気付いて優しく微笑む。
「大丈夫よ、もう直病院につくからねぇ…」
そういって飼主は『マルガリータ』の腹を優しく撫でてやった。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!………………」

車の振動も飼主の撫でさする手も、総てが激痛となって『マルガリータ』に襲い掛かる。
マルガリータは口を大きく開けたまま白目を剥き、そのまま動かなくなった。


—ハッピーデス—<完>
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毎度駄文にお付き合い頂き有難う御座います。

投下のペースがかなり遅れていて大変申し訳ありません。

過去スク
託児?①②③④⑤番外編①②
早朝
夏の蛆実装
遊びの時間は終わらない 前,中,後編
飼育用親指実装石 
死神絵師
破滅の足音
あんしんママ
命拾い
実装石のクリスマスイブ(執筆中)
糞除け
教育
帰って来た仔実装セレブ

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(オマケ)『先生』の独り言

2007年12月Z日
結局『マルガリータ』を助ける事は出来ませんでした。
何故『マルガリータ』の所に『ハッピーデス』が有ったのか?これは『事故』だったのか『事件』だったのか?今ではそれを知る事は出来ません。
ただもし『事件』だったとすれば、目的は何だったのか?あの周辺に『マルガリータ』に悪い印象を持っている人間は数え切れない程居ます。
もし『目的』が『マルガリータ』で有ったとすれば、公園の実装石達は『マルガリータ』から注意を反らすための『オトリ』として『ハッピーデス』を食べさせられたのでは…。
だとすれば公園の実装石達は『マルガリータ』のせいで殺された事になるのでしょうか…。

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