『実装回収』 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 我が家に町内会のゴミ当番が回ってきた。 んで、オカンの命令で俺が当番の仕事をするハメになった。 学校に行ったり行かなかったりのお気楽大学生、時間の都合はつくだろうと。 参ったな。今週は久しぶりに、きっちり一時限目から学校へ行こうと思ってたんだけど。 思っただけだけど。 さて、火曜日は生ゴミと「実装ゴミ」の日。 前日の夜に「仕込み」をした上で、目覚ましは朝の六時にセット。 でも危うく二度寝しかけて(無意識にアラームを止めたらしい)二十分遅れでゴミ捨て場へ向かう。 ま、この程度なら誤差の範囲だ。 ゴミ捨て場へ着いてみると……引っかかってる、引っかかってる♪ 周りに撒いておいた実装シビレに手を出した野良蟲仔蟲が十二、三匹ばかり、 「…デェェェェッ…」「…テヒィィィ…」「…テヂャァァァ…」 口から緑色の泡を吹きつつ痙攣しているじゃ、ありませんか♪ ゴミ捨て場の前に「金平糖らしきもの」があれば当然、ゴミを漁るより先に手を出すのが野良蟲の習性。 おかげで、生ゴミは荒らされずに済むというわけだ。 ゴミ当番持ち回りのトング(ピンセットの巨大版みたいな金属製の道具)で蟲を一匹ずつ、つまみ上げる。 そして自治体指定の緑色の「実装回収袋」へ、ポイッ♪ 身体が大きめでトングでは無理な成体蟲はゴム手袋をはめた手で抱えて、やっぱり袋へポイッ♪ 四十五リットルの袋に成体蟲は二〜三匹が目安だ。 それ以上、詰めると袋が重くなって回収業者さんが困るだろう。 生ゴミと実装ゴミの回収が同じ曜日なのは、こうして生ゴミ漁りに来た野良蟲をそのまま始末できるから。 地元の自治体も結構、市民のことを考えてくれてるんだね。感心じゃないか。 「——おはようございまーす」 「あっ、おはよーございまーっす」 ゴミを出しに来たご近所さんの奥さんと挨拶を交わす。 奥さんは自治体指定の白いゴミ袋と一緒に緑の袋も手にしている。 「託児やられたんですか?」 「いえ、庭に入り込んだのを捕まえたんです。全く油断も隙もないわ」 袋の中身は、まだ蠢いている。「…デズゥ…」と、みじめたらしい鳴き声が聞こえている。 この奥さんは以前、公園の野良蟲駆除のボランティアに参加したときは平気で仔蟲を踏み潰していた。 だから蟲に手を下す(息の根を止める)ことを嫌ったのではなく、生きたまま実装回収に出すのはワザとだ。 人間のテリトリーに侵入したことを後悔する時間をできるだけ長く与えてやろうという目論みだろう。 綺麗な奥さんなのに、なかなかサディストやね。 すでにゴミ捨て場に出してある回収袋も、まだ中の蟲の息がありそうなものが結構ある。 「…テェェェン、テェェェン…」「…レフー…」「…テヂャァァァッ…!!」 我が身の不幸を嘆く蟲、理不尽な(実装主観で)仕打ちに憤慨する蟲、態度は様々だが迎える運命は一緒だ。 袋ごと回収車に投げ込まれて処分場行き。 ちなみに野良蟲の中には生ゴミにも罠のシビレにも眼もくれず、回収袋の中の同属を狙うモノもいる。 しかし回収袋は結構丈夫な素材でできていて、非力な蟲には引き裂いたり噛みちぎったりは不可能だ。 「…デェッ!! …デェッ!!」 それでもあきらめきれないのか、きゅっきゅと指のないウレタンハンドで袋をこすっている野良蟲が一匹。 そうすれば袋が裂けると思ってるのか。 アホだな。ゴミ当番のニンゲンさんが、もうオマエの後ろに来ているデスよ? とりあえずトングで頭をぶっ叩き、ひるんだところを捕まえて回収袋へ放り込み、袋の口をきつく縛る。 死なせはしないし気絶もさせない。 最後まで意識のあるまま実装回収の恐怖を味わってもらおうじゃねえの。 なーんて、サドだな俺も。 野良蟲を一通り、片付けたあとは、ゴミ袋の山にカラス対策用のネットをかけ直して当番の仕事、終了。 ゴミ回収車と実装回収車が来るのが、およそ九時前後。 それまでの間に、まだ生ゴミや実装ゴミを出す家庭もある筈だが、それは各自の責任で。 でも、うちの町内会は意識が高い。 ゴミを出したらネットをかぶせるとか、実装回収袋は口をきっちり縛るとか基本ルールは守ってくれる筈。 うん、大丈夫だろう、きっと。 さてそれでは、朝も早かったし家に帰って、もうひと寝入りするか。 ……大学の授業? うーんっと、きょうは午後から行くかな? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 【終わり】