ババアの飼い実装3 「デス… 間引きは終わりましたデス」 長老石と取り巻きの成体がコンビニ袋に入れた仔実装達を持ってきた。 獣装石は不満そうだが、文句は言わなかった。 獣(これも群れの為なんデスね… 悲しいデス) 「さぁ、早く公園を去るデスよ… ここに留まっていても何も変わらないデス」 長老石達に全部の仔袋を渡された獣装石はそれを受け取る。 デスクーターをひっくり返すだけの力があるのであまり苦ではないようだ。 「残した仔達にはすまないデスがしょうがないデス… ゆるして欲しいデス。 せめてこの仔達だけは絶対に守りぬくデスゥ…」 ・ ・ ・ 獣装石を先頭に群れは公園の出口へと向かっていた。 仔を全匹運んでいるとはいえ、やはり獣装石の方が俊敏でどんどんと前の方へ進んでいた。 他の成体達がデェデェと走っているうちにその差は広まり、ついには成体達からは獣装石が見えなくなった。 そしてしばらくすると突然前の方から雄たけびが聞こえてきた。 「デェェェェーーーッスゥゥゥーーーーー!!!!」 前方から獣装石が凄まじい形相で迫ってくる。 あまりの剣幕に成体達は怯んでしまったが、すぐに何か言っていることがわかった。 「デシャァァァァァ!! またあいつらが来たデスゥゥゥゥ!! 早く逃げるデスゥゥゥゥ!!」 この群れの渡りはタイミングが悪かった。 実は公園の出入り口は一つしかなく、まさに実装(による)実装駆除隊と鉢合わせの形となっていたのだ。 獣装石には戦う覚悟はあった。 しかし今の自分は仔を抱える身であり、後ろにはまだ迫る駆除隊の事を知らない仲間達がいる。 獣装石はこみ上げて来る闘争心を抑えて逃げにでたのであった。 「デ、デ、デギャァァァァァァ!! み、見えたデスーーー!!」 先頭を走るデスゥサス、その後ろに続く無数の実装車。 軽い人海戦術を執る駆除隊は後ろにいる成体達にも見える距離まで近づいてきた。 「デスゥ!」 獣装石は仲間に危機を伝えるとすぐさま横の雑木林(大きな公園です)に逃げ込んだ。 だが道の横幅はかなり長く、足の速い獣装石だから逃げ込めたものの、 他の成体達では逃げ切れるものではなかった。 その場にへたり込みパンコンする者。 トテトテとノロマな足で横に逃げる者。 後ろに逃げようとする者。 無謀にもデスゥサスに媚びる者、威嚇する者。 が、これらはどれも無駄である。 その場に止まっているものは言うまでも無く、 横に逃げた者も後ろに逃げた者もすぐに実装車に追いつかれ轢き殺されるのがオチである。 「デェェッス! 私は味方デス! 協力できるデス! 役に立つデス!」 しかしすべての成体が退路を失ったわけでは無かった。 実装車の死角は真横。直角に曲がり敵を轢き殺すことはできない。 それを読んでななめ横の前方に逃げた実装がいた。 「私はここの長老デスー! 他の奴らがどこにいるか知ってるデスー! お役に立てるデスー!!」 ・ ・ ・ ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 「ど、どうしてデスゥ… なんであいつらに媚びるデス…」 獣装石は驚いていた。 群れのためにと色々と智恵を貸し、自分に助言してくれた長老石。 今回の渡りを計画し、群れの存続を願っていたはずの長老石。 そんな長老石がなぜ駆除隊に媚びているのか… それも仲間を売ろうとしている。 林の影で獣装石はその様子を伺っていた。 ・ ・ ・ 「デェェッスから!! 私はここの長老なんデス! この公園のエキスパート! 貴方達の案内役に相応しいんデス!!」 普段は物静かに「〜デス…」と言っている長老が喚いていた。 周りをハンマーを持った作業石に囲まれ手も足も出なくなっていたのだ。 「デスゥゥン? こいつ本当に長老デスかね?」 「デス〜、よく見るとこいつ大きいし、野良にしては小奇麗デス」 「でも別に案内役なんていらないんじゃないデスか?」 作業石は長老石の対処に困っていた。 このまま駆除するか利用するか。 「デププ… こいつが長老なら話をさせてやってもいいデス」 デスゥサスの窓を少し開け、リーダー格のピンクが長老に話を聞いた。 獣装石と公園の残党についての事だった。 「デスデス! あのケダモノは大馬鹿者デス! ここの公園は元々私のものだったデス! だけどあいつがやって来て私のテリトリーを奪いやがったんデス! 奴は糞ニンゲンに媚を売ろうと公園で野菜なんて作ったり、群れの教育なんてものをしていたデス! デププ… あいつは糞ニンゲンに好かれるように色々細工してたデスがこのありさまデス。因果応報自業自得デス! そんでケダモノはこの前貴方達に襲われて今回の渡りを提案したデス。 そして酷い事に自分に懐いた仔だけを連れて行って、他の仔は見捨てて公園に残していこうとしたデス。 この公園にはさっき轢き殺された糞蟲と私とケダモノ以外に成体はいないデス。 あとは主のいないダンボールハウスに残された仔蟲だけデス。 私はどこにどれだけの仔蟲がいるか知ってるデスよ! きっと役に立つデス!!」 長老石はヒートアップ気味に公園の情報を駆除隊に伝えた。 自分が縄張りを奪われた可哀想な実装であること、獣装石がいかに外道であるか。 そして自分がどれだけ役に立つのかを。 「デププ… ペラペラとよく喋る蟲デス。 さすがに長老だけあって賢いようデスね。良いデス。 お前に作業石の地位を授けてやるデス」 「デ、デスゥ!? あ、ありごとうございますデスゥゥ!!」 長老石は駆除隊から作業石用の青いスーツとデスクーターを貰った。 駆除隊は只の虐殺部隊ではない。 賢い実装石がニンゲンのために働く、世のため人のため社会のため、環境のための組織である。 わざわざ大部隊を率いているのは、野良蟲の捕獲と、現地での商用・駆除の選別を行うため。 また、最大の特徴は愛玩用ペットでは無いために仕事さえできればマナーは必要ないこと。 そのため有能そうな実装はブリーダーから躾を受けていない野良であってもメンバーに加えてもらえるのだ。 「デスゥー! デスクーターカッコイイデス! 作業服ピカピカデスー!」 すでに公園で悟りを開いたような地位だった長老石も、野良とは桁違いの待遇にキャッキャと喜んでいる。 所詮実装石の世界感などこの程度のものなのだ。 ・ ・ ・ ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 「た、大変デス! 長老が糞蟲だったなんてデスゥ!!」 長老石のやりとりを見ていた獣装石は天地がひっくり返ったような気持ちだった。 しかし、すぐに残した仔達のことを思い出した。 「あんな糞蟲の間引きなんて間違いだらけのはずデス! 待ってるデス! 今助けに行くデスー!!」 獣装石はスルスルと高い木に登ると、 手に持った仔入りのコンビニ袋を枝に引っ掛けた。 「ここならあいつらも来れないはずデスゥ! おとなしく待っているデスよ!」 獣装石は天狗のように木々の上を飛び進み、広場の方へと向かった。 ・ ・ ・ 実装車の隊列は公園の広場へと向かっていた。 この公園は広場から道が八方向に広がっており、そこから仔実装のいるハウスへと向かうことが出来るのだった。 「糞蟲は蛆ちゃん一匹残さず駆除するのが基本デス。そうしないとすぐに繁殖して振り出しに戻ってしまうのデス」 デスクーターで駆ける作業石の一匹が誰に言うでもなく呟いた。 独り言は実装石にとっては日常茶飯事である。 「ここから先は一歩も通さんデシャァァァァァァァ!!」 隊列が広場の前まで来たところで獣装石が飛び出してきた。 しかし、デスゥサスは巧みなハンドルさばきで、なんとか獣装石を避けた。 「デップップ! 今はお前の相手は出来ないデス! あとでたっぷりとあのお方に遊んで貰うがいいデス!!」 隊列は獣装石は無視してそれぞれの行くべき道に向かった。 長老石からの情報でどこにどれだけの仔実装がいるかが分かったため、作業石毎に仕事場所が振り分けられたのだった。 「デデ! あいつら分散したデス! これじゃあ仔達を助けられないデスゥ!!」 焦った獣装石は地団駄を踏んでしまった。 (デスゥ…! このままではみんな殺されてしまうデス! だけどどうしたらいいデス!? みんな大事な仔デス! 選べないデス!) そんな獣装石であったが、ふと死に際の母の遺言が脳裏をよぎった。 『逃げるデスゥ! せめてお前だけでも生き残ってくれれば! 一匹でも生きていれば、 また暖かい家族が作れるんデス! 逃げるデスーーー!! …… (デゲ! ま、待つデス、食べちゃ嫌デス!あっちのケダモノの仔の方がワタシより…!!)』 「デググググ… 仕方ないデス! 仔が沢山いる方へ向かうデス!!」 母の遺言は、最後の方はよく聞こえなかったが、大事な部分はしっかり覚えていた。 そして獣装石は仔を助けに向かった。 ・ ・ ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 「デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪ 可愛い可愛い子供達〜、一緒にお歌を唄いましょ〜♪ 一緒に仲良く踊りましょ〜♪」 禿裸で額に"下人"と焼印を押された数匹の実装が歌を唄っていた。 すると茂みに隠れた穴の中から仔実装が出てきた。 「テチュ? ママーーー! 戻ってきてくれたんテチュねー!!」 「テッチィーーー!! ママ寂しかったテチュー! 抱っこしてテチューーーン♪」 「ママ待ってたテチィ! ポンポン空いちゃったんテチュー!」 「ママ! ワタシお利口さんだったレチュ! 蛆ちゃんのお世話も一生懸命プニプニしたレチューー!」 ママの歌声に惹かれて巣から出てきた仔実装達。 内側から鍵を開けてしまった。 しかし、目の前にいたのは恐ろしい下人実装だった。 普通のダンボールハウスではなく、発見しにくい巣にいる仔はこうやって発見するのであった。 「テ、テギャァァァァァァァァ!! な、何テチィィーーー!!」 「こ、怖いテチューーー!!」 「デププ… 今日は初仕事デス。楽しく働くデス」 下人実装一匹が仔実装を一匹ずつ運び、貨物用デストラクターに詰めていった。 デストラクターが訪れた公園の実装は全滅する。まさに破滅をもたらすDestructorなのである。 「チュアァァーーー!! ママー助けてテチーー!!」 「なんでこんな酷いことするテチィィーー!!」 「ワタシいい子にしてたテチィィーー!!」 仔実装を運ぶ下人はその甲高い声に腹が立ち、仔実装の頭をギリギリと絞め始めた。 「黙るデス!! ワタシは自分のことでせいいっぱいデス!! 幾らでも産める仔の分際をわきまえろデッス!!」 「「「「「「テェェーーーーーーーン!! チュェェーーーーーン!! ママァーーーーーー!!」」」」」」 「デププ… 案外面白いデス」 下人は仔実装の喚き声は嫌いでも、悲鳴は好きなようだった。 一匹が仔をいじめだすと周りの下人も仔を思い思いにいじめ出した。 「デスゥ〜♪ ちょっとはやめのご飯を…」 一匹の下人が仔を口に運ぼうとした。 「テッチャァァァーーーー!! ワ、ワタシを食べちゃイヤテチュー!! ママ許してテチューーー!!」 「デグハァッ!!」 パキンッ! しかし下人は仔を食べれなかった。 監督石がロングステッキ・デスゥタンガンで下人をしばいたのだ。 「全ての仔は駆除する前に鑑定を受ける決まりデス。 それを勝手に食おうとするのは高貴なる監督たる私への反逆デス!!」 ただ仔を駆除するだけなら糞蟲でもできる。 現に下人のほとんどは糞蟲である。 だがそれを仕事とするからには利益を上げなければならない。 監督石は無能な下人をコントロールするために存在する。 「そこの下人も同じデス! ちょっと痛めつける位なら大目に見るデスが、 あまり酷いようだとこいつと同じように殺すデス!」 「「「「「「「も、申し訳ありませんデス…」」」」」」」 ・ ・ ・ しばらく時間が経って、下人は仔実装をデストラクターに運び終え、作業石も仔の選別を済ませていた。 残りの作業は、各用途別に分けられた仔の「楽しい禿裸剥き」であった。 「デププ… ようやくワタシの仕事デス」 「デス! 今日はどっちが早く剥けるか勝負デス!」 「「「デププププ…」」」 流れ作業パートのおばさんのような会話をしながら作業石は仔の髪に手を伸ばした。 仔実装の毛根は弱く、成体の力なら容易く抜ける。 掴んだ髪は少し力を入れるだけで肌から離れる。 さぁ、楽しい時間だ。作業石がそう意気込んだ時、突如凄まじい殺気が彼女達を襲った。 「デッシャァァァァァァァ!!! 仔を返すデスゥゥゥゥ!!」 獣装石が駆けて来たのだ。 作業石にとっては運悪く、このエリアはもっとも仔実装の多い箇所であったのだ。 「ま、また怪物が来たデスゥゥゥ!!」 「早くドアを閉めるデスーー!!」 緊急事態に作業石は荷台のドアを閉め、トラックに立てこもった。 「デププ… いくら怪物といえどトラックの中までは来れないデス」 「デピャピャピャピャ! バーカバーカ! 来れるもんなら来て見やがれデス!」 「野良仔はみんな禿裸〜♪ この仔は殺してフードデス〜♪」 やはり安全地帯に入ればどんな相手でも見下し蔑むのが実装石。 賢い部類に入る作業石でも、糞蟲性は高かった。 「デップップップップ! 怪物はワタシ達の鉄壁に恐れをなしたデス!」 「怪物も所詮は野良の糞蟲…」 「デシャァァァァァァァァァァァァァ!!」 作業石は肝心な所を忘れていた。 獣装石は以前多くの実装車をパンクさせており、その上デスゥサスを滅茶苦茶に破壊するパワーを持っていたことを。 「デシャァ! デシャァ! デシャァァァァァァ!!」 やや厚めの鉄板をボコボコとへこませていく爪攻撃。 覚醒獣装石の中でも高い能力を持っているようだ。 「「「「デヒィィィ!!」」」」 トラックの横に風穴が開いた。 中で仔剥きをしていた作業石が見たのは、怒りに燃えた野獣であった。 ・ ・ ・ ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 「デ、デヒィィ… なんでデス… 賢い私はスカウトされた時から永遠の幸せが…」 パキンッ! 獣装石はトラックの中にいた作業石を皆殺しにした。 それもただ殺すのではなく、腕を毟り足を削ぎ、両目両耳を爪で裂いた。 死にそうになったら奪い取った四肢を喰わせて無理やり再生させた。 そして再び達磨にし、再生し… 何度でも殺し、再生を待ち、偽石が崩壊するまで嬲り続けた。 彼女の目にはもはやとなりに詰められた仔実装は映っておらず、ただ感情のままに動くだけであった。 「デェ… デスゥ… デェェェ…」 何時間自分が作業石を虐待していたかは分からなかった。 しかし作業石全員が死んだことで獣装石は我を取り戻した。 「デスゥ… 仔は、仔はどうなったデス!?」 慌てて仔を探す獣装石。 すぐ隣に仔実装が詰められた箱があった。 獣装石はすぐにでも仔を抱いてあげようと思った。 優しく撫でてあげようと思った。しかし… 「チププ… 糞蟲め、ワタシに酷いことするからケモノママに殺されるテチ」 「糞蟲に相応しい死に様だったテチ。ケモノママもっと殺すの見たいテチュー」 「テ、テチャーーーー!! ヤメテチュー! 痛いテチュ! お友達テチュー!」 「うるさいテチ! 禿裸なんか友達じゃないテチ!」 「奴隷には糞をつけるテチ」 獣装石は今まで仔達の本性を見たことが無かった。 普段、危機的状況に追い込まれるようなことがなかっただけに、 禿裸差別や弱者差別など起こらなかったからだ。 「デス! お前達なんてことを言うデス! それにお友達をいじめちゃ駄目…! デギャァァァァァァ!!」 ---------------------------------------------------------------------------------------------------- 獣装石は長くトラックに残り過ぎた。 自分の来た場所の仔は守れたものの、既に他の仔実装は全て捕獲されていた。 最後に駆除隊は難関である獣装石の駆除に、彼女が居座っていたトラックの周りに集まっていた。 獣装石がトラックに開けた穴からは彼女が仔の態度に慌てているのが見えた。 その隙をついて監督石が槍状のデスゥタンガンで攻撃をしかけたのだ。 「デ、デギュゥゥゥゥゥゥ… デグァァァァ!」 成体であっても一撃で偽石を自壊させてしまう強力な電撃。 だが、獣装石は体に焦げ目はついてしまったが命には別状はなかった。 「デププ… なかなかしぶといデスゥ」 電撃を喰らわせた監督石はひょっこり隊列に戻って獣装石を嘲笑っていた。 「デズゥゥゥゥゥゥ!! ゆ、許さんデシャァァァァァ!!!」 糞蟲のようだが仔はもう自分の隣の仔達と、木の枝に掛けて置いたコンビニ袋の仔達しかいない。 この場を乗り切ればなんとかなるかもしれない。 決死の思いと野生の力で渾身の威嚇をする獣装石。 「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「デププププププププププ… デヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 百獣の王を思わせる獣装石の咆哮。 しかしそれは無数の営業石の嘲笑によって掻き消された。 「デスゥゥ!? お前らなんで笑ってるデシャァァァ!! ぶっ殺すぞデスゥゥゥゥーーー!!」 いくら叫んでも声はすぐに下品な笑いに飲み込まれる。 隊列に突っ込んでいけば数十匹は殺せたであろうが、異様な雰囲気に獣装石も少し怯んでしまった。 「上物デスゥ」 公園の雑木林に響き渡る不気味な声。 雄叫びにも揺るがなかった笑いが一瞬で止まった。 下人実装や作業石の群れがわらわらと移動し、一本の道を作った。 そしてその先からは人間サイズの高級実装車・ローデスロイスがじわじわと進み出てきた。 「デ! デグルルルルルル…!!」 ただならぬオーラを感じた獣装石は上半身を崩し、今にも飛び掛るような体勢を執った。 「何者デスゥゥゥ!! お前がこんな酷いことをこの糞蟲共にやらせたデシャァァァァァァァ!!!!」 不安を押さえ込み精一杯の威嚇をする獣装石。 相手が誰かわからないというものは本当に怖い。 たとえ実際には自分より弱い相手でも、自分の中のイメージはどんどん強大になっていく。 「ささ、レチアンヌ様、どうぞデス」 象のような巨漢の現場長石ピンクが畏まってローデスロイスのドアを開けた。 ジャラッ… ジャラジャラ… ドアが開くと中からするりと足が伸びてきた。 車から体が見えてくるにつれて、金属が擦れるような音が聞こえてくる。 ジャガララ!! 現われた実装石は薄紫の服に大量のアクセサリーを付けた、ピンクの倍以上の身長の実装石であった。 「デププ… 見れば見るほど上物デスゥ」 ・ ・ ・ 「デッジャァァァッァァァァァァァァァァーーーーー!!!!」 姿が見えると同時に豪華実装に襲い掛かる獣装石。 「何がレチアンヌ様デス! ただ体が大きいだけのヒョロヒョロデス!! 私の方がずっと強いデスゥゥゥ!!」 相手を見下すような言葉を吐き、自信をつける獣装石。 相手が自分より強いと思えば負け、自分を信じられなくなったら負けである。 「平和だった公園を返せデスゥ! 仲良しだった仲間を返せデスゥ!! みんなみんな返せデスゥゥゥ!!」 長い爪を大きく振り回し、相手を切りつける。 手ごたえはある。これならいける。 「デガブー! デガググググー!!」 肩に圧し掛かり、そのまま地面に叩き付ける。 動く隙を与えず一気に脳天に喰らい付く。 口には甘い蜜が溢れて来た。 「デゲェ!? 血がアマアマデス!!」 驚いて豪華実装を見てみると、いつのまにか木の幹に変わっていた。 その上いつの間にか自分も木の上にぶら下がっている。 「デ、デ、デェェェェ!!?」 「あー、もうどうしたらいいんだか」 ここ最近の石油だのなんだのの値上がりは深刻だ。 まああれだ、関係ないと思ってたもんが実は影響受けちゃうんだよね。 蛆ちゃんで釣りするのもいいかも。 獣装石はラーメン屋にいた。 定職屋のオヤジは黙々とコロッケを切っていく。 そしてキャベツはどうした? 「オジサン、明太スパゲッティ一丁デスゥ」 「頭ん中スパゲッティになっちまうよ」 せんせーい、加藤君が授業中なのにジュース飲んでます! ・ ・ ・ 「デボハァァ…!!」 豪華実装の腕の中でへたれこむ獣装石。 カオスに押しつぶされて戦意を喪失してしまった。 「デププ… 返してあげるデスゥ」 豪華実装の言葉に反応して数匹の下人実装が歩み出る。 獣装石はその実装達に見覚えがあった。 「デ… お前達は…」 かつて公園に住んでいた成体達であった。 初駆除の日、獣装石の反撃によって下人実装はその数を減らした。 そのため捕獲した成体は過去を捨て、下人へと調教されたのだ。 「お前の仲間は本当はただの糞蟲だったデス。それでも良ければ返してあげるデス」 豪華実装が優しく言った。 「デェェ!? 嫌デス! こんな公園に帰りたくないデス!」 「ケダモノの下でチマチマ野菜なんてつくってらんないデス!」 「自分が強いからって勝手に理想を押し付けるなデス!」 「あいつが来てから仔が喰えなくなったデス! でも今なら喰えるデス〜」 「禿裸だけど幸せデスー!」 今まで鬱憤が溜まっていたのか次々に獣装石を非難する元仲間達。 安定した生活よりも、一日一日の快楽を重視するのが実装石では一般的だ。 「仔もいるデスよ」 豪華実装の合図でトラックの荷台が開く。 中には箱詰めにされた仔実装達がいた。 「テチャァァァァ!! このケダモノー! ワタシの幸せ返せテチャーーー!」 「ワタシを守るんじゃなかったテチ! 嘘つき死ねテチャァァァァ!!」 「この糞蟲! 糞蟲レチャァァァーーー!」 「ウジチャンもうプニプニして貰えないレフ… 全部お前のせいレフーーーー!! レェェェーーーーン!!」 「ママァーーーー! 助けてテチィィィーー! ワタシケダモノの仔じゃないテチー! ママの仔テチィィィ!!」 「化け物ー!! お前のせいテチーー!!」 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねテチ!!!」 途端に仔実装の大合唱が始まった。 仔達は皆、トラックに詰められた後、一度だけこう言われた。 「デププ… 可愛そうな仔達デスゥ。ケダモノの仔(義理)じゃなければ幸せに暮らせたデスのに」 仔の加護者への思いなど無に等しい。 自分を構ってくれなければ糞蟲。 ご飯くれなきゃ糞蟲。 ちょっと背中を押せばすぐに反旗を翻す。 「デスゥゥ… なんで、なんでそんなこと言うデスゥ…」 「糞蟲だから、デスよ…」 獣装石の耳元で呟く豪華実装。 あまりのショックに獣装石は気絶してしまった。 ・ ・ ・ 「ご主人様ー!」 一匹の実装石が飼い主に擦り寄った。 品の良い色合いの服を着た実装は主に笑いかけた。 「デッスー。今日はご主人様にプレゼントがあるデス♪」 「あら、嬉しいわねぇ。一体何かしら」 笑い返す主。 「いつもお世話してもらってるお礼デス」 豪華実装は引いて来たスーツケースを開いた。 「ご主人様においしいお肉あげるデスー」 中から出てきたのは虚ろな目をした獣装石であった。 ふるふると肩を震わす主。 手をピクピクとさせながら豪華実装の頭に手を乗せた。 「いいわ! かなりの上物じゃないか! すごくおいしそうだねぇ!」 恰幅の良い中年女性はレチアンヌを撫でるとスーツケースを持ってキッチンへと向かった。 どうも、赤いサクブスでした。 実は最後の「ご主人様においしいお肉」のネタが書きたかったのですが、余計な部分が多くなりました。