ある公園の夏 雲ひとつ無い青空。夏の太陽の日差しが燦々と街を照らしつける。まさに夏。 とある市にある自然公園にも太陽の容赦なき熱線は降り注ぎ、セミが負けないように鳴いていた。 夏日続きなので公園には人っ子一人見当たらない。まぁ実装石に占拠されているので、夏じゃなくてもここ数年公 園に人は近寄らないが。 だがここ数日、公園を我が物顔で占拠し、通りかかった人に餌を媚びたりゴミ箱を漁ったり噴水で水浴びしたりし ている実装石の姿が公園内から日に日に少なくなっている。変わりに増えているのは水分不足かで干からびて死ん だ実装石の死体。余りの暑さで狂ったのか頭をトイレの壁に力いっぱいぶつけて死んだり、爪も指も無い手で喉を 掻き毟って死んんでいた。公園には死体ばかりである。 まだ生きている実装石達は太陽の日差しが厳しい昼間は各々、公園のベンチの下や木の影、住家であるダンボール ハウスの中で、体力を使わないようにただじっとうな垂れている。ここ数日続いている猛暑で実装石達も暑さにや られているのだ。 もう一つ実装石を苦しめているのが水不足である。猛暑の日が続き雨が全然降らないので市は節水として、実装石 に占拠され利用者がほぼ居ない公園の噴水を止め水を抜き、トイレも断水し、使用できないようにした。こうして 実装石は飲み水を手軽に確保できる術を奪われたのだった。公園から少し離れた所にドブ川があり、何とか飲み水 は確保できるのだが、日陰の中じっとしていても吹き出る汗。そんな中外に出たら一瞬で体内の水分が汗となり実 装石は干からびて死んでしまうだろう。だから日差しが強い昼間は様々な場所で実装石はじっとしているのだ。 「デーデー。暑いデスー。喉が渇いたデスー。痒いデスー」 公園の植木の中に上手く作られたダンボールハウスの中で一匹の実装石が、暑さによる喉の渇きと腕の痒さにより 昼寝から目が覚め、爪も指も無い手で虫に噛まれた左腕をかいている。 その傍らにはこの実装石の仔なのだろう、一匹の仔実装が暑さで汗をかき寝苦しそうに昼寝をしている。 この巣は同属にも人間にも見つかりにくい好条件な場所に位置しているが、そのせいで風のとおりが悪くダンボー ルハウスの入り口を開け放っていても巣の中は蒸し暑く、じっとしていても汗が吹き出てくる。 汗を掻きながら寝ている仔を見て親実装はもう一眠りする前に、普段は布団代わりにしているタオルで寝汗を掻い ている仔実装の汗をふき取ってやる。 「テーテー……テチッ!?痒いテチ!痒いテチ!お手手にあんよが痒いテチー!」 寝ていた仔実装は痒さの余り目を覚まし、手や足をかきだす。そんな仔実装を見た親は拭くのを辞めて仔の変わり に虫に噛まれ腫れた仔の手や足を優しくかいてやる。 「テー。ママ辞めてテチ。ワタチ自分で出来るテチ。だからママは少しでも寝て欲しいテチ」 「何言ってるデスゥ。ママはちょっとぐらい寝なくても大丈夫デス。仔が気を使う事は無いんデスよ。さ、もう大 丈夫デス?」 「テチューン♪ママにかいてもらったから、もう痒く無いテチー。さすがママテチー。ワタチはもう一眠りするテチー」 親実装に虫刺されされた場所をかいてもらうや、仔実装はすぐさま寝息を立てて夢の中に戻っていった。そんな仔 実装を見つめながら、大きくため息をつきながら自分も痒い部分をかいて寝る事にした。仔には虚勢を張ったが親 実装もとても眠かった。親実際の目の下には大きなクマが出来ている。睡眠不足の証拠だ。仔実装の方も親よりは マシだがクマが少し出来ている。 「少しでも寝ないと体が持たないデスー。もう直ぐお日様が傾いて少しは涼しくなるから川に水を汲みに行くデス」 そう呟くや親は直ぐに寝息を立てた。 「デジャァァァァァ!また黒くてちっさい虫が出てきたデジャァァ!こう毎晩毎晩だと眠れないデス!」 「いい加減にするテチ!世界一カワイイ、ワタチの睡眠を邪魔する何ていい度胸テチ!ぶっ殺してやるテチ!」 夜11時。本来なら実装石達が寝静まる時間なのだが、公園のいたるところから実装石の怒りの声をあげている。 「デズァァァァァ!毎晩毎晩私の家に入ってきて、ブンブンうるさくて眠れないデスし、私のすべすべ肌を噛んで いくとはいい度胸デス!お陰で私は痒くてたまらんデス!今日こそぶっ殺してやるデス!」 睡眠不足に苦しんでいたのは、公園の実装石全匹だった。公園中の実装石が睡眠不足の為、目の下に大きなクマを 作っていた。熱帯夜が続いて寝苦しいだけが理由では無い。公園の実装石はズキンや服で隠れていない場所は軒並 み蚊により刺されており、毎晩毎晩聞こえてくる蚊の飛ぶ音で眠れずにいた。睡眠不足の最大の理由は蚊であった。 夏になり水を止められたせいで実装石は飲み水に困っただけではなく体を洗う事も出来なくなった。そのせいでた だでさえ不潔な実装石は体は汗臭く垢が溜まりきっており、髪の毛も油でギトギト。 実際実装石は綺麗好きで、水が止められるまでは噴水やトイレで毎日水浴びをして実装石基準で体を綺麗にしてい た。新陳代謝が活発なので、直ぐに汚くなるからだ。だが体が洗えない今となっては不潔で匂う体、人より多く吐 く二酸化炭素、実装石という存在が蚊を呼び寄せるものとなっていた。 「テチョォォォ!ママ、ママ!またワタチちっさな虫に噛まれたテチュ!おつむのてっぺんが痒いテチュ!ママ、ワタチのおつむかいて欲し いテチュー!」 「うるさいデズァァァァァ!ママも痒いんデス!我慢しやがれデスー!それにママはちっさい虫をぶっ殺している 最中デス!」 この親実装は蚊に当たるはずも無いのに、手をぶんぶん振り回し蚊を追い回す。だが簡単に避けられた親実装渾身 のパンチは自分の住家のダンボールハウスに当たり、一匹の蚊も殺していないのに住家だけは壊れていく。 「私の家がーーーーー!虫、避けるなデス!私のパンチを素直にうけろデズァァァァァ!!!」 「早くワタチのおつむのてっぺんをかけテチュ糞ママ!ワタチは痒くて痒くてたまらんテチュ!親の務めを果たせテチュ!!!」 「デズァァァァァ!仔のくせに親に向って何て口をきくデス!お前は糞虫デス!!!」 余りにもイライラしていた親実装は仔に無礼な口の利き方をされ、とうとうブチ切れて怒りの対象を仔に切り替え 蚊に対する鬱憤を晴らすかのように一瞬でマウントポジションをとり、仔を激しく殴打する。 「テチィィィィ!痛いテチュ、痛いテチュ!ママ、ごめんテチュ!だから殴らないでテチュ!」 「デプププ。気持ちいいデス!はじめからこうしていればイライラしなかったデス。私は頭がいいデス」 親実装は仔を一方的に殴る快感に酔いしれた。ご丁寧に一発で仔を死なせないように手加減をして、少しでも長く 殴ってストレスを発散している。 「テェェェ…もう辞めてテチュ。マ、マもうワタチを殴らな……」 パキン いくら手加減をしているとはいえ、大人の力で殴り続けられた仔実装は殴られるたびに原型が崩れていき、とうと う最後に頭部はぐちゃぐちゃの肉片となり偽石が割れ息絶えた。 「デ?もう死んだデスか。最近の仔は脆いデス。デスが丁度体を動かしてお腹が減ったから食ってやるデス。旨い デェーッス。さすが私が産んだ仔デス。とってもうm…ゲボォッ!」 「お前さっきからうるさいデス!お前のせいでみんな寝られないデス!仔食いのお前はウンコでも食ってるのがお 似合いデス!」 仔食いに夢中で近所の実装石達が集まって来たのを気が付かない親実装に近所の実装石達は一斉に仔食い実装石の 口に糞を投げつけたのだ。運悪く糞を飲み込んでしまった仔食い実装は糞の不味さに嘔吐を繰り返し、ようやく落 ち着いたのか、怒りの表情でゆっくりと立ち上がり集まった実装石達に吼える。 「デジャァァァァ!お前ら何て事をするデス!高貴な私に糞を食わせるなんていい度胸デス!ぶっ殺されたいデス か!」 「殺されるのはお前デス!みんな暑さと虫のせいでイライラしているデスから、お前で発散させてもらうデス!」 威勢よく吼えた仔食い実装だったが、多勢に無勢。すぐさま多数の実装石に囲まれ殴る蹴るの暴行を受け、髪の毛 を抜き取られ服も破り捨てられた。 「デェェェェ。もうやめてデス!私が悪かったデス。だからもう殴らないで欲しいデス!お…お願いだから、もう ゆ……許して欲しいデス。体のあちこちが痛いデス!」 仔食い実装は必死に土下座をして許しを請うも、実装石達の怒りは収まらず殴る蹴るの暴行を受け続け、しばらく すると全身ボロボロとなり偽石の力も使い果たし息絶えた。 騒ぎの元凶が死んだにも関らず実装石達の暴力は収まらず、仔食い実装が死んだと解ると次は自分の隣の者だと皆 が好き勝手に殴り始めその場は、いや公園全体が乱闘会場へと姿を変えた。 公園の実装石達は連日の猛暑や、蚊による睡眠不足で怒りのピークに達しとうとうストレスの限界から際限なく殺 し合いを始めたのだ。実装石達の乱闘はその後も終わる気配を見せず、夜遅くまで公園内で繰り広げられた。 公園の実装石達の乱闘があった次の日。昨夜のうちに近所の人から公園の実装石達が暴れてうるさいと多数通報を 受けた保険所は、朝も早い内から多数の人員とゴミ収集車を公園に向わせ実装石を駆除する事にした。 だが保健所の職員が公園に足を踏み入れるや、そこには無数の暴行を受け死亡した実装石があちこちに倒れており このまま放置すれば昼間には暑さで死体から匂いが辺りに立ち込めると思われ、一通り公園を見て回っても駆除す べき生きた実装石が見つからなかった事から、死体処理に取り掛かった。 保健所職員は手際よく実装石の死体を厚手のビニール袋に放り込んでいき、公園の隅々まで捜査し、まだ息のある 実装石も無造作にビニール袋の中に放り込まれる。 開始30分程で公園内の実装石の死体処理は終わり、再度生きている実装石が居ないかくまなく捜査されたが見つ からず、公園の実装石は全滅したと判断され捜査は打ち切られ撤収作業に取り掛かった。 だが余りにも多数の実装石が一晩で全滅した事から、一度公園を徹底的に消毒した方がいいのではと新人職員が進 言し上司も上に報告し、許可を得たので準備に戻る間に人が公園に立ち入らないよう公園の出入り口を板で封鎖し 公園を囲むフェンスなども綻びが無いか確認し、綻びは修繕した事により公園には誰一人入る事が出来なくなり、 もし実装石が生き残っていても公園の外に絶対出られなくなったので、保健所職員は撤収した。 「デェェェ。やっとニンゲンが帰ったデス。ニンゲンといい昨日の夜から同属が殺しあうといい、この公園は危険 デス。もう少し涼しくなったら黒いちっさな虫がいない別の公園に引っ越すデス」 昨日の実装石の殺し合いにも巣に隠れて参加しなかった一匹の実装石は、保険所職員が去ったのを見届け安全にな った事を確認し、隠れていた植木の巣から姿を現した。 「さ、今日の分の水とご飯を取ってくるデス。ニンゲンのせいで遅くなったデスが、今ならまだ涼しくて川に行く 時間もご飯を取る時間も十分にあるデス」 実装石はペットボトルを入れたビニール袋を手に持ち、外に出ようと公園唯一の出入り口に歩き出したが直ぐに先 程職員が公園の出入り口に設置した板が目に付いた。 「デェェェェェ!何デスかアレは!?外に出られないデス!」 実装石は驚き板に駆け寄り出入り口に設置された板をポムポムと必死に殴りつけた。だが板はびくともしなかった が、実装石はそれでも殴り続ければ壊れると思い、固い板を殴り続けた。手に血がにじんでも必死に殴り続けた。 「デジャァァァァ!壊れろデス!壊れろデス!私は外に出て水とご飯を取ってこなきゃいけないんデス!ご飯はま だ余裕があるデスが、水がもう無いんデス!水が無かったら家にいる仔が死んじゃうデス!お願いデス!壊れろデ ス!」 実装石は叫び、殴り続けたが板はびくともしない。無常にも日はだんだん高く昇り始め、また暑い一日が始まろう としていた。 「誰か開けてデスー!お願いデスー!」 実装石の悲痛な叫びは鳴きはじめたセミの声によりかき消され誰に聞かれる事も無かった。 まだ夏は始まったばかり。果たして実装石は生き残る事が出来るのだろうか。 END ------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 第三段スクです。 前作、託児された仔実装を飼ってみるに感想を下さった方、ありがとうございました。 今後は感想の指摘にあったように文章を精進していく所存なので、よろしくお願いします。 では、最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。