「ババアの飼い実装」 「朝デスー、起きるデスー!」 デスーパーカーに乗った実装が大きな廊下を駆けながらクラクションを鳴らす。 実装石の歩行速度ではとても回りきれない距離を一通り走り終えると、幾つもある部屋からデスデスとうるさい声が聞こえる。 「「「「「デスデスー」」」」」 扉が開くと同時に、一つの部屋から数匹の実装がデスクーターに乗って出てくる。 中にはデスーパーカーに乗った実装もいる。 「デッス! みんな揃ったデスか?」 「デスゥ! 一号室全員整列しましたデス!」 「二号室も揃ったデス!」 「三号室もデス!」 「四…」 … … … 車に乗った実装石がほぼ集まると、下人小屋の方から禿裸達がデェデェと汗をかきながら寄ってきた。 「デゲェェェ… 禿裸集合しましたデスゥ…」 「デギュー! 遅すぎるデス! お前は下人長失格デスゥ! 特別任務デス!」 リーダー格らしき実装が指示をすると、作業服を着た実装が集まってきて、下人長をリンチし始めた。 数匹が手足を羽交い絞めにし、さらに数匹がハンマーで下人長を叩き潰していった。 「デギャァァァァ!! 痛いデスゥ! やめ、デス! デヂベッ!!」 機械的に作業を終えると、作業石は死体を大きなトラックの燃料タンクに詰め始めた。 恐らくこれが下人長に与えられた特別任務なのだろう。燃料としてトラックを運ぶという。 ・ ・ ・ ここは日本のとある豪邸。 庭には噴水があり、並みの公園よりも広い敷地を誇る。 さらには黄金でできた恰幅の良い中年女性のオブジェが飾ってある。 そう、ここは実食ババアの家なのであった。 この家の庭の一角にはアパートくらいの大きさの家がいくつか立ち並んでいた。 そして広場の中心にはデスーパーカーやらに乗った実装が何匹も集まっていた。 ・ ・ ・ 「それでは仕事に出発デスー!」 デスゥサスに乗ったピンクのスーツのリーダー実装が合図をすると皆が一斉に広場を出発する。 先頭にはデスゥサスが一台、その後ろにデスーパーカーが数台、また後ろには作業服を着た実装達がデスクーターで後を追っていた。 大量の実装車が道路を駆ける様は圧巻であるが、中でも目を引くのは人間用の小型車と同サイズのデストラクターであった。 ・ ・ ・ 「「「テッチューン♪」」」 公園の砂場では三匹の仔実装が歌を唄いながらダンスらしきものを踊っていた。 辺りでは他にも仔実装が仲むつまじく遊んでおり、生き地獄と言われる市民公園とは思えない光景であった。 当然の事であるが、このようなことは普通ありえない。 どんなに善良な実装でも腹が減れば他石の仔など肉の塊にしか見えないからである。 しかし、そうでないということは何か裏がある。 そして、この公園の場合のそれは、ボスが強力な統率力を持っているということであった。 「平和デスゥ。やっぱりみんな仲良しが一番デスゥ」 滑り台の上から仔実装達を見守る実装が一匹。 麻布をマント代わりにした獣装石であった。 「あの仔達さえ守れれば… あとは花粉で仔を増やせばこの公園も元のように戻るデス…」 よく見ればおかしいことがある。 この公園には成体実装が数えられる程しかいないのだ。 だから遊んでいる仔実装は身寄りの無い仔達ばかりであった。 獣装石がいなければこの仔達は死んでいたことだろう。 「あの糞蟲共… 絶対に許さないデスゥ。 今度来たら八つ裂きにして殺してやるデスゥ!!」 ・ ・ ・ ===================================================================================================== 先日の話。 獣装石を中心としたコロニーが大規模な駆除を受けた。 だが、ここの実装達は特に悪いことはしていなかった。 公園に不法滞在していることを除けばほぼ無罪の状態で、よほど狂った虐待派でない限り彼らに危害を加えることはなかったし、 彼らも自分達で野菜などを作ったりして、人間には迷惑をかけないようにしていた。 「今日はここでお仕事するデスゥ」 デスゥサスに乗ったピンク実装がメガホンで後ろの隊列に指示をした。 彼女達はババアの飼い実装。 しかし、ただの飼い実装ではない。営業石なのである。 #################################################################### ここで小話。 ババアは何故愛護派に分類されるのか。 それはババアの信念に関係する。 「実装石は七つの大罪コンプリーター」 この言葉に対し、ババアは昔から異議を唱えていた。 そして、積極的に実装石の営業石化に努めていた。 それは愛護派であるババアが、実装石を世のため、社会のため、環境のため、 それらどれかのうち、一つでも役に立てる存在として、世間に確立させてあげたかったからである。 しかし、とある事件によってババアは実装石の大半は糞蟲であり、正に「実装石は七つの大罪コンプリーター」であると認識してしまった。 だがそれでも諦めきれないのがババア。 最終的には「実装石は珍味として働ける。役立たずじゃない」 という滅茶苦茶な理論を展開させることになった。 ###################################################################### で、公園の前にいる実装隊列はなんなのかというと、 ババアに「食料としての価値」ではなく「営業石」として認められた実装石なのである。 営業石といっても荷物運びや皿洗い、ほとんど無意味な風呂掃除といったちんけな雑用はしない。 彼女達が行うのは、それこそ世のため社会のため人のため、さらには環境のためにもなる素晴らしい仕事なのである。 「デス! これよりこの公園の一斉駆除を開始するデスゥ!!」 ピンク実装の指示を受け、隊列は一気に公園の広場まで走り抜けた。 初めて見る実装車に興奮する野良仔や、圧倒的な車の流れに恐怖する実装もいた。 しかし、そんなことは関係ない。それが大人(成体)の仕事である。 「テチュー。 ママー、あれ何テチ?」 「デス! 見ちゃ駄目デス! 飼い実装は性根が腐ってるから因縁ふっかけられるデス!」 広場は公園の中心に位置しており、噴水もあった。 そのため多くの実装が水汲みに来ており、また、活気があり、物々交換の市場なども開かれていた。 そして運が良かったのか悪かったのか、そこにいるのはほとんどが成体実装であった。 「デェェ! なんかヤバそうな雰囲気デス!」 「ボスに報告するデス!」 野良実装達は次々と伝言を回し、ボスに異常を報告した。 だが、伝言が届くのが少し遅すぎた。 「デスー! 作業隊! 下人はどうしたデス!」 「デ! すぐに出しますデスゥ! おい糞奴隷!とっとと働けデス!」 青い作業服の実装石がデストラクターの扉を開くと、中から数十匹の禿裸下人実装が出てきた。 「デ、デ、デスゥゥーー!!」 作業石にハンマーで叩かれながら出てきた下人は、外に出るとすぐに野良実装の方へ向かっていった。 皆眼が血走っており、火事場の馬鹿力でも出ているのか次々と野良の成体をぶちのめしていく。 「デッスゥゥゥ!! 明日は我が身デス! 代わりにお前らが死ぬデスゥ!」 「営業石の私が禿裸で野良のお前らがフサフサでフカフカ(服)なんて原罪級デス!!」 「死ねデス! 死にやがれデスゥゥゥゥ!!」 「デギャァァァァァァァ!!」 禿裸にリンチされ、瀕死に陥る野良実装達。 ボスにはまだ情報は届いていない。 唯一の救いは大事な仔はハウスに残っているというこだけ。 「これはフードデス。こっちは出産石デスゥ…」 作業石達が倒れた野良達を選別していく。 次は下人に指示を出して貨物用のデストラクターに運ばせる。 そして、別の作業石が野良の髪や服を綺麗に剥き取って資源ボックスに詰めていく。 「デップップップップ… 面白いように抜けるデス…」 「羅生門デスゥ…」 「ストレス発散デスゥ…」 … 下人と作業石が仕事をしている中、デスーパーカー乗りの監督石は花壇に座って談笑していた。 「デププ… 優雅デスゥ」 「下人達が汗をかいているのを見ながら飲む紅茶は最高デスゥ」 「これも長年髪の抜き分けを続けてきた成果デスゥ」 「ワタシは肉潰し(燃料化)の仕事だったデスゥ」 思い出話をしながらティータイムを楽しむ監督石。 仕事も順調に進み、後は部隊を分けて公園の隅まで駆除を終えるだけだった。 「じゃ、一号室と下人A隊は滑り台の方へ…」 監督石が指示を出していたその時であった。 「滑り台の方へ… デ、デギャァァァァァァ!!」 一匹の監督石の首がいきなり吹き飛んだ。 鋭い爪で抉られた箇所には偽石もあり、監督石は一撃で死んでしまった。 「デ、デヒッ! な、何事デスゥ!!」 「ミドリが殺されたデスーー!!」 慌てて花壇から離れデスーパーカーの方へ逃げていった。 しかし何者かの影がすぐに近づいてきて一気に数匹が殺されてしまった。 「「「「「デデ?」」」」」 監督石に起こった異常に作業石達も気付く。 監督石の死体の隣にはマントを羽織った獣装石が立っていた。 「デシャァァァァァァァ!!!!」 実装石らしからぬ低い声で営業石を威嚇する獣装石。 その迫力に営業石達はパニックになった。 「「「「「「デ、デヒャァァァァ」」」」」」 多くの営業石は実装車に乗り込めたが、逃げる途中にも数十匹の営業石が殺された。 「は、早く逃げるデスーー!!」 「逃がさないデシャァァァーーーー!!!」 コロニーの同属を殺されて怒った獣装石の力は凄まじく、軽いデスクーターを次々とヒックリ返し、 デスーパーカーのタイヤを爪で引き裂いていった。 「デギャァァァァァ!! 退路が断たれたデスーーー!!」 「作業石になれたら安全に暮らせる約束のはずデスーーー!!」 「デェーー!! た、助けてデッスーン♪」(媚び) 世のために働く善良な営業石に対する、獣装石の理不尽な暴挙。 突然の不運に喚き嘶く営業石であった。 怒りでさらに覚醒した獣装石はパンコンしながら一箇所に固まっている営業石に爪を向け向かっていった。 「デェェェェスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーー!!!! デ、デギャァァァァ!!!」 勢いよく突っ込んでいった獣装石だったが、横からの攻撃には気付かなかった。 デスゥサスが激突してきたのである。 「デププ… 野良の分際で私の部下に手を出すなんて瞬獄殺デスゥ」 ピンクの現場長石は高級実装フードを喰いながら窓から顔を出した。 しかし、そこには轢いたはずの獣装石はいなかった。 「デゲェ!? ど、どこにいったデスゥ!?」 迂闊に顔を出してしまったことに恐怖するピンクだったが、すぐに顔を戻して窓を閉めた。 ドゴン! デゴン! 「デ、デゲェェ!!」 デスゥサスの車体がボコボコとへこんでいく。 獣装石が上から叩いているのだ。 「デギャァァァァ!! こ、怖いデスーーー!!」 ピンクは堪らず部下を置いて公園を逃げ出してしまった。 デスゥサスはとても速いのでさすがに獣装石も上には乗っていられなかった。 … 結局駆除は失敗。 現場長の愛車はポンコツにされ、監督石の大半は即死。 実装車を破壊された作業石や下人達は、荷物(死体)を捨ててデストラクターに入りなんとか逃げ延びた。 =================================================================================================== とある公園の前に実装車の隊列が並んでいた。 それは前回獣装石に大打撃を喰らった駆除業者である。 「デッスーーー!! 今度こそ皆殺しにしてやるデス!!」 「ミドリとシドニーとスイとモモコの仇を取るデスゥ!!」 いきり立つ生き残りの監督石。 「デェェ… でもあの怪物はとっても強かったデスゥ…」 「どうやって駆除するデスゥ…」 身を心配する作業石。 「デププ… 大丈夫デスゥ。今日は助っ人を雇っているデスゥ。 それこそあんなケダモノなんか足元にも及ばない本物の怪物デスゥ」 何やら策があるのかニタニタと笑う現場長石。 愛車のデスゥサスは新品と取り替えられていた。 (続く) どうも、プリキュアとデビルマンが大好きな赤いサクブスでした。 あと、ババアは公園には来ません。