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このぬいぐるみは、ポプリの袋を入れて、香りを楽しめるよう工夫したものであった。 そんな玩具メーカーの考えなどナァには知る由もないが、 これ幸いと、ぬいぐるみの中にあった残りのポプリの袋をかき出し 代わりに自分がぬいぐるみの中に納まった。 ぬいぐるみに偽装して、人間をやり過ごそうというのだ。 やがて、足音の主が現れた。それは一人の女児だった。 女児は、今日十歳の誕生日を迎え、プレゼントを買ってもらうために 両親とともにこのデパートにやって来たのだ。 彼女は、棚に並ぶぬいぐるみたちを眺めていたが、大きなぬいぐるみの影に隠れるように置かれていた 小ぶりの熊のぬいぐるみに目を留めた。運の悪いことに、それはナァが中に隠れたぬいぐるみであった。 そのぬいぐるみを、そっと手に取る女児。緊張のため、ナァは女児の手の中でブルブルと震えていた。 . 「?」 女児が不思議そうにぬいぐるみを眺める。そのぬいぐるみは 心なしか生きているように暖かく、不安そうに震えていた。 「・・・怖がらなくてもいいのよ?」 女児に優しく声を掛けられて、ナァはほっとするとともに、 思わず本能的な反応を、すなわち「媚び」のポーズを取った。 「テチュン♪」 手を口に当てて小首を傾げる熊のその姿に、女児はすっかり 魅了されてしまった。 「かわいい!決めた!この子に決めた!パパー、ママー、これに決めた!」 女児の楽しげな声を聞いて、両親が歩いてきた。 女児の手に抱かれた小さなぬいぐるみを見て、母が言った。 「そんなちっちゃいのでいいの?もっと大きなのもあるじゃない。」 しかし、女児の心は決まっていた。 「これがいいの!この子はトクベツなの!」 両手で熊を両親に差し出すように見せ付ける。 大きな人間の眼前にさらされ、ナァは再び緊張して、またしても「媚び」 ポーズを取ってしまう。 「テチューン♪」 そのしぐさをみて、両親も思わず微笑む。 「まあ、かわいらしい。」 「ほおー、最近のぬいぐるみは良くできておるな、これはおもしろい、いいじゃないか。」 「でしょ!これ買って!」 「よーし、大事にするんだぞ。」 歓声を上げて跳び上がる女児。 親子はぬいぐるみを買うため、おもちゃ売り場のレジへ向かった。 「きみ、これを包んでくれたまえ。」 父親がレジの女性従業員に声を掛ける。 「はい、ただいま!」 棚からプレゼント用のカラフルなビニール袋 を取り出そうとした女性従業員に、女児が思わず抗議する。 「ダメよ!この子は生きてるんだから!袋になんか入れないわ! 抱いたまま帰るから袋は要りません!」 ふくれっつらをする女児に、女性従業員も両親もおもわず吹き出した。 「そうね、お友達を袋なんかに入れちゃかわいそうね。」 成長とともに女の子らしい情緒を身につけてゆく愛娘の髪を、母親が優しく撫でた。 「じゃ、代わりにリボンをつけてあげましょうね」 女性従業員がプレゼント用のリボンを取り出して、熊の耳にそっと付けた。 「ありがとう!お姉さん!よかったね、クマちゃん!」 ほほえましい女児の笑顔に、自然と大人たちの顔もほころびる。 一方、ぬいぐるみの中のナァも感激に打ち震えていた。 トクベツ・・・かわいらしい・・・いいじゃないか・・・ そんな褒め言葉を掛けてもらったのは、生まれて初めてだ。 この女児は、自分を友達だと言っている。 何だか知らないうちに、 「クマちゃん」 などという名前までもらった。怖いと思っていたニンゲンだけれど、 この女の子はとても優しい。自分はこの素敵なニンゲン一家の飼い実装になれるんだ・・・。 うれしいような、照れくさいような、むずがゆいような、でもナァはとても幸せな気持ちだった。 公園に住んでいたとき、時々近所の飼い実装たちが主人に連れられて散歩に来ていた。 飼い実装たちは、きれいな服を着て、髪もさらさらで、毎日おいしいものを食べて 丸々と太っていた。そして、公園に来るたびに同族たちにエサをまいた。 われがちにそのエサを奪い合う同族たちを、飼い実装たちは哂い、哀れみ、馬鹿にし、さげすんでいた。 エサの奪い合いをする実装石たちの中には、ナァたち姉妹の母親も混じっていた。 子供たちの食い扶持を得るため同族たちと醜く争う母親・・・。 それを高みから見物してゲタゲタと馬鹿笑いする飼い実装たち。 ・・・うらやましい…ねたましい・・・。 ナァたちの心の中には、自分たちの境遇への卑屈な思いと、飼い実装へのねたみが刻み込まれたのだった。 (これからは、ワタチも暖かくて安全な部屋で、おいしいものをいっぱい食べ て、いろんなおもちゃでいっぱい遊ぶんテチュ・・・) ナァの頭の中には、これからの生活への妄想が広がっていた。
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