虐待師は語る これはとある虐待師へのインタビューの記録である 私はかねてより虐待師と呼ばれる人の話を聞きたいと思い SNSを通してある虐待師に接触する事に成功した 取材をしたい旨を伝えると快く快諾し 三日後日時と場所を決め指定された喫茶店へと赴く 店内でコーヒーを飲みながら待っていると 敏明さんですね?と声をかけられる 私の目の前には中年の男性が立っていた ラフではあるが小綺麗な服装をした気さくな感じがした いささかイメージしていた人物像から離れていた 対面する位置に座り注文を済ませたあと 私は取材を開始したいと述べ承諾を得た後に ICレコーダーのスイッチを入れた 虐待師への取材開始である ***************************************************** 「まず良く聞かれる事ですが虐待師の多くは 実装石を憎んではいません いや、むしろ実装石をこよなく愛しているのですよ」 開口一番に虐待師が述べたこのセリフに私は困惑した てっきり憎くて仕方がないからあのように 執拗に虐待しているものだと そう思っていたからだ 「ええ…中にはそういう人もいるでしょう でも、それは虐待師の中では少数なんですよ 確かに私達は実装石を虐待し死に至らしめますが これは一つの愛の形と言っても過言ではない もちろん歪んだ行為であることは自覚していますが それでも実装石が苦痛と絶望の果てに出す涙と絶叫 全ての希望を絶たれて絶望し悲しみに暮れる姿が 可愛くて愛おしいのです 実際、愛護派から転じた人も少なくありません」 虐待師の語る話に驚くばかりであった ***************************************************** そして更に話は続く 「私からしたら愛護派は実装石が持つ一面しか見ていない というかそれしか見ようとしない人達ですね 接し方は人それぞれですから特に干渉する気はないですが 行き過ぎた愛護は目に付くところで迷惑行為をしがちですね あれではむしろ実装石への偏見と嫌悪は強くなるばかりでしょう」 確かに近年に見られる実装石を同伴しての 公共施設やインフラの利用を強く訴えているのは 他ならぬ愛護派であるが一方で それに必要な対策を軽んじているのも また愛護派なのであるのは事実である 実際愛護派によって持ち込まれた実装石による 騒動は少なからず起きているが その度にテンプレ的にウチの実装ちゃんに限って そんな事はしないとか言って 頑なに事実を認めない事が多いのだ あれでは自分達の首を絞めている様なものだろう 盲目的な行為は害悪でしかないのだ もっと言えば結果的に実装石を最も酷く虐待し 追い詰めているのは愛護派と言っても過言ではない 「もしかしたら愛護派の皆さんは本当は実装石をこれっぽっちも 愛していないのかもしれない…そう思う事があります こんな実装石を愛している自分が可愛いだけじゃないかってね 実装石はその性根も含めて本質的に醜い存在です 賢いとか愛情深いとされている個体でも それは薄っぺらい仮面を被っている様なもので 少し追い詰めただけでそれは簡単に剥がれてしまいます 所詮はその程度の生き物なんですよ」 虐待師は私の心中を見透かしたように実装石の本質を語るとニヤリと笑った ***************************************************** 「でも私やそのほかの虐待師とされる人達は そんな実装石の醜さや愚かさが大好きなんですよ 小賢しい知恵を持つくせに、それを使いこなせず 何時も自滅行為を懲りずに繰り返すその姿は滑稽でしかない だからこそ虐めたくなるのだ 自分達の主張が否定され家族愛がまやかしだと思い知らされ その愚かさと絶望を噛み締めながら苦痛に責め立てられ やがて死に至る その様は美しさすらあります だからその魅力に取りつかれ虐待師になる人が少なくないのです」 そう語る虐待師の顔はやや恍惚としていた とても理解できる境地ではないと改めて思い知らされる 「ここまで語りましたがやはり一般にはあまり お勧めできる趣味ではないと私は考えています 実装石に惹かれる者は愛護にしろ虐待にしろ やはり心のどこかが壊れているからだと思います よく言われる実装石に関わる者は全て不幸になるというのは 間違いではないとね 魅入られないようにするためにも極力関わらない方が良いでしょう 私から話せることは以上です」 これ以上語る事はないと言われ 私はICレコーダーを停めて お礼を述べて約束していた報酬を渡しその場を去った 今回の取材は色々と考えさせられるものがあった 物事の本質とそれに対する接し方は単純ではない事を 改めて知らされた気がした                     終