ニンゲンさんワタチ達を飼って欲しいテチィ〜! 此処、黒髪市は、年間平均降水量が鹿児島県に次いで全国で2位。 とにかく、雨の日が多い。 特に梅雨時と夏場は......。 今日も例によって大雨である。 公園に住む実装達は、毎日段ボール箱のおうちの交換に追われている。 トイレなどは、実装が入れない様に入口を通ると、コロリ液が散布される様になっている。 つまり屋根のある所には住めない状態で、毎日水浸しになった段ボール箱を、毎日古紙回収業者が設置しているコンテナーに取りに行かないとならない。 それも早く取りに行かなければ、頑丈で分厚いのは既に無いし、仮に保冷段ボールや防水性の高い段ボールが有ったなら、奪い合いの大ゲンカになるのである。 「よく雨が降るデス!今日も段ボール箱を取りに行かなければならないデス!」 そう言って、5匹の仔実装を育てている親実装が、ため息を吐いて段ボールを取りに行った。 実装達が、段ボール箱の入っているコンテナーの行くと、大きなホロ付トラックが停車していた。 「何デス!邪魔デス!」そう怒って数匹の実装が「デス!デス!」と抗議に行った。 「最近、段ボール箱の数がやけに減ったと思ったら、てめえらが盗んでやがったのか!」 段ボールを回収しに来た、コンテナーの持ち主がそう言って怒って手に持っていた尖った手鍵を振り回して抗議に来た実装を突き刺して投げ飛ばした。 「デジャーアア!」≪パキン!≫ 「デッスゥ〜!」≪パキン!≫ 「痛い!痛い!助けてぇ〜!」 「血が!血が!止まらないデスゥ〜!」 致命傷を負わなかった実装も深い怪我をして、地面を転げまわって苦しんだ。 「こ......怖いデス!今日は、段ボールは諦めるデス!」遅れて来て惨状を見た実装は、そう言って引き揚げた。 5匹の仔実装を持つ親は、スーパーのゴミ捨て場から、廃棄商品を盗んで家路についたが......。 「ワタシも精神的に限界デス!渡りをしようにもあの仔達は、「動きたくないテチ!」「しんどいテチ!」 そう言って言う事を聞かないし、折角持って帰ったごはんも、ワタシの分も残してくれずに全部食べてしまう。 本当にあほらしいデス!あんな出来損ないを育てるのは!出来損ないは見捨ててワタシは、ワタシの生きたい様に生きるデス!」 そう言って仔実装達を見捨てて道を出た途端、「デ!」後ろから来た軽トラに踏み潰されて死んでしまった。 5匹の仔実装達は、孤児になってしまった。【とは言っても親に捨てられたんだから一緒か!】 ................................................................................................................................................ 周囲が暗くなって来ても親実装は、おうちに帰って来ない。 「ママ!どうしたテチ!」 「帰って来ないテチ!」 「御飯未だテチ!」 「糞ママ!早く帰って来い!テチ!」 「ワタチ達見捨てられたテチ?それとも事故にでも遭ったテチ?」【鋭い両方当たり】 と5匹の仔実装は、怒る者、心配する者に分かれた。 雨に濡れてふにゃふにゃになった段ボール箱で仔実装は仕方なく寝た。 雨はそのまま2日間降り続いた。 3日目は晴れた。その日は、日曜日。【仔実装に曜日の観念は無いのだが......。】 「良かったテチィ〜!やっと雨が止んだテチィ〜!」 結局、ママは帰って来なかった。 【当然だろう既に死んでいるんだから】 だが、水浸しの公園には、ニンゲンさんの子供は遊びには来ない。 「愛護派のニンゲンさん達御飯を持って来てくれるテチかぁ〜!」 「誰も来ないテチィ〜!」 「ニンゲンさぁ〜ん!御飯を持って来てテチ〜!」 「ママが居ない今、飼い実装にして貰えたら何とかなるテチが!」 5匹は、そんな事をぼやいていた。 当然、他のおうちの実装達は餌を探しに出ていた。 餌の取り方を知らない仔実装は、公園の前でニンゲンの通るのを待っていた。 「今日は晴れたか!良かった。明後日は、兵庫県に転勤だ!これで黒髪ともお別れか!久しぶりに明子とも会える!」 〇〇重工神戸工場に転勤になる男が、これから世話になる工場の人に挨拶の手土産を買って帰る途中に公園の前の道を通った。 しかも結婚前提で付き合っている彼女に2年ぶりに会える。 ≪結婚式の段取りの話もしないといけない!≫そんな事を思いながら男は、仔実装の前を通ったら......。 「あっ!ニンゲンさんテチ!」 「ニンゲンさ〜ん!」 5匹は、男の前に横1列に並んで整列した。 「な......何だ!お前ら!」 「ニンゲンさん!ワタチ達を飼って欲しいテチ!」 「御飯も欲しいテチ!」 「手に食べ物持っているテチ!」 「食べ物頂戴!」 「飼って欲しいテチ!」 「な......何だいきなり!お前達を何で飼わないといけないんだ!」 「ワタチ達ママが居ないテチ!」 「3日も何も食べていないテチ!」 「おうちもびしょびしょテチ!」 「飼って貰わないと死んでしまうテチ!」 「俺には、関係無いだろ!何故、飼ってとなるんだ!自分の力で生きる事が出来なければ死ぬしかないだろう!」 「ニンゲンさん、そんな事言わないテチ!ワタチ達は、死にたく無いテチ!生きたいテチ!」 「ニンゲンさん!見捨てないでぇ〜!」 「飼って!」 「飼ってぇ〜!」 「お願いテチィ〜!」 ≪うわぁ〜!厄介だなぁ〜!こんな生ゴミみたいな奴らと関わりたくないし!纏わり着かれても困る! 投糞されても嫌だ!早く寮に帰らないと運送屋が荷物を取りに来るしなぁ〜!此処は適当にあしらった方が良さそうだ!≫ 「悪い!今急いでいるんだ!一旦家に帰ってから又来る!その時にゆっくり話を聞くよ!これをやるよ!」 コンビニから買って来たクリームパンとアンパンを仔実装に渡しその場を早足で去った。 仔実装達は、おうちに入って直ぐに菓子パンを頬張った。 他の成体実装に見つかれば、奪われる事が解っていたからだ。 「お......美味しいテチ!アマアマが口の中を広がって行くテチ!」 「最高に美味しいテチィ〜!糞ママの持って帰って来る御飯より遥かに美味しいテチ!」 「甘いテチィ〜!」 「最高の気分テチィ〜!」 「飼いになったら毎日御馳走テチィ〜!」 そんな事を言いながら、食事を終えた仔実装達は、公園の入り口でひたすら待っていた。 自分達は、≪あのニンゲンさんに飼って貰える。ワタチ達を向かい入れる為におうちを掃除してくれているテチ!ここはじっと待つテチ!≫そう思いながら、ひたすら待った。 「妹ちゃん!もう日が暮れたテチ!取り敢えずおうちに帰って待ってみるテチ!ニンゲンさんが、此処まで迎えに来てくれるテチ!」 長女がそう促すと姉妹全員が、雨水でベタベタの段ボールに入って待つ事にした。 「もしかしたら明日ニンゲンさんが迎えに来るかも!今日は遅いから明日ニンゲンさんが来てくれるテチ!」 5匹は、そう思いながら眠った。 次の朝、仔実装は、朝早くから公園の前に出て男を待っていた。 「来ないテチィ〜!」 「ニンゲンさぁ〜ん!どうして来てくれないテチィ〜!」 そんな事を言いながら次の日も日が暮れた。 「本当にニンゲンさん来てくれるテチ?」 「だ......大丈夫テチ!あのニンゲンさんは、優しい目をしていたテチ!必ず来るテチ!」 長女は、半信半疑だったが、自分に言い聞かせる様に妹にそう言った。 次の日、男が黒髪市を去る日が来た。 「いよいよ出発だ!」男はそう言って、寮を後にした。 ≪久しぶりに彼女に会える!≫ 浮き浮き気分の男は当然、仔実装との約束等忘れてしまっていた。 そして、うっかり公園の前を通ってしまった。 「あっ!ニンゲンさんテチ!」 「ニンゲンさぁ〜ん!」 自分の目の前に5匹の仔実装が並んだ。 「ニンゲンさん、待っていたテチ!」 「昨日、どうして来てくれなかったテチ?」 「ワタチ達心配したテチ!」 「飼い実装になるテチ!」 「美味しいアマアマ頂戴テチ!」 ≪しまったぁ〜!此奴等の事うっかり忘れていた。どう切り抜けようか!≫ そんな事を考えながら男は、口から出まかせに......。 「いやあ〜!君達を迎え入れるのに、家を綺麗にしなくちゃいけなかったんだ!汚いままだと駄目だろう! それにこれから君達のごはんを買いに行くんだ!帰りに此処に寄るよ!食べ物何が良い!」 「ワタチは、昨日貰ったアマアマのパンテチ!」 「お寿司が良いテチ!」 「ステーキが食べたいテチ!」 「コンペイトウが欲しいテチ!」 「焼き鳥が食べたいテチ!」 各自、欲しい物を買って来て欲しいと要求した。 「じゃあ!もう少し待ってね!」 そう言って男はその場を離れた。 「ふう!一時はどうなるかと思ったぜ!上手く騙せたようだ!この街には、もう帰って来ないし!誰が、糞蟲なんか飼うか! しかし、実装という生物はつくづく厚かましいぜ!」 そう言いながら切符を買って駅のホームに入った。 「お姉チャ!良かったテチィ〜!美味しいごはんも用意してくれるテチィ〜!」 「良かったテチ!あのニンゲンさんを信用して良かったテチ!」 「飼いテチ!飼いテチ!」 「夢の飼い実装テチ!」 「ほっぺをつねったテチ!痛いテチ!これは本当の事テチ!」 仔実装は、自分達の夢が叶うと心浮き浮きだ。 男が居る駅のホームに電車が到着した。 男は、騙された仔実装を眺めながら行こうと、わざわざ仔実装のいる公園側の椅子に座った。 電車が発車して少し走ると公園が見えて来た。 騙された5匹の仔実装は、男の歩いて行った方向を見て、まだか、まだか、とウロウロしている。 男は、こみ上げる笑を堪えて「面白れぇ〜!こんな虐待方法もありだな!もう2度と会う事もねぇのによ!」 時間がどんどん過ぎて行った。 「二……ニンゲンさん遅いテチねぇ〜!」 「御飯未だテチィ〜!」 「お寿司!」 「ステーキ!」 「コンペイトウ!」 そんな気楽な事を言いながら、5匹は、お腹を空かせて、帰って来る事の無い男をひたすら待った。 いくらバカな仔実装でも夜になっても男が来なければ、騙された事に気付くだろう。 2日も餌を食べて居ないのだから体力的にも限界に近い。 もし、腹を空かせた成体実装見つかれば、喰われてしまう可能性も大いにある。 しかし、男に騙された事に気付いた時、仔実装達の生きるだけの気力は、無くなってしまうだろう。 仔実装達の命はもう風前の灯である。   FIN 「