※人間と実装石の会話は全てリンガル使用済みとしてお読みください。  その虐待派の男は特殊な嗜好を持っていた。 他の虐待派にありがちな、バールでの殴打などの直接的攻撃を好まない。 男が好むのは、実装石を火だるまにして、その踊り狂う様を楽しむことだった。  その実装石は、他の飼い実装とは違っていた。 実装石でありながら、他の同属を虐待することに何の良心の呵責も感じない。 だからといって糞蟲化しているわけではなく、飼い主に対してはどこまでも従順であり、実装石としての分を弁えていた。 その実装石が主人の完璧な下僕たらんとするのは、全て主人への絶対的な忠誠心からであった。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------  ワタシの名前はプロメテウス。 ゴシュジンサマの忠実な飼いジッソウだ。  かつてはアイゴハのゴシュジンサマに飼われていたが、ある日突然公園に捨てられ、野良ジッソウに服と髪を奪われて禿裸にされた挙句 磔にされてカラスに体を啄まれていたところを今のゴシュジンサマに拾われた。  今のゴシュジンサマはジッソウに火をつけて焼き殺すのを何よりの楽しみにしているという、ギャクタイハとよばれるニンゲンさんだ。 けど、ワタシにとっては新しいおフクを与えてくれたうえ、カツラを作ってカミを元に戻してくれた大オンジンでもある。 ワタシはゴシュジンサマのためなら、他のジッソウをジゴクに引きずり込むのに何の後ろめたさも感じない。  今、ワタシは口をきくことができない。 もちろんギャクタイで口を縫いつけられたわけでもないし、ゴシュジンサマにそうしろとメイレイされたわけでもない。 ただ、ジブンでそうしなければならないとハンダンしただけだ。  このごろゴシュジンサマのごキゲンが悪い。 といっても、いつもキゲンが悪いわけではなく、ワタシたちジッソウを見るとフキゲンになる。 そのリユウは分かっていた。 ワタシたちの話す声がお気にめさないのだ。 「おいプロメテウス、公園行くぞ」 「……(コクリ)」  ムゴンでうなずき、ゴシュジンサマに持ち上げられてジテンシャのカゴに乗せてもらう。 カゴの中にはケイタイ用のバーナーと、センタンが波うったように曲がったトング――ニンゲンさんがコウエンでゴミを拾うときに使うハサミが入れられていた。 ああ、今日もやっぱり“アレ”をやる気なんだ……  おウチの近くにあるコウエンに着くと、ゴシュジンサマはさっそくバーナーでトングのセンタンを真っ赤になるまであぶり始めた。 ターゲットになるアワレなジッソウたちはこれからナニが起こるかも知らず、ノンキにデスデス言いながらそのへんを歩いている。 こいつらは前のシュウゲキをマヌガれたやつらか、そのときはまだ仔ジッソウだったので見逃されたやつがオトナになったのだろう。 前回ゴシュジンサマに“処置”をほどこされたやつらは、たぶん数日もしないうちに飢えてパキンしたはずだ。 「さて……今日もやるか。家の近所でデスデス言われたら気になって楽しめんしな。少なくともあと2ヶ月は黙っててもらわないと」  ゴシュジンサマはそう言うと、近くにいた成体ジッソウのアタマを捕まえて持ち上げた。 ジッソウはこれからナニをされるのかも知らずに、「デ? ニンゲンさん何の用デス? もしかしてワタシを飼いジッソウにしたいデスゥ?」などとカッテなことを言っている。  ゴシュジンサマはジッソウの言葉をムシして、その口を焼けたトングで横からはさんだ。 たちまち口の周りのソシキが焼かれ、あたりにコゲくさいニオイがたちこめる。  ―――――― ジュキュゥゥゥゥゥゥゥ……………… ―――――― 「ブッギュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!! (デッギャァァァァァァァ!!!!!)」  “処置”されたジッソウがジメンに転がされる。 その口はカンゼンにヨウチャク(溶着)されてしまっていて、まるでカレー○ンマンのように“〜〜〜”型になっていた。 「ンブゥーーーッ! ブズゥゥゥゥッ!!!」  鼻は開いているので息はできるが、これでもうナニもしゃべることはできないだろう。 モノを食べられなくなるので数日もすれば死んでしまうだろうが、ゴシュジンサマのモクテキはあくまで『ジッソウの口をきけなくすること』なので、この場では殺されない。 ゴシュジンサマはまた他の成体ジッソウを捕まえ、目の前でころがっているマヌケと同じ“処置”をしていた。  ゴシュジンサマがなぜこんなことをするのか。 それは、ちょっと前に始まったTVアニメをキモチよくごラン(覧)になるためである。  ワタシたちジッソウはコトバを話すと、かならずゴビ(語尾)が『〜デス』になる。  そしてゴシュジンサマがこよなく愛するアニメ――――『戦姫○唱シンフ○ギア』にも、ワタシたちジッソウと同じく、ミドリのおフクを着て『〜デス』というしゃべり方をするキャラがトウジョウするのだ。 いつもならゴシュジンサマはワタシたちのゴビ(語尾)など気にもとめないのだが、これをごラン(覧)になっている間はワタシたちの声が気になってしょうがないのだという。 せっかく大好きなアニメを見ているのに、そのキャラが出てくるたびにワタシたちジッソウのスガタがアタマにチラついてイライラするらしい。 「この糞蟲どもが……切○ちゃんと同じ色の服を着て、同じ語尾で喋るなど万死に値する! 万死に値するぅ!」  ゴシュジンサマはいつの間にかひょっとこのお面をかぶり、焼けたトングをカチカチしながらジッソウたちを追いかけていた。 いつもならここで「おちついてくださいデス! 何歳デスか!」とツッコまなければならないところだが、今はそれをやるとワタシまでゴシュジンサマに殺されてしまう。  ワタシは長い間ゴシュジンサマのごキゲンをうかがってきたので、すぐにゴシュジンサマがそのキャラを気に入っていることに気付き、そのアニメのホウソウが終わるまでイッサイ口を開かないことに決めた。 ゴシュジンサマもそれを察してくれたらしく、ワタシがジェスチャーでしか意思をツタえなくなったことをほめてくれたが、1つだけ心から良かったと思うことがある。 それはゴシュジンサマのトナリでイッショにそのアニメを見ていたとき、チョウシに乗って「〜デース♪」などどそのキャラのマネをしなくて良かったということだ。 もしもそんなマネをしていたら、きっと今ごろヤツザキよりもオソロシイ目にあっていたにちがいない。 「オラァ! 次に口をギョウザの皮みてぇにされたい奴はどいつだぁーっ!」  ―――――― ジュジュゥゥゥゥゥゥゥ……………… ―――――― 「ブギィィィィィィィ!!!!!」 「喋る実装石はいねぇがぁ゙ーーーっ!!!」  ―――――― ジュォォォォォォォ……………… ―――――― 「ギュブブブブブ……!!!」  ゴシュジンサマはまるでアキタのナマハゲみたいにジッソウたちを追いつめ、次から次へとその口を焼いている。 今のジテンで4話までホウソウが終わっているので、あと2ヶ月はこのサンゲキ(惨劇)が続くだろう。 それまでワタシも口を開かないよう、ガンバって気を張っていないといけない。 なにせワタシたちジッソウは、走っただけで「デッス、デッス」と声が出てしまうのだから…… -END- ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------  あとがき  今回は短いお話ですが、シンフ○ギアを見ていたらつい書きたくなってしまった。後悔はしていない。 そもそも実装石に熱傷を与えることにこだわる彼が今回の主人公として選ばれたのは、実装石視点の語り部としてプロメテウスが便利だったからという理由でしかないんですよね。 後に飢え死にするのは確定としても、本当は口の溶着ごときで済ませるつもりはなかったんですよ。 作中で主人公に『鬼○の刃』の37歳さんみたいな格好させましたが、現実に実装石が存在していたら作者は多分同じ格好をしてもっと酷いことをしていると思います。 おのれ実装石……翠星石だけでなく切ちゃんまで貶めよるとは……万死に値する! 万死に値するぅ!(部屋の中で模造刀を振り回しながら) 現在、次回作も執筆中です。 久々の新主人公が登場する予定ですのでお楽しみに。